わかりやすく論理的かつコンパクト。得るものが多く、かつ現代の状況にダイレクトに影響しているので、本書で得たことをどう活かすかが肝心と感じた。
著者は古プロテスタンティズム(ルター派等)に「保守主義」の源流をみる。また、新プロテスタンティズム(バプテスト派等)を「リベラリズム」の源流とする。
そして、それらは宗教という特定セクターのみではなく、現代でも社会の基層となって政治や生活のあらゆる場面で息づいているのであり、前者の典型を現代ドイツ社会に、後者の典型をアメリカ社会にみる。
ちょっと冷静に考えれば、これが目から鱗かつ驚天動地のことだと思い当るだろう。
人々は己の理性や論理的思考に基づいて、保守主義やリベラリズムといった態度を選択しているのではなく、(宗教を基層とした)文化的アイデンティティに則って、言い替えれば生まれ育った環境から「自然と」選択するのだと言っているのである。
保守主義は思想というよりはある種の傾向・態度のことだから、文化的アイデンティティと直結するのはある程度わかるとしても、
リベラリズムは、カントやヘーゲルらによって打ち立てられた近代哲学、人間理性の概念に基づいた人間中心主義をプリンシプル(第一の原理)として尊重する態度であって、言い換えれば、それがどんなに当たり前となり一般化しても、あくまでも哲学的思考の帰結として選択するべき態度であると、少なくとも外形的には思える。
しかし、著者によれば、新プロテスタンティズムは一つの政治的支配領域(領主の領土)に1つの宗教しか許されなかった、統治権力と一体化したカトリックやルター派から独立し自由な信教を得ることを求めて声を上げた人々の運動から起こったもので、宗教的情熱から始まって文化的同一性や政治的態度へと浸透していったものだというのである。
これは恐るべきことを言っているように思える。
人間は、結局論理的・理性的な言説を理解することによって正義を選び取るのではなく、宗教的(無宗教が支配的な日本では文化的)同一性によって、自らの態度を決めるのだということであり、ある意味、人間理性・論理的思考の敗北を言っているのである。
この結論をどう受け止めるのかは、その人それぞれであろうが、インパクトが大きいことは事実であろう。
かつてのマルクス主義のように論理とユートピア性をもったドクトリンでないと、二度と再び、社会を根底から変えるようなパラダイムシフトは起き得ないのかもしれない。
それをどう捉えるべきか。短時間で読めるのに大いに考えさせられる本。
プロテスタンティズム - 宗教改革から現代政治まで (中公新書) (日本語) 新書 – 2017/3/21
深井 智朗
(著)
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本の長さ221ページ
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言語日本語
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出版社中央公論新社
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発売日2017/3/21
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ISBN-104121024230
-
ISBN-13978-4121024237
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
1517年に神聖ローマ帝国での修道士マルティン・ルターによる討論の呼びかけは、キリスト教の権威を大きく揺るがした。その後、聖書の解釈を最重要視する思想潮流はプロテスタンティズムと呼ばれ、ナショナリズム、保守主義、リベラリズムなど多面的な顔を持つにいたった。世界に広まる中で、政治や文化にも強い影響を及ぼしているプロテスタンティズムについて歴史的背景とともに解説し、その内実を明らかにする。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
深井/智朗
1964年生まれ。アウクスブルク大学哲学・社会学部博士課程修了。Dr.Phil.(アウクスブルク大学)、博士(文学)京都大学。聖学院大学教授、金城学院大学教授を経て、東洋英和女学院大学人間科学部教授。著書、『超越と認識』(創文社、2004年、中村元賞受賞)、『十九世紀のドイツ・プロテスタンティズム』(教文館、2009年、日本ドイツ学会奨励賞)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1964年生まれ。アウクスブルク大学哲学・社会学部博士課程修了。Dr.Phil.(アウクスブルク大学)、博士(文学)京都大学。聖学院大学教授、金城学院大学教授を経て、東洋英和女学院大学人間科学部教授。著書、『超越と認識』(創文社、2004年、中村元賞受賞)、『十九世紀のドイツ・プロテスタンティズム』(教文館、2009年、日本ドイツ学会奨励賞)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 中央公論新社 (2017/3/21)
- 発売日 : 2017/3/21
- 言語 : 日本語
- 新書 : 221ページ
- ISBN-10 : 4121024230
- ISBN-13 : 978-4121024237
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 64,496位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 111位キリスト教入門
