モノの移動(「パンダ」をモノと表現することは失礼でもあるが)とは,持つ者から持たざる者への移動である。その反対はない。そして,その移動には何らかの意図がある。移動したモノが希少価値の高いものであるほど,その意図も単純なものではなく,複雑なものとなる。
「パンダ来日」のニュースがにぎやかであったが,多くの人たちのとっては,あの愛嬌のある動物にまたあうことができるという意味しか持ち得ないが,政府の代表から移動が発表されている事実を考えると,パンダの移動が持つ意味は,素人には計り知れないものが秘められている。
氏は今後本書も含みながら,中国の国家的シンボルが中国政府の統治の正当性にいかに内包されているかを博士論文において,叙述していくという意欲を示している。処女作がパンダというわかりやすいテーマであり,わかりやすさが誤解をもって,人々に伝わってしまわないか心配な点はある。わかりやすいテーマであり,読者の思考が深まらないおそれがある。学術論文とわかりやすさは相反するものではないものの,わかりやすさは諸刃の刃でもある。今後氏が,いかなる切り口で,いかに叙述していくか楽しみである。
ただ,われわれは単純にパンダに再び会えると心から楽しんでよいのではないのだろうか。本書に記された事実が秘められているとしても,学術的に重要な事実が秘められているとしても,パンダ自身は宿命を背負っていることは自覚していないし,パンダもわれわれの笑顔を見ることを楽しみにしているのではないだろうか。
パンダ外交 (メディアファクトリー新書) (日本語) 新書 – 2011/2/28
家永 真幸
(著)
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本の長さ201ページ
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言語日本語
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出版社メディアファクトリー
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発売日2011/2/28
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ISBN-104840138400
-
ISBN-13978-4840138406
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
パンダは中国の限られた地帯にのみ生息する希少動物である。中国はこの動物を、「友好の使者」として外国に贈ってきた。その数は、過去70年間で16の国と地域に、約70頭。そして、その背景には必ず中国の外交政策があった。「パンダ外交」の歴史を軸に、中国の外交戦略を俯瞰し、その本音を読み解く。パンダ外交のきっかけが日中戦争にあったなど、驚きの事実が満載。
著者について
歴史学者。1981年東京生まれ。武蔵大学、法政大学他で中国語や中国文化を教える。専門は中国近現代史。06年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程に進む。国宝や文化財を通じて、中国の外交を読み解く新進気鋭の研究者。その斬新な研究テーマは、国内外から高く評価されている。祖父は歴史学者の家永三郎。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
家永/真幸
1981年東京生まれ。歴史学者。私立武蔵高校時代に国外研修生として中国人民大学付属高校に派遣されたのをきっかけに、中国研究を志す。2006年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程に進む。専門は中国近現代史。国宝や文化財の政治利用という側面から現代中国の国家建設やナショナリズムについて研究している。また、武蔵大学、法政大学他で中国語や中国文化を教えている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1981年東京生まれ。歴史学者。私立武蔵高校時代に国外研修生として中国人民大学付属高校に派遣されたのをきっかけに、中国研究を志す。2006年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程に進む。専門は中国近現代史。国宝や文化財の政治利用という側面から現代中国の国家建設やナショナリズムについて研究している。また、武蔵大学、法政大学他で中国語や中国文化を教えている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : メディアファクトリー (2011/2/28)
