『ブリューゲルの世界――目を奪われる快楽と禁欲の世界劇場へようこそ』(マンフレート・ゼリンク著、熊澤弘訳、パイ インターナショナル)は、私のようなピーテル・ブリューゲル1世の熱烈なファンにとっては堪らない一冊です。
部分核大図によって、ブリューゲル作品の魅惑的なディテイルをたっぷりと愉しむことができるからです。
●「バベルの塔」の部分――
「ピーテル・ブリューゲルが細密画家としての訓練を受けたに違いないことは、ロッテルダムにある『バベルの塔』バージョンの部分図からも明らかである。私たちは、構図の一貫性を失わせずに、建築や人間の行動の極めて小さな細部までも読み取りやすくしているこの事実に、ただただ驚嘆の眼差しを向けることしかできない。さらによく見ると、これらの細かいニュアンスが、実は非常に粗い自由な筆致で描かれている、という矛盾にも気づく」。
●「雪中の東方三博士の礼拝」の部分――
「降り積もる雪の中を歩く感覚をここまで完全に表現した作品は他にはない。寒さに耐えて服に包まり身をかがめながら村人は風と雪に耐えている。絵画層の最も表層部分に、その風と雪が白のアクセントとして力強く描かれている」。
●「死の承知」の部分――
「富める者にも貧しい者似も、老いにも若きにも、力のある者にも弱い者にも、死は皆にやってくる。ブリューゲルの『死の勝利』ほど、この時代を超えた真実が力強く、容赦なく視覚化されているものはほとんどない。うつむいている枢機卿が、骸骨によって地獄へと連れ去られる様子が描かれている。悪魔の優しそうなポーズと神父を待ち受ける運命との間の深い皮肉なコントラストは見事なものだ。硬貨のはいった樽は、物質的なものが価値を持たなくなったという事実を浮き彫りにしている」。
●「雪中の狩人」の部分――
「モティーフや形式を自由に用いた視覚的なリズムは、ブリューゲルの特徴的な技法である。この図では、意気消沈した狩人たちの姿が、人間同様に肩を落としている犬たちの姿にも繰り返されている。ブリューゲル作品にはよくあることだが、この狩人たちは後ろ姿で描かれている。顔の見えない人の姿によって、これほど多くの人間性を伝えることができる画家はほとんどいない」。
●「野外の婚礼の踊り」の部分――
「この部分には、信じがたいほどのエネルギーと『生きる喜び』が満ちている。両手を腰に当てて見せるような軽妙なポーズが非常に巧みに表現されている。対照的な色彩と官能的な身体表現は、根底にあるエロティックな刺激を高めている。その男が帽子の下から妖艶なダンスパートナーに見せている、ずるそうな目つきについても想像の余地はほとんどない。この二人がくっつくのかどうかが問題ではない。いつか、ということが問題なのだ」。この場面の女性の官能的に踊る姿勢は、私の胸を激しく揺さぶります。
この本に出会えた幸運に感謝したい気持ちです。
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ブリューゲルの世界-目を奪われる快楽と禁欲の世界劇場へようこそ- 単行本(ソフトカバー) – 2020/12/11
マンフレート・ゼリンク
(著),
熊澤 弘
(翻訳)
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拡大で見る!《バベルの塔》の画家ブリューゲルの58作品!
16世紀にオランダで活躍したブリューゲル(父)。ヒエロニムス・ボスの奇怪な図像と風景美を学び、名も無き民の日常ドラマを細密に描きました。本書は多数の拡大図版で、その並外れた技術・知性・ディテールに託された意味と関連性を読み解く、ブリューゲルに最も迫る1冊です。
「…たとえ頑固でしかめ面の鑑賞者であっても、彼の絵を前にすると、少なくとも口角が上がるかにやりとせずにはいられない。」(『カーレル・ファン・マンデル「北方画家列伝 注解」』
----------------------------
〈ディテールを8つのテーマから見る〉
・世界を見る
・騒々しい世の中
・美徳と罪
・怪物と魔物
・喜びに満ちた収穫
・目に見える機知
・顔 そして 感情
・生きる歓び
----------------------------
〈日本語版の特典〉
・画家だらけのブリューゲル一族をわかりやすく図解した家系図
・ブリューゲル(父)の生涯を追った年表
・ブリューゲルとフランドル絵画をより深く知るための日本語参考文献
・関連画家、技法の用語解説
16世紀にオランダで活躍したブリューゲル(父)。ヒエロニムス・ボスの奇怪な図像と風景美を学び、名も無き民の日常ドラマを細密に描きました。本書は多数の拡大図版で、その並外れた技術・知性・ディテールに託された意味と関連性を読み解く、ブリューゲルに最も迫る1冊です。
「…たとえ頑固でしかめ面の鑑賞者であっても、彼の絵を前にすると、少なくとも口角が上がるかにやりとせずにはいられない。」(『カーレル・ファン・マンデル「北方画家列伝 注解」』
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〈ディテールを8つのテーマから見る〉
・世界を見る
・騒々しい世の中
・美徳と罪
・怪物と魔物
・喜びに満ちた収穫
・目に見える機知
・顔 そして 感情
・生きる歓び
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〈日本語版の特典〉
・画家だらけのブリューゲル一族をわかりやすく図解した家系図
・ブリューゲル(父)の生涯を追った年表
・ブリューゲルとフランドル絵画をより深く知るための日本語参考文献
・関連画家、技法の用語解説
- 本の長さ304ページ
- 言語日本語
- 出版社パイインターナショナル
- 発売日2020/12/11
- ISBN-104756253784
- ISBN-13978-4756253781
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
あのバベルの塔もネーデルラントの諺も農民の婚宴も!こんなに拡大して見られる本は他にない!