- - 116位キリスト教一般関連書籍
- - 304位中公新書
- カスタマーレビュー:
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カスタマーレビュー
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2017年10月19日に日本でレビュー済み
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2018年7月21日に日本でレビュー済み
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新書に本来期待されるのは、その道の専門の学者の高度な研究成果を一般向けにわかりやすく教えてくれることだと思います。
その意味で、この本は新書の鑑ともいうべきものです。巻末の参考文献に詳細な外国語文献が紹介されていることからもわかるとおり、著者は数多くの文献を渉猟し、プロテスタンティズムについてみごとな分析と展望を与えてくれます。
特に、プロテスタントにはルター派やカルヴァン派といった著者が古プロテスタンティズムと呼ぶ宗派と、後に信仰の自由を求めてアメリカ大陸にわたったピューリタンとの本質的な相違点を指摘し、その観点からプロテスタンティズムの各宗派が近代から現代までに及ぼしている思想的影響を明らかにしています。
おそらく、この本はこれから中公新書の古典として長く読まれ続けていくと思います。
その意味で、この本は新書の鑑ともいうべきものです。巻末の参考文献に詳細な外国語文献が紹介されていることからもわかるとおり、著者は数多くの文献を渉猟し、プロテスタンティズムについてみごとな分析と展望を与えてくれます。
特に、プロテスタントにはルター派やカルヴァン派といった著者が古プロテスタンティズムと呼ぶ宗派と、後に信仰の自由を求めてアメリカ大陸にわたったピューリタンとの本質的な相違点を指摘し、その観点からプロテスタンティズムの各宗派が近代から現代までに及ぼしている思想的影響を明らかにしています。
おそらく、この本はこれから中公新書の古典として長く読まれ続けていくと思います。
ベスト500レビュアー
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プロテスタントにはなぜ、長老派とか再洗礼派などの派閥がいろいろあるのだろうと疑問に思っていたので、本書を読んでみた。そもそも、ルターはカトリックへの対抗運動を始めたつもりではなかった。贖猶状でもうけるローマ教皇に疑問を呈しただけなのに、それが社会に渦巻く矛盾に火をつけてしまった。例えばルターに刺激されてドイツ農民戦争が起きている。ルターがこの運動を弾圧することに賛成した点に彼の真意が伺える。ただし、ルターは剃髪をやめ、しかも妻帯するなどの行動でカトリックの戒律に別れを告げた。彼の教説で大事な事は、全て聖書に基づいて誰でもが司祭になれるのだ、と言った点にある。それゆえ、彼は聖書をドイツ語に翻訳したわけだ。そして、この教説が様々な解釈を許すプロテスタントに分派が多い事を説明する。
プロテスタント諸派は、それでも大きく2つに分けることができる。教会と支配体制が結びついた古プロテスタンティズムとそれを否定した新プロテスタンティズムである。前者は、ルター派やカルヴィン派、英国国教会であり、後者はそれを否定、特に英国国教会を批判するピューリタンの人びとだ。古派では、幼児洗礼により、人は自動的に生地の教会に組み込まれるが、新派では、主体的に洗礼を受ける事により教会を選ぶ。だから、新派の町に教会はひとつではなく、いろいろある。ある種のピューリタンの人びとは、やがてそこから逃れアメリカに移住した。皮肉な事に、体制と教会の接続を批判した長老派や会衆派が、新天地ではより自由を求める洗礼派を抑圧したのだ。ただし、新派の人たちの価値観こそが、アメリカニズムを形成した。私的な団体が自由な世界で競争し、結果的に勝利した側が神の意にかなう事を証明できたことになる。国家からの束縛を嫌い、未だに武装民兵の理念を認めるアメリカは、この観点からこそ良く理解できる。しかし、その影で古派的な精神もアメリカに息づいている事が指摘される。それは、公立小学校での、あるいは大統領就任式での神への宣誓にあらわれている。体制との結合を敵視する新プロテスタントのはずなのに、ここには古プロテスタントの精神が生き延びている。ちなみにルター派が多いドイツでは(特に北部)、教会が税を徴収する事(実際の業務は税務署が代行)と公教育での宗教教育の義務づけが憲法に書かれている。
本書を読んで大いに啓蒙された。複雑な流れを良く整理したわかりやすい記述だったが、いくつか気になる点もあった。例えば、ニーチェは教会の体制を批判しただけでキリスト教全体を否定したのではない、と書かれているが(P154)、彼の著作を読めば、とてもそうは思えない。また、プロテスタントのうち自由教会に所属する人口200万人はドイツの全人口の2%であると書かれているが(P149)、そうだとするとドイツは人口1億人という事になる。現実的には8100万人なので、数字があわない。また、メルケルがルター派牧師の娘である事の指摘の意味合いについてだが(P162)、体制のトップである事は古プロテスタント的であるが、彼女の政策理念は新プロテスタント的に見えるのだがどうだろう。