- 発売日 : 2011/2/28
- 言語 : 日本語
- 新書 : 201ページ
- ISBN-10 : 4840138400
- ISBN-13 : 978-4840138406
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 501,319位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 314位中国のエリアスタディ
- - 1,226位角川新書
- - 5,381位世界史 (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
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2011年2月27日に日本でレビュー済み
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14人のお客様がこれが役に立ったと考えています
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2011年7月8日に日本でレビュー済み
著者は、高校時代に国外研修生として中国人民大学付属高校に派遣されたのをきっかけに、中国研究を専門とする歴史学者だ。
先日、上野動物園につがいのパンダがレンタルされた。パンダが外交カードに用いられていることはよく言われるが、著者は「一見、傍若無人に見える中国の外交政策の数々は多くの場合、実際には国際情勢を冷徹に分析したうえで展開されていると見るべきだ」(17ページ)と冷静だ。
「パンダは、1869年3月にフランスの宣教師であるダヴィド神父によって『発見』された」(20ページ)。その後、生きたパンダが捕獲され、アメリカで人気を博した。
それまでは、地元住民による目撃例があっても、名前すら付いていないパンダだったが、この事実から、「『列強によって傷つけられたプライドをいかに回復するか』という課題は、パンダ外交の歴史、ひいては現代中国の外交を理解するための重要なポイント」(37ページ)になってゆく。
国民党と共産党に分かれて後、パンダの権益は共産党に移行する。ソ連との蜜月時代にはソ連にもパンダが輸出されたが、その後関係が冷え込むと、ソ連は自国のパンダのつがいを求めてイギリスに接触するという事態にまでなる。
近年、パンダがレンタル制へ移行したのも、ワシントン条約に基づく自然な流れだという。
近代中国の外交は、パンダとは切っては切れない関係にあることがよく分かった。
先日、上野動物園につがいのパンダがレンタルされた。パンダが外交カードに用いられていることはよく言われるが、著者は「一見、傍若無人に見える中国の外交政策の数々は多くの場合、実際には国際情勢を冷徹に分析したうえで展開されていると見るべきだ」(17ページ)と冷静だ。
「パンダは、1869年3月にフランスの宣教師であるダヴィド神父によって『発見』された」(20ページ)。その後、生きたパンダが捕獲され、アメリカで人気を博した。
それまでは、地元住民による目撃例があっても、名前すら付いていないパンダだったが、この事実から、「『列強によって傷つけられたプライドをいかに回復するか』という課題は、パンダ外交の歴史、ひいては現代中国の外交を理解するための重要なポイント」(37ページ)になってゆく。
国民党と共産党に分かれて後、パンダの権益は共産党に移行する。ソ連との蜜月時代にはソ連にもパンダが輸出されたが、その後関係が冷え込むと、ソ連は自国のパンダのつがいを求めてイギリスに接触するという事態にまでなる。
近年、パンダがレンタル制へ移行したのも、ワシントン条約に基づく自然な流れだという。
近代中国の外交は、パンダとは切っては切れない関係にあることがよく分かった。
2011年3月19日に日本でレビュー済み
本書の目的は、パンダ外交を歴史的な経緯から解き明かし、
現代中国の政治・外交の一側面を考察することにあります。
中国の国公立文書館所蔵の資料から黒柳徹子の回想録まで多様なソースをもとに、
中国政府は海外でのパンダ需要と国際的な野生動物保護の潮流を冷静に見極め、
一つの中国などの国家戦略のもとでパンダ外交を展開した、その歴史的経緯が明らかにされます。
中国はパンダを見世物にして法外な外貨を稼いでいるというイメージを、
あっさり覆してくれるところが本書の魅力の一つです。
気になる点を二つ述べたいと思います。
第一は、国家の輪郭の形成とパンダの国宝化です。
本書でとりあげたパンダの捕獲地は現在のチベット族自治州と大きく重なっています。
資料の制約が原因でしょうが、パンダ生息地近辺の山村を訪問した実感からすると、
