世界恐慌が近づいています。アメリカの経済は粉飾であり、バブルはリーマン危機以前ほどに膨らんでいるからです。
そこで、もう一度、本書を読み直してみたいと思っています。
以下、新刊を読んだ当時書いた書評です。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
◎数学を専攻したケインズの炯眼
1936年に「雇用・利子および貨幣の一般理論」を発表したケインズは、「大学において経済学を専攻したことはない」。専攻は数学だった。経済は門外漢のケインズを一躍、経済の第一人者にさせたのが1919年末に出版した「平和の経済的帰結」(本書36ページ)
<この本の趣旨は、次のようなものだった。
「講話条約でのドイツの賠償金は、実行不可能な額であり、これはいずれヨーロッパ経済を破綻させることになるだろう。現在のドイツ人は、一生、この賠償金のために苦しい生活を余儀なくされるはずであり、それはヨーロッパの将来に必ずよくない結果をもたらす」
まさに、その後のヨーロッパ、世界情勢を的確に言い当てたものだといえるだろう。
またケインズは、「平和の経済的帰結」の中で、ドイツが近いうちに深刻なインフレに陥るということも警告している。
「ドイツに多額の賠償金を課せば、ドイツの通過価値は必然的に急落し、激しいインフレ状態になるだろう」
ということである。ドイツにハイパーインフレが起きるのは、この4年後のことになる>
◎世界恐慌はドイツから始まった
本書のこの指摘は、ケインズの炯眼から導きだされたものだ。(27ページ)
<しかし、実は当時の国際情勢の中では、ドイツが経済破綻すると、回り回ってアメリカが大火傷をするような仕組みになっていた。ほとんどの経済学者、経済官僚は、それに気づかなかったのだ。
その中で1人だけ、このことの重大性に気づき、警告を続けてきた経済学者がいる。
それが、ケインズなのである。
ケインズは、第一次大戦直後から「このままではドイツ経済は破綻する」「ドイツ経済が破綻すれば、世界経済も大きな影響を受ける」と主張し続けた。そして、1929年の交渉でも、ドイツ経済を破綻させる「ある事項」について、徹底して反対しつづけた>
本書は、「ある事項」に至る世界経済の動きを追っている。それはつまり、第一次大戦後の政治経済情勢だ。まず、1918年2月、アメリカのウィルソン大統領が議会で演説し、「無併合、無賠償、無報復」を条件に平和条約の締結を提案した。だが、休戦を受け入れたドイツに課されたのは過酷な条件だった。植民地はすべて取り上げられ、人口の10%を失い、領土の13・5%、農耕地の15%、鉄鉱石の鉱床の75%を奪われた。加えて、賠償金は税収の10数年分という途方もない額。
このとき反対したのがケインズであり、「平和の経済的帰結」が大反響を巻き起こしたのだ(34ページ)
<「ドイツがこれほどの賠償金を払うということは、桁外れの工業製品輸出をしないと不可能であり、万が一もしドイツがそれを可能にしたならば、そのときはイギリスの工業製品が壊滅しているだろう」>
だが、ドイツは莫大な賠償金を課せられ、ケインズの予言が的中した。1923年にハイパーインフレが起きたのだ。また、ケインズがせっかく提案した現実的な解決策も、受け入れらなかった。ケインズが提案したのは、「戦争による債務関係を、全部チャラにすること」と「ヨーロッパの復興のために、国際借款を実施すべき」という提案だった。
◎大恐慌へのカウントダウン
ドイツ経済の破綻が、アメリカの株式市場の大暴落につながったという本書の説明は、吟味するに値する説だ。その前提となったのが、「金の不胎化」だと説く。(41ページ)
<アメリカは第一次大戦では、本土は戦争による被害をまったく受けなかったうえに、連合国に膨大な軍需物資を売りつけ、世界一の債権国になった。
そしてアメリカには、大量の金が入ってきた。
金本位制のもとでは、金が流入すればそれだけ通貨量を増やさなければならない。(中略)
しかしアメリカは、このルールを破ったのである。
自国内でインフレが起きることを懸念し、金が流入しているにもかかわらず、通過量を増やさなかったのだ。1922年8月以降、流入した金は、連邦準備銀行の金準備に含めないようにしたのだ>
最終的に世界の金の7割以上を保有したアメリカのおかげで、世界各国で金が不足した。金本位制のもとでは、金が不足すると、その分通貨を減らさざるを得なくなり、デフレ状態となって産業が停滞、貿易も収縮する。また、カネあまりのアメリカからはヨーロッパやドイツへとマネーが流れ込んだ。それにアメリカの株式市場は加熱へと向かい、連邦準備銀行は市場を冷やそうと金利を引き上げた。その高い金利を目当てに、さらにマネーがアメリカには流入していった。
