この本は、他の著書でもかなり多くの参考文献に上がっている為、知っていても読んだことが無い人が結構多くいると思う。ちなみに私もそうで、解説本を手掛かりにして、再度熟読したのは最近のことだ。普通の感想やレビューなら他の人も書いているし、あと再読して色々と初読した時に気づかなかったことが出てきたので、それを書いてみた。
誤解を恐れずに言えば、行動経済学は「ユダヤコミュニティ」の為の「心理学」である。ダニエル・カーネマンのこの著書は、ダン・アリエリーを筆頭に、ユヴァル・ノア・ハラリ、ジャレド・ダイヤモンド、クリストファー・チャブリス、 ダニエル・シモンズなど、有名なアシュケナージ・ユダヤ人学者の人々にかなり多く引用されているので、他の著書を辿ってこの本を読んだ人が少なからずいるはずだ。
私的にはこの本を「実用」させる為と考えれば、お世辞にも読みやすいとは思えない。内容も試行錯誤の跡があるにしても、もっと分かりやすく書けた様に見受けられるのだ。通読する分には良いが、これを学問的に研究するとなるとかなりの「偏り」があるのに気付いた。以前、スタンレー・ミルグラム(ちなみ彼もユダヤ人だ。結局、正教授になれなかったらしい。映画「
アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発 [DVD
]」参照)「
服従の心理
」のことを調べていたら、この著書でも参考にしていた節をようやく見つけた。けれど参考文献リストから「意図的」に外されていた。「あの有名な実験」という曖昧さを残してである。
これは何なのだ?と正直思った。引用、参考文献リストをしっかりと掲載している著者でも、通称「アイヒマン実験」のことはタブー視している。確かに世間から言わせると「不快な」実験であるし、著者自身が建国時のイスラエルの「軍にいた」経歴からすると「触れたくない」バイアスもあったとしか思えない。詳しくは映画「
アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発 [DVD
]」を見るといい。著者も、イスラエル建国時のイデオロギーの「虚構」に、気づいているかもしれないが、恐らくこの「思い」を墓の下まで持っていくつもりだろう。だから私はこの本を手放しで評価できない。
一方で同じユダヤ人のアーサー・ケストラーは、若き時にシオニズム運動に参加していたことを後に後悔していて、「
ユダヤ人とは誰か―第十三支族・カザール王国の謎
」を書いた後に自殺している(公式には病気を理由とあるが、かなり怪しい)。ハンナ・アーレントも「
エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告
」を書いた後、ドイツのアカデミズムから、そしてユダヤ人の友人からも、猛烈に批判され距離を置かれている。映画「
ハンナ・アーレント [DVD
]」を見る限りでもわかる。自らの頭で意識的に考えることがとても大切である。このことは意識では当然と思う反面、人は無意識では「思考停止することを好む」ということがいえる。この本はその内容の分析が書いてあるが、著者本人の文章を読む限り、自らも認知バイアスの罠に嵌っていると見抜いてしまった。
この本が明快でない理由は、多分「権益」に利用されやすいからだろう。著者も大衆操作に利用されやすい内容だということを、かなり意識はしている。なぜなら悪用されれば本人の「名誉」に汚点を残すからだ。アメリカのメディアの多くは、ユダヤ人の資本家で占められている事実があるが、私は即座に「陰謀論」とかは思わない。とても複雑なコミュニティ内の「政治」が絡んでいるのが、その本質なのだと思う。
「
ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質
」「
ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質
」、「
反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方
」「
反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方
」の著書で有名なナシーム・ニコラス・タレブを友人扱いしている。タレブも以前はダニエル・カーネマンを相当買っていた様だ。膨大なアンケート資料や「政治」に食い込んでいる様を考えると、ノーベル経済学賞には「政治」が食い込んでいるのかと疑義も挟みたくなるが、証拠も無いし取り合えずやめておく(けれど「
反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方
」を読む限りで、「学際政治」的な動きを取ったカーネマンに対して、怒りを覚えて喧嘩していることがはっきり書かれていたが(笑))。
この本の内容がビジネスの分野に応用することは、もう大手の広告代理店で「実践」されている。だからこの本の内容の直接的な批判は全く意味がない。だから私はこういう「書き方」をしている。
(「
ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?
」に続く)
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