この点にもう少し触れてほしかったところです。
二つ目は、政治・外交におけるパンダ外交の理論的な位置づけです。
政治学者ではない著者はあえて触れなかったのでしょうが、
例えば王室外交や日本の桜外交など様々なスタイルの外交とパンダ外交を比較することで、
パンダ外交の政治的機能と中国外交の特殊性がより明確になると感じました。
もちろんこれら二点は私の望蜀であり、
これ以上詰め込むとまとまりを欠いてしまうかもしれません。
本書はいまどきの新書にありがちな低俗さがなく、かといって難解でもなく、
パンダ外交の奥深さと広さを実感しながら一気に読めてしまいます。
安直な中国本に飽きた人にはお薦めの好著といえます。
現代中国の政治・外交の一側面を考察することにあります。
中国の国公立文書館所蔵の資料から黒柳徹子の回想録まで多様なソースをもとに、
中国政府は海外でのパンダ需要と国際的な野生動物保護の潮流を冷静に見極め、
一つの中国などの国家戦略のもとでパンダ外交を展開した、その歴史的経緯が明らかにされます。
中国はパンダを見世物にして法外な外貨を稼いでいるというイメージを、
あっさり覆してくれるところが本書の魅力の一つです。
気になる点を二つ述べたいと思います。
第一は、国家の輪郭の形成とパンダの国宝化です。
本書でとりあげたパンダの捕獲地は現在のチベット族自治州と大きく重なっています。
資料の制約が原因でしょうが、パンダ生息地近辺の山村を訪問した実感からすると、
この点にもう少し触れてほしかったところです。
二つ目は、政治・外交におけるパンダ外交の理論的な位置づけです。
政治学者ではない著者はあえて触れなかったのでしょうが、
例えば王室外交や日本の桜外交など様々なスタイルの外交とパンダ外交を比較することで、
パンダ外交の政治的機能と中国外交の特殊性がより明確になると感じました。
もちろんこれら二点は私の望蜀であり、
これ以上詰め込むとまとまりを欠いてしまうかもしれません。
本書はいまどきの新書にありがちな低俗さがなく、かといって難解でもなく、
パンダ外交の奥深さと広さを実感しながら一気に読めてしまいます。
安直な中国本に飽きた人にはお薦めの好著といえます。
2011年3月5日に日本でレビュー済み
今年度は尖閣問題もメディアで多くの人の目に触れ、中国の外交手法について国民の関心が高まった年であると思う。
かつては諸手を挙げて歓迎されていたパンダの来日についても、今回の上野動物園へのパンダレンタルに関してはインターネット上でも様々な議論がなされており、その時期に本書が発売されている。(たまたま時期が被っただけかもしれないが。)
本書では、いまや中国の国家のシンボルとして確立されているパンダがそこに至った経緯、内政、外交に果たした役割を考察しているものと見受けられる。
歴代パンダの贈与、レンタルの際の(実現しなかったケース含む)国際情勢や記録文書等々から、中国政府の当時の意図が見て取れ、
パンダが中国政府による他国との距離感(接近したいのか、そうでないのか)、共産党政権の正統性の主張(国民や香港台湾等へのメッセージとして)などに活用されてきた様子がわかり、パンダという切り口から(タイトルや表紙のイメージで)想像していたよりも深いレベルで中国を知れるという意味で実に面白いものであった。
私は、筆者の事実と推論部分を比較的分かりやすく記載している点と、
いわゆる親中派、媚中派、反中派・嫌中派等々のようなラベル付けされた主義主張ありきの流れのなかで物事が語られる著作ではなく、歴史上あった出来事、記録等々から淡々と歴史を紐解いている書き方に非常に好感を持った。
過剰に、過剰に阿ることなく、中国が何を考え何を意図しどんな行動をしてきたかを(作られたものではなく正しい)歴史から理解し、今後の情勢を読み探っていくことが国家間の利害の問題に対する対処を誤らせるリスクを低減し、国益につながる道であると思われ、
思想の偏りなく中国について知っている、または今後より知っていくであろう新進気鋭の若手研究者の存在を非常に頼もしく感じている。
かつては諸手を挙げて歓迎されていたパンダの来日についても、今回の上野動物園へのパンダレンタルに関してはインターネット上でも様々な議論がなされており、その時期に本書が発売されている。(たまたま時期が被っただけかもしれないが。)
本書では、いまや中国の国家のシンボルとして確立されているパンダがそこに至った経緯、内政、外交に果たした役割を考察しているものと見受けられる。
歴代パンダの贈与、レンタルの際の(実現しなかったケース含む)国際情勢や記録文書等々から、中国政府の当時の意図が見て取れ、