ゼロ金利の円を借りて、高金利通貨へ投資をする「円キャリー取引」と同じ構図だったのだ。そしてバブルが弾けたが、そのきっかけがドイツ経済の破綻であり、「ある事項」=「ヤング案」だったと本書は読み解く。(47ページ)
1923年にドイツで起きたハイパーインフレによって、連合国は賠償金の減額と、支払い方法を変更せざるを得なくなった。それが1923年、アメリカの金融家ドーズを委員長として打ち出された「ドーズ案」。減額とドーズ債権の発行によって、アメリカから借款し、それを賠償に当てるプランだった。
<そしてドーズ案には、さらにドイツに配慮した画期的な点があった。それは賠償金をマルクで支払うことができるるようにした点である。
これは「トランスファー保護規定」と呼ばれるものである。これまで賠償金は、マルクではなく、相手国の通貨で払うことが義務づけられていた。そのためドイツ政府は、常に大量の外貨を保有しておかなければならない。
これが、経済が復興していないドイツにとっては大きな負担になっていた。それがドイツのハイパーインフレの要因の1つにもなっていたのだ。
しかしドーズ案では、ドイツはこの負担から解放され、「決められた賠償金を自国のマルクで準備すればそれでOK」ということになった。もちろんマルクの価値が下落すれば、連合国側としては大きな損害を被る。しかしマルクの価値が下落しないように調整するのは連合国側の義務だとされたのである>
ドーズ案の「トランスファー保護規定」によってドイツ経済は急速に復旧し始めた。ところが、1929年、賠償金の総額や支払い期間を決める会議が開かれ、アメリカの実業家ヤング議長のもとで、「ヤング案」が決定された。この「ヤング案」こそが、世界恐慌をもたらした「ある事項」だったと本書。(51ページ)
「ヤング案」は「トランスファー保護規定」を廃止し、賠償金は相手国の通貨で支払えと命じたのだ。ドイツは外貨を買う必要に迫られ、連合国側はマルクの価値を維持する努力をしなくて済むことになった。結果はマルクの暴落だった。この時、ケインズは「トランスファー保護規定」の廃止に強く反対し、警告した。
<「ヤング案はたとえ短期間であれ、実行可能ということにはならないでしょう。1930年には何らかの危機が訪れても、けっして不思議ではないと思いますよ」
不幸なことに、ケインズの予言は的中してしまった。しかも1930年を待つまでもなく、その年(1929年)のうちに世界的な規模での大混乱が生じたのである。
危機はまずドイツから始まった。
ヤング案に対して、何より市場がすぐに反応した。
ヤング案の骨子が見えてきたとき、ドイツから外国資本が次々と引き揚げられていったのだ>
ドイツから引き揚げられた外国資本の多くは、アメリカの株式市場へ向かった。アメリカの市場はさらに加熱し、同時に、ドイツ経済が破綻するのではないかという情報も世界を駆け巡った。ドイツが破綻すると、賠償金をとれない英仏の戦債が巨額の不良債権と化し、アメリカの戦債も不良債権と化してしまう。当時のアメリカの戦債はGNP(当時)の約7%。
今現在、ヨーロッパ諸国で恐れられているドミノ倒しの状況が、「ヤング案」という「ある事項」の出現で現実のものとなったのだ。
事実、マルク不安が現実化し、アメリカ市場の暴落が起き、英仏の戦債が焦げ付いてしまった。そして第二次大戦への道が敷かれることになった。
◎ヒトラーはケインズ理論の優秀な実践者
世界恐慌によって、世界各国では不況対策、中でも失業問題が最大の課題となった。そしてこの問題で大きな成果をあげたのはヒトラーであり、ケインズもナチスの経済政策を正当に評価していた。(62ページ)
<ヒトラーとケインズの経済思想で共通している部分の最たるものは、経済の中でもっとも悪いものは「失業」であると捉えていたことである。
そして、すべての経済政策は「失業を減らすこと」を目的に練られるべき、という考えを持っていた。
ケインズの理論は、常に失業対策が最重要課題にされている。(中略)
また、1933年7月に行なわれた帝国地方長官会議でヒトラーはこうも言った。
「われわれのなすべき課題は、失業対策、失業対策、そしてまた失業対策だ。失業対策が成功すれば、われわれは権威を獲得するだろう」>
◎ヒトラーとケインズはマネーゲームを批判