著者について
マンフレート・ゼリンク:1962年生まれ。ブリュッヘ美術館館長(2001-2014)を経て、アントワープ王立美術館館長(2014-2020)。2007年にスペインでこれまで知られていなかったブリューゲルの油絵を発見。さらに2012年にも、これまで未公開だったドローイングをブリューゲルのものと結論づけ、ネーデルラント絵画研究に大きな貢献をした第一線で活躍する美術史家。
熊澤 弘:東京藝術大学大学美術館准教授。東京藝術大学美術研究科修士課程修了。東京藝術大学大学美術館常勤助手/助教、武蔵野音楽大学音楽学部音楽環境運営学科をへて、2017年4月より現職。 オランダを中心とした西洋美術史、博物館学を専門とし、日本国内外の美術展覧会企画にかかわる。主な担当/監修展覧会としては「線の巨匠たち――アムステルダム歴史博物館所蔵素描・版画展」(2008年、東京藝術大学大学美術館他)、「Japans Liebe zum Impressionismus(日本が愛した印象派)」展(2015年、ドイツ連邦共和国美術展示館)、「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展」(2017年、東京都美術館他)など。著書に『レンブラント 光と影のリアリティ』(角川書店 2011年)、『脳から見るミュージアム アートは人を耕す』(中野信子と共著、講談社現代新書 2020年)、訳書に『ヒエロニムス・ボスの世界』(小社 2019年)など。
熊澤 弘:東京藝術大学大学美術館准教授。東京藝術大学美術研究科修士課程修了。東京藝術大学大学美術館常勤助手/助教、武蔵野音楽大学音楽学部音楽環境運営学科をへて、2017年4月より現職。 オランダを中心とした西洋美術史、博物館学を専門とし、日本国内外の美術展覧会企画にかかわる。主な担当/監修展覧会としては「線の巨匠たち――アムステルダム歴史博物館所蔵素描・版画展」(2008年、東京藝術大学大学美術館他)、「Japans Liebe zum Impressionismus(日本が愛した印象派)」展(2015年、ドイツ連邦共和国美術展示館)、「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展」(2017年、東京都美術館他)など。著書に『レンブラント 光と影のリアリティ』(角川書店 2011年)、『脳から見るミュージアム アートは人を耕す』(中野信子と共著、講談社現代新書 2020年)、訳書に『ヒエロニムス・ボスの世界』(小社 2019年)など。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ゼリンク,マンフレート
1962年生まれ。ブリュッヘ美術館館長(2001‐2014)を経て、アントワープ王立美術館館長(2014‐2020)。2007年にスペインで、これまで知られていなかったブリューゲルの油絵を発見。さらに2012年にも、これまで未公開だったドローイングをブリューゲルのものと結論づけ、ネーデルラント絵画研究に大きな貢献をした第一線で活躍する美術史家
熊澤/弘
東京藝術大学大学美術館准教授。東京藝術大学美術研究科修士課程修了。東京藝術大学大学美術館常勤助手/助教、武蔵野音楽大学音楽学部音楽環境運営学科をへて、2017年4月より現職。オランダ美術史を中心とした西洋美術史、博物館学を専門とし、日本国内外の美術展覧会にかかわる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1962年生まれ。ブリュッヘ美術館館長(2001‐2014)を経て、アントワープ王立美術館館長(2014‐2020)。2007年にスペインで、これまで知られていなかったブリューゲルの油絵を発見。さらに2012年にも、これまで未公開だったドローイングをブリューゲルのものと結論づけ、ネーデルラント絵画研究に大きな貢献をした第一線で活躍する美術史家
熊澤/弘
東京藝術大学大学美術館准教授。東京藝術大学美術研究科修士課程修了。東京藝術大学大学美術館常勤助手/助教、武蔵野音楽大学音楽学部音楽環境運営学科をへて、2017年4月より現職。オランダ美術史を中心とした西洋美術史、博物館学を専門とし、日本国内外の美術展覧会にかかわる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : パイインターナショナル (2020/12/11)
- 発売日 : 2020/12/11
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 304ページ