パンダが中国政府による他国との距離感(接近したいのか、そうでないのか)、共産党政権の正統性の主張(国民や香港台湾等へのメッセージとして)などに活用されてきた様子がわかり、パンダという切り口から(タイトルや表紙のイメージで)想像していたよりも深いレベルで中国を知れるという意味で実に面白いものであった。
私は、筆者の事実と推論部分を比較的分かりやすく記載している点と、
いわゆる親中派、媚中派、反中派・嫌中派等々のようなラベル付けされた主義主張ありきの流れのなかで物事が語られる著作ではなく、歴史上あった出来事、記録等々から淡々と歴史を紐解いている書き方に非常に好感を持った。
過剰に、過剰に阿ることなく、中国が何を考え何を意図しどんな行動をしてきたかを(作られたものではなく正しい)歴史から理解し、今後の情勢を読み探っていくことが国家間の利害の問題に対する対処を誤らせるリスクを低減し、国益につながる道であると思われ、
思想の偏りなく中国について知っている、または今後より知っていくであろう新進気鋭の若手研究者の存在を非常に頼もしく感じている。
ベスト500レビュアー
パンダの赤ちゃんがスクスク育っているようで…。。
名前も決まったとか。香香(シャンシャン)だそうな。中共の「パンダ外交」が大嫌いなので、パンダそのものにも特に関心はないのだが、テレビで見る限りは、ちょっとかわいくは見える。でも、赤ちゃんでいるときは、人間でもネコでもクマでもライオンでも金正恩でも、そこそこかわいくはみえるもの。
ともあれ、本書の著者は新進気鋭の歴史学者(1981年生まれ)。なんとあの家永三郎氏の孫。専門は中国近現代史。東大の博士課程で学んだという。
中国がパンダという珍獣を国益確保のためにどう活用してきたかを解明した本だ。大変面白い。
子供心に日中国交回復に反対し、佐藤内閣の親台湾路線を支持していた僕にとって、田中角栄首相や大平外相は「容共」でケシカランという印象を持っていた。当然、パンダなどに洗脳されてしまう婦女子やマスコミの愚かさには激怒していた(本当に!)。パンダ大使の如くであった黒柳某氏にいたってはあきれ果てていた。こんなデブ熊のどこが可愛いのかと。といっても学生時代だったか上京していた時にデートコースで上野動物園でパンダを「鑑賞」した記憶はある。
それはともかく中国は国民党蒋介石時代にすでにその妻宋美齢を通じて反日工作のため、1941年にアメリカにパンダを寄贈していたという。その式典で彼女は「おどけて白黒でふわふわの、この丸々とした2頭のパンダ」が「アメリカの友情が私たち中国人に喜びをもたらしてくれたのと同じように、アメリカの子どもたちに喜びを与えてくれることを願います」と語っている。
国民党の「中央宣伝部国際宣伝処」の文書によると寄贈の背景には緻密な計画があったという。
命名へ向けての画策、審査会には子どもを用意する、関連媒体に記事を載せる、クリスマス商戦に間にあわせるためにパンダのおもちゃを至急製造する、重慶のアメリカ人記者向けにリリースする、アメリカ在住華僑にパンダ歓迎会を開催させる……と。
いやはや敵ながら天晴れ。実際、日本の当時の新聞がそうした宋の贈呈を「珍獣でご機嫌とり」「見るも哀れな蒋夫妻の対米媚態」(読売新聞・1941年11月12日)と皮肉りつつも「新しい珍しい物に飛びつくアメリカ人の気質をねらった所は流石といえばさすがではある」とも評していたとのこと(しかしその記事にレッサーパンダの写真が掲載されているのには?)。
中国は国民党時代、中共時代にも「戦略的物資」としてパンダを活用していく。冷戦時代にはアメリカの民間がパンダを欲しがっても与えない。国民党時代の戦前はむろんのこと戦後も国交のある英国にはパンダは提供された。またファッション雑誌「アンアン」は創刊当時モスクワにいたパンダの名前(アンアン)にちなんで命名されたという。大橋歩のパンダのイラストもあり、今でもアンアンの裏表紙に小さくあしらわれているとのこと。アンアンはそういう思想的背景のある雑誌だったのか? 発行者・経営者の「情けない」出自がしのばれる?
著者は日本に於けるパンダ文化は自然に醸成されたものであり中国が積極的に煽った成果ではないとしつつも、そのパンダ熱を中国はうまく外交に利用したと指摘している。
黒柳氏のパンダ熱は幼少時代にアメリカで売られていたパンダのぬいぐるみを叔父から貰ったためとのこと。とても気に入り疎開先まで持参したという。イデオロギー以前だったわけだ。納得。
佐藤内閣末期、訪中する政治家(美濃部都知事・土井たか子氏など)や動物園関係者に対して、中共側は「現在の佐藤政権下ではパンダは提供できない」とコメントすることしきり。
新聞のジョーク欄にニクソン訪中後のアメリカにはパンダが贈呈されるのに「子供・日本には来ないの」「ママ・佐藤さんがしっかりしないからダメよ」「子供・ボクにぬいぐるみのパンダ買って」「ママ・パパがしっかりしないからダメ」と投書もされていたそうな?