さらに、ケインズとヒットラーに共通する見逃せない点は、両者が「マネーゲーム」を批判していたことだ。(154ページ)
<ケインズも、ヒトラーやナチスの経済閣僚も、第一次大戦後の国際経済の混乱の原因の1つに、マネーゲームがあったと考えたのである。
ケインズは、国際金融システム案の中で、次のようなことを述べている。
「戦前の制度には、見逃してはならないもう1つの欠点があった。それは逃避、投機または投資目的での資金の海外送金、および受領も自由放任に委ねられたことである」>
リーマン・ショックは、巨額のマネーの規制緩和から始まった。それは不動産の高騰を招き、カードローンを膨らませ、投機のためのデリバティブやレバレッジ金融が猖獗を極めるまでになった。本書を読めば、歴史が繰り返されつつあること、つまり、世界恐慌はこれからが本番だということが想像できるはずだ。
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ヒトラーとケインズ(祥伝社新書203) (祥伝社新書 203) 新書 – 2010/6/1
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大恐慌から脱却するため各国は必死の模索を続けたが、いち早く経済を回復させたのはドイツだった。失業率33%という破綻状況をヒトラーが解決したのは奇跡とされているが、矢継ぎ早に打ち出した画期的な政策群は、結果的にケインズ理論を積極的に応用したものであることが明らかになっている。
ナチスはケインズ理論の正しさを実証した唯一の実例として後世に名を残したということになる。アウトバーンや住宅建設、都市再開発で最悪期からわずか2年でドイツを復興させるが、これらの事業は赤字財政の中で多額の国債を発行して行なわれたものだったのだ。
なぜドイツだけが大恐慌を抜け出せたのかを考えると、ヒトラーとケインズの判断の正しさに目を開かれる!
ナチスはケインズ理論の正しさを実証した唯一の実例として後世に名を残したということになる。アウトバーンや住宅建設、都市再開発で最悪期からわずか2年でドイツを復興させるが、これらの事業は赤字財政の中で多額の国債を発行して行なわれたものだったのだ。
なぜドイツだけが大恐慌を抜け出せたのかを考えると、ヒトラーとケインズの判断の正しさに目を開かれる!
- 本の長さ216ページ
- 出版社祥伝社
- 発売日2010/6/1
- ISBN-104396112033
- ISBN-13978-4396112035
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「大英帝国はナチスを見習え」と、ケインズは言った。―なぜドイツだけが3年弱で世界大恐慌から脱出できたのか?―「国による有効需要の創造」の劇的効果を検証する。
著者について
1067年生まれ。塾講師、出版社勤務などを経てライター活動を始める。歴史や経済の裏側に焦点を当てて話題作を執筆。特にナチスについては、ライフワークとして研究を重ね、『ナチスの発明』『ヒトラーの経済政策』(祥伝社新書)などがある。他に『ワケありな国境』『戦前の日本』など。『ヒトラーの経済政策』は斬新な視点が新鮮で、広く読まれた。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
武田/知弘
1967年生まれ。福岡県出身。西南学院大学経済学部中退。塾講師、出版社勤務などを経て2000年からライター活動を始める。歴史の裏側、経済の裏側などをテーマに執筆している。特にナチスについては、ライフワークとしている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1967年生まれ。福岡県出身。西南学院大学経済学部中退。塾講師、出版社勤務などを経て2000年からライター活動を始める。歴史の裏側、経済の裏側などをテーマに執筆している。特にナチスについては、ライフワークとしている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 祥伝社; 新書判版 (2010/6/1)
- 発売日 : 2010/6/1
- 新書 : 216ページ
- ISBN-10 : 4396112033
- ISBN-13 : 978-4396112035
- Amazon 売れ筋ランキング: - 266,911位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 246位祥伝社新書