- ISBN-10 : 4756253784
- ISBN-13 : 978-4756253781
- Amazon 売れ筋ランキング: - 123,757位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 120位外国人画家の本
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
5つ星のうち4.5
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ベスト50レビュアー
8人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2021年8月15日に日本でレビュー済み
これは画集ではない。
単にブリューゲルの絵を見たいという人には、もしかしたら向かないかもしれない。
なぜなら、ブリューゲルのタブローと素描については一通り知っているということを前提に書かれているからだ。
(一応、取り上げられる58点の絵のリストは画集形式で巻頭に、1ページに掲載された2点を除き、ページに2点ずつ掲載展示されていて、振られた作品番号も見やすくて全体像を参照できひじょうに便利だ。)
そして、ブリューゲルの作品にこれまで付されてきた言説についても十分に知っている人でも、筆者の、まるで「私と並んで一緒に鑑賞しよう」というような簡潔な「コメント」も、必要十分であり、「とにかく見て、自分で味わって、考えてみて」と言われているようで心地よい。
(つまり、「論文」は各自が完成させるのだ。)
そして、僕のような画家にとっては、長年惹かれていた理由、気になっていた技法上の疑問、油彩とテンペラの併用の問題、ブリューゲルの、まるで現代のマスキングフィルムを使ったかのようなエッジのきいた塗り分けと、最小限の筆で絵を完成させる見事な筆致について、ひじょうに参考になるディテールに溢れている。
また、ペン素描も並列して取り上げているところも慧眼である。
ブリューゲルに限らず、この時代の素描とタブローは、今よりも近くて境界の薄いものだった。
実際、タブローの下地には、ペンで描かれた素描と同様の、もしくはさらに精密な下素描を描くのが普通だったから、ペンの素描を見ることでタブローの描画時の感覚を追体験することができると思う。
ブリューゲルに専門的なレベルの関心を寄せるファンにとっては「永久保存版」であり、この時代にこの美しい印刷で見られるのは幸運だと思う。
読むというより見る物なので、できれば無理をしてでも新品を買って大切にしたいものだ。
単にブリューゲルの絵を見たいという人には、もしかしたら向かないかもしれない。
なぜなら、ブリューゲルのタブローと素描については一通り知っているということを前提に書かれているからだ。
(一応、取り上げられる58点の絵のリストは画集形式で巻頭に、1ページに掲載された2点を除き、ページに2点ずつ掲載展示されていて、振られた作品番号も見やすくて全体像を参照できひじょうに便利だ。)
そして、ブリューゲルの作品にこれまで付されてきた言説についても十分に知っている人でも、筆者の、まるで「私と並んで一緒に鑑賞しよう」というような簡潔な「コメント」も、必要十分であり、「とにかく見て、自分で味わって、考えてみて」と言われているようで心地よい。
(つまり、「論文」は各自が完成させるのだ。)
そして、僕のような画家にとっては、長年惹かれていた理由、気になっていた技法上の疑問、油彩とテンペラの併用の問題、ブリューゲルの、まるで現代のマスキングフィルムを使ったかのようなエッジのきいた塗り分けと、最小限の筆で絵を完成させる見事な筆致について、ひじょうに参考になるディテールに溢れている。
また、ペン素描も並列して取り上げているところも慧眼である。
ブリューゲルに限らず、この時代の素描とタブローは、今よりも近くて境界の薄いものだった。
実際、タブローの下地には、ペンで描かれた素描と同様の、もしくはさらに精密な下素描を描くのが普通だったから、ペンの素描を見ることでタブローの描画時の感覚を追体験することができると思う。
ブリューゲルに専門的なレベルの関心を寄せるファンにとっては「永久保存版」であり、この時代にこの美しい印刷で見られるのは幸運だと思う。
読むというより見る物なので、できれば無理をしてでも新品を買って大切にしたいものだ。
殿堂入りNo1レビュアーベスト10レビュアーVINEメンバー
イタリア・ルネサンスを彩った画家の生涯は、これまで多く紹介されてきましたが、ネーデルラントなどの北方ルネサンスの画家の情報や出版は少ないのが現状です。