その後希少生物の保護の機運の高まりなどがあり、パンダをそうそう外国にも渡さなくなっていく。今春上野公園に来たパンダも高額のお金を払っての貸与。その経緯なども詳述されている。反共・反中国の石原都知事の微妙なパンダに対する言い回しの分析も的確だ。
東北関東大地震の影響でパンダデビューも遅れたり、目立たなくなってはいるが、中共は地震援助隊と同時に嫌がらせのためのヘリも派遣してくる非常識国家。パンダの背後にどんな思惑や画策があるかは充分知っておく必要がある。
本書は客観的に中国のパンダ外交の過去現在を扱っている。冒頭に記したように子供心にもパンダ外交のうさん臭さを少年時代から感じ取っていた我が身ではあるが、多々参考になる本だった。当時の新聞などを蒐集しながら論を進めていくのは家永三郎氏の『太平洋戦争』 (岩波書店)にも見られた。祖父にしても孫にしてもそのあたりの学問的手法は共通して真面目と言えるかもしれない。
その家永氏の新刊『国宝の政治史 「中国」の故宮とパンダ』 (東京大学出版会)なる本も参考になりそうだ。その家永氏が「ウイル」(2017年12月号)に、論文「中国パンダ外交の政治史」を書いていた。こちらはすぐに読破。パンダ外交の是非というか、歴史を論じつつ、「パンダ」欲しさに日本が外交交渉で譲歩した形跡はなく、「外交カード」としてパンダレンタルがそれどの神通力はないと指摘もしている。それ以上に重要なのは、パンダを「中国」のものだけだと思い込んだりするのが危険だとの指摘に、なるほどと改めて思った次第だ。
「もし私たちが、パンダを『チベット』のものでも『地球』のものでもなく、ほかでもない『中国』のものだと思っているとすれば、それこそがパンダ外交の発揮した最大の影響力と言えるかもしれません」
それで思い出したのが、有本香さんの『中国はチベットからパンダを盗んだ』 (講談社+α新書)だ。本来、「東チベット」にいたパンダを四川省のパンダと偽って世界に「輸出」している中共の実態などが告発もされている。
「パンダ」一つとっても、国際政治を考える上での大事な「題材」となる。「可愛い!」と言っているだけではすまない…。勉強しなくちゃ?
名前も決まったとか。香香(シャンシャン)だそうな。中共の「パンダ外交」が大嫌いなので、パンダそのものにも特に関心はないのだが、テレビで見る限りは、ちょっとかわいくは見える。でも、赤ちゃんでいるときは、人間でもネコでもクマでもライオンでも金正恩でも、そこそこかわいくはみえるもの。
ともあれ、本書の著者は新進気鋭の歴史学者(1981年生まれ)。なんとあの家永三郎氏の孫。専門は中国近現代史。東大の博士課程で学んだという。
中国がパンダという珍獣を国益確保のためにどう活用してきたかを解明した本だ。大変面白い。
子供心に日中国交回復に反対し、佐藤内閣の親台湾路線を支持していた僕にとって、田中角栄首相や大平外相は「容共」でケシカランという印象を持っていた。当然、パンダなどに洗脳されてしまう婦女子やマスコミの愚かさには激怒していた(本当に!)。パンダ大使の如くであった黒柳某氏にいたってはあきれ果てていた。こんなデブ熊のどこが可愛いのかと。といっても学生時代だったか上京していた時にデートコースで上野動物園でパンダを「鑑賞」した記憶はある。
それはともかく中国は国民党蒋介石時代にすでにその妻宋美齢を通じて反日工作のため、1941年にアメリカにパンダを寄贈していたという。その式典で彼女は「おどけて白黒でふわふわの、この丸々とした2頭のパンダ」が「アメリカの友情が私たち中国人に喜びをもたらしてくれたのと同じように、アメリカの子どもたちに喜びを与えてくれることを願います」と語っている。
国民党の「中央宣伝部国際宣伝処」の文書によると寄贈の背景には緻密な計画があったという。
命名へ向けての画策、審査会には子どもを用意する、関連媒体に記事を載せる、クリスマス商戦に間にあわせるためにパンダのおもちゃを至急製造する、重慶のアメリカ人記者向けにリリースする、アメリカ在住華僑にパンダ歓迎会を開催させる……と。
いやはや敵ながら天晴れ。実際、日本の当時の新聞がそうした宋の贈呈を「珍獣でご機嫌とり」「見るも哀れな蒋夫妻の対米媚態」(読売新聞・1941年11月12日)と皮肉りつつも「新しい珍しい物に飛びつくアメリカ人の気質をねらった所は流石といえばさすがではある」とも評していたとのこと(しかしその記事にレッサーパンダの写真が掲載されているのには?)。
中国は国民党時代、中共時代にも「戦略的物資」としてパンダを活用していく。冷戦時代にはアメリカの民間がパンダを欲しがっても与えない。国民党時代の戦前はむろんのこと戦後も国交のある英国にはパンダは提供された。またファッション雑誌「アンアン」は創刊当時モスクワにいたパンダの名前(アンアン)にちなんで命名されたという。大橋歩のパンダのイラストもあり、今でもアンアンの裏表紙に小さくあしらわれているとのこと。アンアンはそういう思想的背景のある雑誌だったのか? 発行者・経営者の「情けない」出自がしのばれる?
