メアリー・ロバーツ・ラインハート(1958年死去)の看護婦探偵ヒルダ・アダムスシリーズの中編2編『バックルの付いたバッグ』(The Buckled Bag)『鍵のかかったドア』(Locked Doors)の本邦初訳。前者が第1探偵談でヒルダはもうすぐ30歳、独身。後者がその半年後。
この2編が単行本になったのは、1934年刊行の『ラインハートのクライムブック』が最初のようで、既刊長編3冊(むろん、アダムスシリーズではない)とともにこの2中編が収録された。
ヒルダ・アダムスシリーズの第1長編は『ミス・ピンカートン』(1932年)。戦後(1959年)になって、アダムスシリーズ2長編と2中編が一冊の本にまとめられた。本書はそのオムニバス本からの翻訳である。
ラインハートは実生活では医師の妻で元看護婦。
ラインハートは、「もし、わたしが知ってさえいたらHad I But Known=HIBK」というレッテルがあまりにも有名で、森英俊氏の『世界ミステリ作家事典』では本格派篇ではなく、サスペンス篇のほうに入っている。しかし、森氏はヒルダシリーズについては、「サスペンスというより、本格ミステリに近い仕上がりになっている」と書いている。乞うご期待。(正確には、この文のあとに嫌みが書かれているが、同感できないので略。)
ヒルダ・アダムスは病院勤務の看護婦で30近くなり、契約期間の終了も近くなり、次に何をするか悩んでいた。そんな時に犯罪者に胸を撃たれたパットン刑事が入院してきて、その看護をすることになる。元気になったパットンから、警察協力看護婦(実質的には侵入捜査員)になることを依頼され、捜査に関係のないことについては、看護婦の守秘義務を犯されないという条件で、パットンの依頼を引き受ける。
第1事件の『バックルの付いたバッグ』では、ヒルダはまだ看護婦寮という所に住んでいて、寮の事務職員に雇用管理をされている(またはしてもらっている)。事件は婚約者のいる娘の失踪で、5週間警察が調べたが、娘の行方は分からない。ヒルダの仕事は、表向きは娘の父親の銀行家の依頼で、家に住み込んで、心痛で衰弱してしまった母親の看護をすること。パットンの依頼はもちろん内情を探ることで、意外な展開となって・・。
第2事件『鍵のかかったドア』では、ヒルダはすでに半年で6件も事件を担当し、5件を解決している。それでも、自分はまず看護師であり、警察官としての仕事は二の次で、患者の誰一人として被害は受けていないと自負する。さすが元看護婦のラインハート、なかなかのこだわりである。ヒルダはすでに看護婦寮を出て、結構広そう(3部屋風呂付き)な独身アパートに住んでいて、依頼も直接パットンから電話がかかってくる。聖ルカ病院から四人家族の住む屋敷に派遣された看護婦が、4日で疲労困憊して辞めてしまい、家族が異様な暮らしをしており、夜になると子供部屋には外から鍵がかけられる。電話線も切られている。きっと犯罪と関係があると、警察に訴えてきた。主人は祖父の建てた大きな家に住み、会社勤めの化学者だが、使用人を全員解雇してしまい、会社からは神経衰弱を理由に二週間の休みを取り、家に閉じこもり、聖ルカ病院の派遣看護婦を雇ったのである。ヒルダは聖ルカ病院の看護婦に扮してその家に雇われ、男の子二人の世話をするが、主人もその妻も異様な暮らしをしていて、家の中で異様なことが次々と起き・・・。
私的感想
〇2編とも大変面白い本格ミステリーである。楽しく読んだ。
〇謎は第1中編は、娘の行方と失踪の理由、第2中編はこの家で一体何が起きているかである。
〇戦前に書かれたミステリーであっても、本邦初訳であるので、読者の守秘義務として、ネタばれは慎むべきだろう。しかし、ちょっとだけ書きたい。
〇謎が現代的であるかどうかということは、90年も前に書かれたミステリーの価値とは無関係であって、以下はただの驚きである。第1中編の謎は極めて現代的、第2中編の謎はウルトラ現代的である。
私的結論
〇読みましょう。
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ヒルダ・アダムスの事件簿 (論創海外ミステリ) 単行本 – 2020/5/11
M・R・ラインハート
(著),
金井真弓
(翻訳)
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看護婦探偵ヒルダ・アダムス初登場! 謎の失踪事件を追い、マーチ家に潜入したヒルダが孤軍奮闘! 初めての事件を解決に導けるのか?
- 本の長さ200ページ
- 言語日本語
- 出版社論創社
- 発売日2020/5/11
- 寸法18.8 x 12.8 x 2.5 cm
- ISBN-104846019322
- ISBN-13978-4846019327
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
ヒルダ・アダムスとパットン警視の邂逅、姿を消した令嬢の謎、閉ざされたドアの奥に隠された秘密…閨秀作家が描く看護婦探偵の事件簿!