- - 275位経済思想・経済学説 (本)
- - 1,600位経済学 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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VINEメンバー
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アウトバーン建設等が有効需要の創出策であったことは比較的よく知られていますが、経済政策をめぐり、ケインズとヒットラーの間にこれほどまでに深い関連があったとは正直驚きでした。個人的な親交はなくても、二人は明らかに同時代人であり、ケインズは適度の距離を保ちながらヒットラーの経済政策(具体的には天才的な銀行家シャハトの方針)には終始好意的であったようですね。
ヒットラーについては一昔前の我々は強い嫌悪感を持つように教え込まれているので、どうしても本書を手に取るのは抵抗があるかもしれませんが、政治と経済政策は別々に考えた方が理解力が深まります。ヒットラーに一貫した明確な経済政策があったわけではなく、政権前半にはケインズの手法そのままのやり方が徹底的に実行され、米国のニューデール政策と良い比較対照をなします(もっとも彼の主著はその後数年して発刊)。後者の効果が実際には限定的であったわりには教科書では好意的に喧伝され過ぎ、ヒットラーの完全雇用等の実現は一般に知られていません。開戦前にドイツはほぼ完全雇用を達成したのに、独米とも戦争によって完全雇用が達成されたと誤解されているのです(戦争によって完全雇用を達成したのは米のみ)。
本書は図解も入れて経済学初心者でも非常にわかりやすく説明があり、見やすさ・読みやすさの点では申し分ありません。読み進むにつれ、20世紀初頭の国際情勢がいくら敗戦国とはいえドイツにとっていかに可哀そうなくらい徹底的に過酷なものであったか(とくにフランスのドイツへの強烈な憎悪心は常軌を外す)、米国発の世界恐慌とドイツ経済の破綻がいかにつながっていたか手に取るようにわかります。
末尾を見れば、本書の参考資料には日本語ばかりで原文一次資料にあたっていないという一部の批判は新書ということを考えれば的外れです。逆に日本の経済学者の方々の研究水準が意外に高く(本書の種本の1つは金沢大学の村上氏の著作?)、日本人学者の成果のすそ野が広いかなと考えた方が健全です。経済学は難解な数学を駆使しつつも見かけほど厳密な学問ではありませんから、細部よりも大局観を大切にした方がよいし、本書によって一般読者は伝統・偏見にとらわれない視野の広がりを得た方がよいように感じます。ヒットラー研究者をゲテモノのようにとらえるよりも、なぜそれほどまでに著者がヒットラーに興味をもつのかと純粋な知的好奇心に我々は戻るべきですし、必ずしもヒットラー研究者=ヒットラー崇拝者ではありません。
なお、本書のおかげで、私自身がヨーロッパにいたとき、フランスではなぜケインズが流行らないか不思議に思っていたのですが、その理由がよくわかりました(今でもフランス人は有効需要の考え方を殆ど理解しないようです:わざと仕事を創出・増加させるよりも、まるで農作業の分担をするかのように仕事総量は同じにしたまま雇用面でワークシェアを優先)。有効需要創出はドイツのナチスを思い起こす上、英国人学者の理論など生理的に受け付けなかったようです。しかし、私達がフランス人と同じ過ちをしてはならないし、日本人は地理的に離れていることもあり冷静にナチスの経済政策の功罪を判断できる立場にいます。
ヒットラーについては一昔前の我々は強い嫌悪感を持つように教え込まれているので、どうしても本書を手に取るのは抵抗があるかもしれませんが、政治と経済政策は別々に考えた方が理解力が深まります。ヒットラーに一貫した明確な経済政策があったわけではなく、政権前半にはケインズの手法そのままのやり方が徹底的に実行され、米国のニューデール政策と良い比較対照をなします(もっとも彼の主著はその後数年して発刊)。後者の効果が実際には限定的であったわりには教科書では好意的に喧伝され過ぎ、ヒットラーの完全雇用等の実現は一般に知られていません。開戦前にドイツはほぼ完全雇用を達成したのに、独米とも戦争によって完全雇用が達成されたと誤解されているのです(戦争によって完全雇用を達成したのは米のみ)。
