本書は主として2010年代のデジタルゲームを論じている、ということになっており一見射程が短いように思われる。が、実際には、ここ10年近くで起きたスマートフォンの普及とそれに伴うSNSの拡大が、いかにしてゲームを変質させゲーム体験を拡張したかについて広い観点から議論されており、むしろ激動の時代の中の変化をうまくすくい上げることに成功したと言える。
本書では4つの観点からゲームについて論じている。
まず第1部のゲームとシステムでは、死にゲー、バトルロイヤル系STG、放置ゲー、ゲーム化作品(メディアミックスの一環として作成されたゲーム)などを対象に、プレイヤーのゲーム体験に求める快楽を満たすためにどのようなゲームシステムが考案・実装されてきたのかについて論じられている。
第2部のゲームと身体では、ゲーム実況やPRY、艦これ、FGOを用いて、プレイヤーの眼差しがどこを向いているのかについて考察されている。VTuberのゲーム実況に見られる「ロールプレイを演じながら何かをプレイする」ことの意味や、タッチスクリーンを介してプレイヤーがインタラクティブにストーリーを鑑賞することで得られる体験の新しさについて述べている。
第3部のゲームと社会では、ディズニーによるメディアミックスや、ゲーミフィケーションなどが語られている。具体的な個々のゲームというより、より広く社会とゲームの関係性についてゲーマーゲート事件などを通して論じている。
第4部のゲームとゲームでは、ゲームそれ自身がプレイヤーのゲーム体験そのものをコントロールするために導入したメタなシステムについて言及している。実績解除システムやMODなどのシステムが、プレイヤーのゲーム体験を拡張したかについて触れている。
レビューを書いてる私自身のゲーム体験としては、主にコンシューマー機のビッグタイトルがメインであり、ポケモン(第4世代以外、)モンハンシリーズ(MHP2G以前の全タイトル)、BF(3,4)、StarCraft2、ADV(ひぐらしなど)、メルティブラッドなどをプレイしてきた。おそらくゲームにある程度親しんできた20代だと似たような感じではないだろうか?執筆陣は20代から30代の若手批評家であり読んでいて非常に親近感を覚えた。本書で主として取り上げられているのは、ソーシャルゲームとインディーゲームだが、コンシューマ機のゲームについても注釈などで触れられている。
疑問がある点としては、パチンコについての議論についての議論である。パチンコの議論では、それまでで取り上げられてきたゲームとパチンコの差異などにあまり言及されないまま演出や他分野との関わりについて触れられているので違和感を覚えた。これは私自身が、パチンコはそれまでで語られてきたデジタルゲームと同質のものというよりは、単なる違法ギャンブルとしか捉えていないためである。が、パチンコをほとんどしたことがない人間にとっては、パチンコはそのようなものではないだろうか?できればそのような偏見へのケアがあると嬉しかった。
私個人の感想としては、第3部の『不幸な未来も「ゲーム」が作るのか?―「ゲーム」と「政治」に関する批判的ノート』と第4部『ModderはCODEと戯れる―ゲームのアーキテクチャとMOD論』が特におすすめである。MOD論などはプロアクションリプレイなどに親しんだ人たちは特に楽しめるのではないかと思う。本書は2010年代にフォーカスして広く論じているので、どれかは頷けるものがあるのではないかと思うので、ゲームについて考えたい人はとりあえず手に取ってみるのが良いのではないだろうか?
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。