著者について
M・R・ラインハート 1876-1958 本名メアリー・ロバーツ・ラインハート。 アメリカ、ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれ。 1896年に医師と結婚。1903年に株式市場不況の影響で生活が苦しくなり、 家計を助けようと短編小説を書き始める。 迫りくる恐怖を読者に予感させるサスペンスの技法には定評があり、〈HIBK(もしも知ってさえいたら)〉派の創始者とも称された。 晩年まで創作意欲は衰えず、The Swimming Pool(52)はベストセラーとなり、 短編集The Frightened Wife(53)でアメリカ探偵作家クラブ特別賞を受賞。 代表作の『螺旋階段』(08)は『バット』(31)のタイトルで戯曲化されている。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ラインハート,M.R.
1876‐1958。本名メアリー・ロバーツ・ラインハート。アメリカ、ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれ。1896年に医師と結婚。1903年に株式市場不況の影響で生活が苦しくなり、家計を助けようと短編小説を書き始める。迫りくる恐怖を読者に予感させるサスペンスの技法には定評があり、“HIBK(もしも知ってさえいたら)”派の創始者とも称された。晩年まで創作意欲は衰えず、The Swimming Pool(52)はベストセラーとなり、短編集The Frightened Wife(53)でアメリカ探偵作家クラブ特別賞を受賞
金井/真弓
翻訳家、大学非常勤講師。千葉大学大学院人文社会科学研究科修士課程修了。大妻女子大学大学院人間文化研究科博士課程満期退学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1876‐1958。本名メアリー・ロバーツ・ラインハート。アメリカ、ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれ。1896年に医師と結婚。1903年に株式市場不況の影響で生活が苦しくなり、家計を助けようと短編小説を書き始める。迫りくる恐怖を読者に予感させるサスペンスの技法には定評があり、“HIBK(もしも知ってさえいたら)”派の創始者とも称された。晩年まで創作意欲は衰えず、The Swimming Pool(52)はベストセラーとなり、短編集The Frightened Wife(53)でアメリカ探偵作家クラブ特別賞を受賞
金井/真弓
翻訳家、大学非常勤講師。千葉大学大学院人文社会科学研究科修士課程修了。大妻女子大学大学院人間文化研究科博士課程満期退学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 論創社; 四六版 (2020/5/11)
- 発売日 : 2020/5/11
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 200ページ
- ISBN-10 : 4846019322
- ISBN-13 : 978-4846019327
- 寸法 : 18.8 x 12.8 x 2.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 928,147位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 19,846位ミステリー・サスペンス・ハードボイルド (本)
- - 20,116位英米文学研究
- - 20,398位英米文学
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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殿堂入りベスト50レビュアー
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役に立った
2021年2月25日に日本でレビュー済み
M・R・ラインハートは、「螺旋階段」という代表作の名前のみ知っていて、どんな作家なのだろうと思っていました。本書はヒルダ・アダムス看護婦シリーズから、中編2編を訳出したもので、ミステリ作家としての気概の一端を垣間見せてくれます。
看護婦だから、重病人がいるお金持ちの家に住み込みで勤めて、その怪しい家の内情を探る。今の日本では、ほとんどあり得ないようなケースですが、昔のイギリスではあり得たのだろうと思うと、自然に読むことができます。ヒルダ・アダムスの行動が、看護婦の仕事の部分は、わりと理にかなっていると言うのか、今でも基本的には同じ面があるからだろうと思います。
ヒルダ・アダムスは、看護士だから、常に落ち着いて行動しようとします。しかし、勇んで捜査に臨んで、危うい場面に遭遇するあたりは、役回りとしては、アガサ・クリスティーのトミーとタッペンス・シリーズのタッペンスのような面もあります。トミー役は、(結婚しているわけではないけれども)ミスター・パットン(パットン警視)ですが、公的な立場なので、捜査対象の家にやたらに入り込むわけにはいかない、というわけで、ヒルダが活躍したり、危ない目にあったりするストーリーが展開します。
この本に納められた作品に関しては、伏線もきちんと効いていて(納得できるもので)、当時の社会の暗い部分も描かれているとしても、読後感としては、すっきりした印象でした。
看護婦だから、重病人がいるお金持ちの家に住み込みで勤めて、その怪しい家の内情を探る。今の日本では、ほとんどあり得ないようなケースですが、昔のイギリスではあり得たのだろうと思うと、自然に読むことができます。ヒルダ・アダムスの行動が、看護婦の仕事の部分は、わりと理にかなっていると言うのか、今でも基本的には同じ面があるからだろうと思います。
ヒルダ・アダムスは、看護士だから、常に落ち着いて行動しようとします。しかし、勇んで捜査に臨んで、危うい場面に遭遇するあたりは、役回りとしては、アガサ・クリスティーのトミーとタッペンス・シリーズのタッペンスのような面もあります。トミー役は、(結婚しているわけではないけれども)ミスター・パットン(パットン警視)ですが、公的な立場なので、捜査対象の家にやたらに入り込むわけにはいかない、というわけで、ヒルダが活躍したり、危ない目にあったりするストーリーが展開します。
この本に納められた作品に関しては、伏線もきちんと効いていて(納得できるもので)、当時の社会の暗い部分も描かれているとしても、読後感としては、すっきりした印象でした。