本書は図解も入れて経済学初心者でも非常にわかりやすく説明があり、見やすさ・読みやすさの点では申し分ありません。読み進むにつれ、20世紀初頭の国際情勢がいくら敗戦国とはいえドイツにとっていかに可哀そうなくらい徹底的に過酷なものであったか(とくにフランスのドイツへの強烈な憎悪心は常軌を外す)、米国発の世界恐慌とドイツ経済の破綻がいかにつながっていたか手に取るようにわかります。
末尾を見れば、本書の参考資料には日本語ばかりで原文一次資料にあたっていないという一部の批判は新書ということを考えれば的外れです。逆に日本の経済学者の方々の研究水準が意外に高く(本書の種本の1つは金沢大学の村上氏の著作?)、日本人学者の成果のすそ野が広いかなと考えた方が健全です。経済学は難解な数学を駆使しつつも見かけほど厳密な学問ではありませんから、細部よりも大局観を大切にした方がよいし、本書によって一般読者は伝統・偏見にとらわれない視野の広がりを得た方がよいように感じます。ヒットラー研究者をゲテモノのようにとらえるよりも、なぜそれほどまでに著者がヒットラーに興味をもつのかと純粋な知的好奇心に我々は戻るべきですし、必ずしもヒットラー研究者=ヒットラー崇拝者ではありません。
なお、本書のおかげで、私自身がヨーロッパにいたとき、フランスではなぜケインズが流行らないか不思議に思っていたのですが、その理由がよくわかりました(今でもフランス人は有効需要の考え方を殆ど理解しないようです:わざと仕事を創出・増加させるよりも、まるで農作業の分担をするかのように仕事総量は同じにしたまま雇用面でワークシェアを優先)。有効需要創出はドイツのナチスを思い起こす上、英国人学者の理論など生理的に受け付けなかったようです。しかし、私達がフランス人と同じ過ちをしてはならないし、日本人は地理的に離れていることもあり冷静にナチスの経済政策の功罪を判断できる立場にいます。
ベスト1000レビュアー
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ケインズは数学を専攻した異質の経済学者である。 ヒットラーはハイパーインフレを見事に収束させたシャハトを招き彼の助言でケインズの有効需要の創出を行い3年間で失業者を大幅に減らした。 FDRがニューデール政策に失敗したのとは対照的であった。 シャハトは共産主義を嫌い国家による強制労働は公益に何の成果ももたらさないと警告した。 ヒットラーは自由放任主義と共産主義の中間の国家社会主義を実践した。 さらに金本位制を廃止して通貨管理性を導入して東欧や中南米の貧しい国家との貿易を飛躍的に増大させた。 我が闘争でもヒットラーは理路整然とした政治経済理論を展開している。 この著作がヒットラー個人のみで書かれたとは到底思えない内容である。 優れた政治、経済、歴史の専門家がそばにいて指導を受けていたのではと思われる。 ユダヤ人殺害の理由もハイパーインフレ時に大もうけした経済問題であるという。 ヒットラーもケインズもマネーゲームの規制を唱えた。 税制を改革して金持ち優遇ではなく貧者救済を優先させた。 ユダヤ人のフリードマンたちはこの規制を嫌って市場原理主義を唱えケインズと対立する。 戦後の国際金融秩序を作ったホワイトはケインズと対立したがソ連のスパイであった。 行き過ぎたマネーゲームは世界経済を破綻させるとのケインズの予言は的中している。 ヒットラーは政治的には極悪非道で弁明の余地はないが、経済学的には再評価すべき点がある。
2014年4月7日に日本でレビュー済み
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ヒトラー=扇動が上手い独裁者と思い込んでいたヒトラー像をまったく塗り替えてくれた。
またアメリカのニューディール政策が実はあまり効果が上がらなかったこと、世界史でくらいしか聞いたことがなかったが、経済学の大家だと思っていたケインズがどのような人物が分かった点は興味深かった。
個人的には、前著の『ヒトラーの経済政策』と被る部分も多いが、より広い視点で話が展開されているので、前著よりも納得感を得ることができたように思う。
またアメリカのニューディール政策が実はあまり効果が上がらなかったこと、世界史でくらいしか聞いたことがなかったが、経済学の大家だと思っていたケインズがどのような人物が分かった点は興味深かった。
個人的には、前著の『ヒトラーの経済政策』と被る部分も多いが、より広い視点で話が展開されているので、前著よりも納得感を得ることができたように思う。



