冒頭の解説で、認知行動療法の開発に対するアーロン・ベックの顕著な貢献を検証する、としていますが、
それ以上に、認知行動療法の背景となる考え方がはっきり示された本です。読み終わって、だいぶすっきり
した(整理できた)ように思います。
臨床実践で治療者は、一方では指示的になって構造を規定することと、他方ではクライアントが選択し、責
任を負うことができるようにすることの「バランス」が必要である。この場合のバランスとは、話すときと聞
くとき、対峙する時と引き下がる時、提案する時とクライエント自身に提案させるときを、見極めることであ
る…、と、これは認知行動療法にかぎらず、カウンセリング全般に通じることです。
変容に向けた最初のステップは、ソクラテス式の対話に従って、否定的な思考から「脱中心化」することで
ある。…「自分は本当にそう考えているのだろうか?」という変化のプロセスが始まることがある。本人が元
来の考えに疑問を抱き始めると、通常は自然にその考えを評価するようになる。評価によってその考えに効果
がないことや役に立たないことが示唆されると、続いて、本人がその考え方を修正あるいは変化させる可能性
が高くなる…と、質問によって、クライアントさんの中で起ることを示しながら、カウンセラーは自ら発した
質問によって、いまクライアントさんの中で何が起こっているかを観察し続けなければならないこと(ただ回
答を待っていれば良いのではない)ことを教えてくれます。
認知療法の特徴であるソクラテス式質問法は、アセスメントの情報を「聞き出すためのものではなく」、ク
ライエントに自分自身の考え方を認識するように促すために…この目的は、認知について議論することではな
く、自らの中に相対的なものがあることに気づき、その妥当性や有用性を検証する気になるように…と、この
質問法を使う時に意識していなければならないことを教えてくれます。
ホームワークの実施では、次の二つの方略的要素が強調される。一つは、般化が確実に行われるように認知
行動療法で意図的に系統的なアプローチをとること。もう一つは、治療での進歩をクライエントの日常生活に
応用させることである…と、カウンセラーとして、しっかり目的や効果を理解した上でホームワークを出すこ
とを要求しています。
ブリュインは、さまざまな障害に対する認知的および行動的介入の相対的な寄与度を把握するためには、
まず、「状況によってアクセス可能な」知識と「言語によってアクセス可能な」知識を区別し、次に、特別な
障害と全般的な障害を識別する必要があると唱えている。つまり洞察の場合は、内省的な技法が有効である。
他方、状況によってアクセス可能な知識を喚起するために特定の種類の刺激が必要になる、…と認知的なアプ
ローチをとるか、行動的アプローチをとるかの考え方の指針を与えてくれます。
認知療法の治療者はクライエントに自分なりの判断を下してもらいたいと心から望んではいるものの、その
ことをむやみに主張すれば抵抗を招く恐れもあることを認識しておく。認知再構成が最も効果を発揮するのは
クライエントが自らの否定的な思考に「完全に没頭している」ときである、…クライエントが自らの否定的な
思考について「心が揺らいでいる」ときは、治療者が介入してもクライエントの内面的な議論に引きずり込ま
れるだけで役に立たない可能性がある、…とは、カウンセリングの流れやクライアントさんの状態を読まずに、
むやみやたらと技法を適用することへの警告になっています。
ベックは非適応的な思考のことを「非合理な」信念と言わないようにしている。その人の人生の一時期に
おいては、こうした信念が意味をなしていたためである…という言葉からは、「信念」に対する敬意と人が
変化していくときの漸進さ(過去からの連続性)をたいせつにしなければならないことがわかります。
いままで読んだ本にも書いてあったにもかかわらず、技法に囚われるあまり、私自身が読み落としてしま
っていたのか、試行錯誤しながら認知行動療法を使う中でたまたまその背景を明らかにしてくれるこの本に
出会ったのかが定かではありませんが、とても勉強になりました。
いまさらながらですが、…手技や技法を真似ただけではカウンセリングの実践の場では通用しないのです。
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ベックの認知療法 (認知行動療法の新しい潮流3) 単行本 – 2016/6/3
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認知行動療法(CBT)の開発者アーロン・ベックの業績と生涯を振り返りながら、CBTが確立するまでのプロセスと内容のエッセンスを概観する。ベックの見解がCBTへの他のアプローチとどのように異なるのか、精神分析療法や人間主義的療法など他の治療形態との類似点や相違点などについても概説する。
- 本の長さ240ページ
- 言語日本語
- 出版社明石書店
- 発売日2016/6/3
- 寸法13.4 x 2.3 x 19.5 cm
- ISBN-104750343595
- ISBN-13978-4750343594
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商品の説明
著者について
ウィンディ・ドライデン(Windy Dryden)
イギリス、ロンドン生まれ。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ名誉教授。カウンセリングや心理療法で40年以上のキャリアを誇り、学術と実践の両方の分野で幅広い活躍をしている。
フランク・ウィルス(Frank Wills)
認知療法士として英国ブリストルで独立開業するかたわら、実地指導者、研修指導員として後進の育成にあたっている。また、ニューポートのウェールズ大学でも個人指導教員を務めている。
大野 裕(おおの・ゆたか)
一般社団法人認知行動療法研修開発センター理事長、ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
1950年、愛媛県生まれ。慶應義塾大学教授などを経て現職。日本認知療法・認知行動療法学会理事長。認知療法活用サイト「こころのスキルアップトレーニング」監修。著作に『はじめての認知療法』(講談社、2011)、『こころが晴れるノート』(創元社、2003)、『認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアルガイド』(星和書店、2010)、『不安障害の認知療法』(監訳、明石書店、2013)、『〈正常〉を救え──精神医学を混乱させるDSM-5への警告』(監訳、講談社、2013)、「認知行動療法の新しい潮流シリーズ」(監修、明石書店)ほか多数。