プロテスタント諸派は、それでも大きく2つに分けることができる。教会と支配体制が結びついた古プロテスタンティズムとそれを否定した新プロテスタンティズムである。前者は、ルター派やカルヴィン派、英国国教会であり、後者はそれを否定、特に英国国教会を批判するピューリタンの人びとだ。古派では、幼児洗礼により、人は自動的に生地の教会に組み込まれるが、新派では、主体的に洗礼を受ける事により教会を選ぶ。だから、新派の町に教会はひとつではなく、いろいろある。ある種のピューリタンの人びとは、やがてそこから逃れアメリカに移住した。皮肉な事に、体制と教会の接続を批判した長老派や会衆派が、新天地ではより自由を求める洗礼派を抑圧したのだ。ただし、新派の人たちの価値観こそが、アメリカニズムを形成した。私的な団体が自由な世界で競争し、結果的に勝利した側が神の意にかなう事を証明できたことになる。国家からの束縛を嫌い、未だに武装民兵の理念を認めるアメリカは、この観点からこそ良く理解できる。しかし、その影で古派的な精神もアメリカに息づいている事が指摘される。それは、公立小学校での、あるいは大統領就任式での神への宣誓にあらわれている。体制との結合を敵視する新プロテスタントのはずなのに、ここには古プロテスタントの精神が生き延びている。ちなみにルター派が多いドイツでは(特に北部)、教会が税を徴収する事(実際の業務は税務署が代行)と公教育での宗教教育の義務づけが憲法に書かれている。
本書を読んで大いに啓蒙された。複雑な流れを良く整理したわかりやすい記述だったが、いくつか気になる点もあった。例えば、ニーチェは教会の体制を批判しただけでキリスト教全体を否定したのではない、と書かれているが(P154)、彼の著作を読めば、とてもそうは思えない。また、プロテスタントのうち自由教会に所属する人口200万人はドイツの全人口の2%であると書かれているが(P149)、そうだとするとドイツは人口1億人という事になる。現実的には8100万人なので、数字があわない。また、メルケルがルター派牧師の娘である事の指摘の意味合いについてだが(P162)、体制のトップである事は古プロテスタント的であるが、彼女の政策理念は新プロテスタント的に見えるのだがどうだろう。
2018年7月27日に日本でレビュー済み
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日本ではキリスト教にあまり馴染みがないので, 宗教改革によってカトリックからプロテスタントがわかれて, この2つが存在するというイメージだろう. 実際にはプロテスタントのくくりの中には様々な諸派が含まれており, 考え方が異なる点が多い.
本書ではプロテスタンティズムの歴史と, 主に古プロテスタンティズム・新プロテスタンティズムがドイツ・アメリカの社会構造にどのように影響を与えているか, ということを簡潔に説明している.
日本では宗教としてのプロテスタントとの関わりはそれほどないことが多いと思われる. しかし社会構造においてはプロテスタンティズムの影響を大きく受けていることから, プロテスタンティズムについて知ることは社会構造を考える上では重要であると思われ, そういった時の最良の入門書のうちの1冊であろう.
本書ではプロテスタンティズムの歴史と, 主に古プロテスタンティズム・新プロテスタンティズムがドイツ・アメリカの社会構造にどのように影響を与えているか, ということを簡潔に説明している.
日本では宗教としてのプロテスタントとの関わりはそれほどないことが多いと思われる. しかし社会構造においてはプロテスタンティズムの影響を大きく受けていることから, プロテスタンティズムについて知ることは社会構造を考える上では重要であると思われ, そういった時の最良の入門書のうちの1冊であろう.
2017年5月12日に日本でレビュー済み
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保守主義とリベラリズムの対比と、ローマカトリックとプロテスタント教会の対比がどう関連しているのか、
ドイツでは教会税を国が取るがそれはなぜか等、長い間不思議に思っていた事柄が、
「宗教改革は中世に属する」とのトレルチの命題のご紹介に触れ、一気に疑問氷解する思いであった。
最近のトランプ政権誕生の思想的深層にも迫る、コンパクト、かつ素晴らしい内容の本だと思った。
それと同時に、信仰と歴史、信仰と文化と言った深い問題を提起する書物でもあると感じた。
ドイツでは教会税を国が取るがそれはなぜか等、長い間不思議に思っていた事柄が、
「宗教改革は中世に属する」とのトレルチの命題のご紹介に触れ、一気に疑問氷解する思いであった。
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それと同時に、信仰と歴史、信仰と文化と言った深い問題を提起する書物でもあると感じた。
2018年11月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
分かりやすかった、背景がわかった、歴史は生きている。
クリスチャンではあるが、こう言う視点で勉強する機会がなかった。
キリスト教は固定化された古い宗教ではなく、今の時代にも人間のために神がイエスを遣わされた生きた教えである。
頑なな人間集団がその時代ごとに歪めて歴史を作っていたことがよくわかる。
クリスチャンではあるが、こう言う視点で勉強する機会がなかった。
キリスト教は固定化された古い宗教ではなく、今の時代にも人間のために神がイエスを遣わされた生きた教えである。
頑なな人間集団がその時代ごとに歪めて歴史を作っていたことがよくわかる。