ブリューゲルの個々の作品は、たまに美術館で観賞することがあるのですが、本書のように、ブリューゲルの生涯や、画題や画風の変遷、受けた影響などを知らないこともあり、詳しい解説と作品をテーマ別に詳しく紹介した出版物は理解を大いに助けるものでした。
「美徳と罪」と「怪物と魔物」に関心を持ちました。ヒエロニムス・ボスの有名な『悦楽の園』との共通点も見出せますが、ブリューゲルがこの世で怠惰やその罪を描いている点が、両画家のもっとも大きな相違ではないでしょうか。
ヒエロニムス・ボスの作風の影響を受けているのはすぐに理解できました。ボスの後継者を目指していたようですね。
「反逆天使を討つ守護天使ミカエル」の部分絵を見ても驚きました。ブリューゲルってこのような作品も描いていたのですね。これらのように寓意を扱った作品が好評だったようで、モティーフのユニークさは見事なものでした。農民画家と呼ばれた作風との大きなギャップにも驚いています。豊かな色彩とファンタジーともとれる作風に惹かれました。
ブリュッセル時代では、代表作の一つである宗教画「バベルの塔(表紙、64pは部分)」を残しています。ローマのコロッセオのイメージを置き換えたと言われており、この作品は細密画としても世界有数の作品です。一部を大きくして掲載していますが、細部を鑑賞するのには難しいほど細かく描かれていました。
「雪中の狩人」「農民の婚礼」などの代表作を見ていると農民画家としての作風が実感できます。ブリューゲルと言えば、これらの農民を主題にした作品がまず脳裏に浮かびますので。
「十字架を担うキリスト」や「東方三博士の礼拝」の宗教画においても、他の画家のモティーフとは異なり、群衆の人々に関心があるのが見てとれました。他の画家の描き方と比較して、より多くの人々が描きこまれていきますので、ブリューゲルの関心のあり方が伺えました。
2017年7月に、大阪・中之島にある国立国際美術館で「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-」を鑑賞した時の思い出が過りました。
これだけ詳しく調査して解説することの大変さが伝わりました。高名な美術史家による研究の奥深さが伝わる内容です。
オールカラーで詳しい解説、ブリューゲルが描いた油絵の全作品の掲載は貴重です。ブリューゲルの啓蒙書の決定版だと高く評価しています。
ブリューゲルの個々の作品は、たまに美術館で観賞することがあるのですが、本書のように、ブリューゲルの生涯や、画題や画風の変遷、受けた影響などを知らないこともあり、詳しい解説と作品をテーマ別に詳しく紹介した出版物は理解を大いに助けるものでした。
「美徳と罪」と「怪物と魔物」に関心を持ちました。ヒエロニムス・ボスの有名な『悦楽の園』との共通点も見出せますが、ブリューゲルがこの世で怠惰やその罪を描いている点が、両画家のもっとも大きな相違ではないでしょうか。
ヒエロニムス・ボスの作風の影響を受けているのはすぐに理解できました。ボスの後継者を目指していたようですね。
「反逆天使を討つ守護天使ミカエル」の部分絵を見ても驚きました。ブリューゲルってこのような作品も描いていたのですね。これらのように寓意を扱った作品が好評だったようで、モティーフのユニークさは見事なものでした。農民画家と呼ばれた作風との大きなギャップにも驚いています。豊かな色彩とファンタジーともとれる作風に惹かれました。
ブリュッセル時代では、代表作の一つである宗教画「バベルの塔(表紙、64pは部分)」を残しています。ローマのコロッセオのイメージを置き換えたと言われており、この作品は細密画としても世界有数の作品です。一部を大きくして掲載していますが、細部を鑑賞するのには難しいほど細かく描かれていました。
「雪中の狩人」「農民の婚礼」などの代表作を見ていると農民画家としての作風が実感できます。ブリューゲルと言えば、これらの農民を主題にした作品がまず脳裏に浮かびますので。
「十字架を担うキリスト」や「東方三博士の礼拝」の宗教画においても、他の画家のモティーフとは異なり、群衆の人々に関心があるのが見てとれました。他の画家の描き方と比較して、より多くの人々が描きこまれていきますので、ブリューゲルの関心のあり方が伺えました。
2017年7月に、大阪・中之島にある国立国際美術館で「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-」を鑑賞した時の思い出が過りました。
これだけ詳しく調査して解説することの大変さが伝わりました。高名な美術史家による研究の奥深さが伝わる内容です。
オールカラーで詳しい解説、ブリューゲルが描いた油絵の全作品の掲載は貴重です。ブリューゲルの啓蒙書の決定版だと高く評価しています。