坂本 律(さかもと・りつ)
カナダ、トロント在住。1966年、愛知県生まれ。米国サザン・コネチカット州立大学大学院心理学修士課程修了。心理測定や精神療法を中心とした心理学、教育学の分野の翻訳、執筆に携わる。主な訳書に、『世界自殺統計――研究・臨床・施策の国際比較』(マシュー・K・ノック他著、明石書店、2015)、『不安障害の認知療法――科学的知見と実践的介入』(デビッド・A・クラーク他著、大野裕監訳、明石書店、2014)、『診断・対応のためのADHD評価スケール』(ジョージ・J・デュポール他著、市川宏伸、田中康雄監修、明石書店、2008)、『Conners 3 日本語版マニュアル』(金子書房、2011)、『ヨガを科学する』(晶文社、2013)などがある。
イギリス、ロンドン生まれ。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ名誉教授。カウンセリングや心理療法で40年以上のキャリアを誇り、学術と実践の両方の分野で幅広い活躍をしている。
フランク・ウィルス(Frank Wills)
認知療法士として英国ブリストルで独立開業するかたわら、実地指導者、研修指導員として後進の育成にあたっている。また、ニューポートのウェールズ大学でも個人指導教員を務めている。
大野 裕(おおの・ゆたか)
一般社団法人認知行動療法研修開発センター理事長、ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
1950年、愛媛県生まれ。慶應義塾大学教授などを経て現職。日本認知療法・認知行動療法学会理事長。認知療法活用サイト「こころのスキルアップトレーニング」監修。著作に『はじめての認知療法』(講談社、2011)、『こころが晴れるノート』(創元社、2003)、『認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアルガイド』(星和書店、2010)、『不安障害の認知療法』(監訳、明石書店、2013)、『〈正常〉を救え──精神医学を混乱させるDSM-5への警告』(監訳、講談社、2013)、「認知行動療法の新しい潮流シリーズ」(監修、明石書店)ほか多数。
坂本 律(さかもと・りつ)
カナダ、トロント在住。1966年、愛知県生まれ。米国サザン・コネチカット州立大学大学院心理学修士課程修了。心理測定や精神療法を中心とした心理学、教育学の分野の翻訳、執筆に携わる。主な訳書に、『世界自殺統計――研究・臨床・施策の国際比較』(マシュー・K・ノック他著、明石書店、2015)、『不安障害の認知療法――科学的知見と実践的介入』(デビッド・A・クラーク他著、大野裕監訳、明石書店、2014)、『診断・対応のためのADHD評価スケール』(ジョージ・J・デュポール他著、市川宏伸、田中康雄監修、明石書店、2008)、『Conners 3 日本語版マニュアル』(金子書房、2011)、『ヨガを科学する』(晶文社、2013)などがある。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ドライデン,ウィンディ
イギリス、ロンドン生まれ。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ名誉教授。カウンセリングや心理療法で40年以上のキャリアを誇り、学術と実践の両方の分野で幅広い活躍をしている
ウィルス,フランク
認知療法士として英国ブリストルで独立開業するかたわら、実地指導者、研修指導員として後進の育成にあたっている。また、ニューポートのウェールズ大学でも個人指導教員を務めている
大野/裕
一般社団法人認知行動療法研修開発センター理事長、ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。1950年、愛媛県生まれ。慶應義塾大学教授などを経て現職。日本認知療法・認知行動療法学会理事長。認知療法活用サイト「こころのスキルアップトレーニング」監修
坂本/律
カナダ、トロント在住。1966年、愛知県生まれ。米国サザン・コネチカット州立大学大学院心理学修士課程修了。心理測定や精神療法を中心とした心理学、教育学の分野の翻訳、執筆に携わる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
イギリス、ロンドン生まれ。ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ名誉教授。カウンセリングや心理療法で40年以上のキャリアを誇り、学術と実践の両方の分野で幅広い活躍をしている
ウィルス,フランク
認知療法士として英国ブリストルで独立開業するかたわら、実地指導者、研修指導員として後進の育成にあたっている。また、ニューポートのウェールズ大学でも個人指導教員を務めている
大野/裕
一般社団法人認知行動療法研修開発センター理事長、ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。1950年、愛媛県生まれ。慶應義塾大学教授などを経て現職。日本認知療法・認知行動療法学会理事長。認知療法活用サイト「こころのスキルアップトレーニング」監修
坂本/律
カナダ、トロント在住。1966年、愛知県生まれ。米国サザン・コネチカット州立大学大学院心理学修士課程修了。心理測定や精神療法を中心とした心理学、教育学の分野の翻訳、執筆に携わる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 明石書店 (2016/6/3)
- 発売日 : 2016/6/3
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 240ページ
- ISBN-10 : 4750343595
- ISBN-13 : 978-4750343594
- 寸法 : 13.4 x 2.3 x 19.5 cm
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