著者は日本に於けるパンダ文化は自然に醸成されたものであり中国が積極的に煽った成果ではないとしつつも、そのパンダ熱を中国はうまく外交に利用したと指摘している。
黒柳氏のパンダ熱は幼少時代にアメリカで売られていたパンダのぬいぐるみを叔父から貰ったためとのこと。とても気に入り疎開先まで持参したという。イデオロギー以前だったわけだ。納得。
佐藤内閣末期、訪中する政治家(美濃部都知事・土井たか子氏など)や動物園関係者に対して、中共側は「現在の佐藤政権下ではパンダは提供できない」とコメントすることしきり。
新聞のジョーク欄にニクソン訪中後のアメリカにはパンダが贈呈されるのに「子供・日本には来ないの」「ママ・佐藤さんがしっかりしないからダメよ」「子供・ボクにぬいぐるみのパンダ買って」「ママ・パパがしっかりしないからダメ」と投書もされていたそうな?
その後希少生物の保護の機運の高まりなどがあり、パンダをそうそう外国にも渡さなくなっていく。今春上野公園に来たパンダも高額のお金を払っての貸与。その経緯なども詳述されている。反共・反中国の石原都知事の微妙なパンダに対する言い回しの分析も的確だ。
東北関東大地震の影響でパンダデビューも遅れたり、目立たなくなってはいるが、中共は地震援助隊と同時に嫌がらせのためのヘリも派遣してくる非常識国家。パンダの背後にどんな思惑や画策があるかは充分知っておく必要がある。
本書は客観的に中国のパンダ外交の過去現在を扱っている。冒頭に記したように子供心にもパンダ外交のうさん臭さを少年時代から感じ取っていた我が身ではあるが、多々参考になる本だった。当時の新聞などを蒐集しながら論を進めていくのは家永三郎氏の『太平洋戦争』 (岩波書店)にも見られた。祖父にしても孫にしてもそのあたりの学問的手法は共通して真面目と言えるかもしれない。
その家永氏の新刊『国宝の政治史 「中国」の故宮とパンダ』 (東京大学出版会)なる本も参考になりそうだ。その家永氏が「ウイル」(2017年12月号)に、論文「中国パンダ外交の政治史」を書いていた。こちらはすぐに読破。パンダ外交の是非というか、歴史を論じつつ、「パンダ」欲しさに日本が外交交渉で譲歩した形跡はなく、「外交カード」としてパンダレンタルがそれどの神通力はないと指摘もしている。それ以上に重要なのは、パンダを「中国」のものだけだと思い込んだりするのが危険だとの指摘に、なるほどと改めて思った次第だ。
「もし私たちが、パンダを『チベット』のものでも『地球』のものでもなく、ほかでもない『中国』のものだと思っているとすれば、それこそがパンダ外交の発揮した最大の影響力と言えるかもしれません」
それで思い出したのが、有本香さんの『中国はチベットからパンダを盗んだ』 (講談社+α新書)だ。本来、「東チベット」にいたパンダを四川省のパンダと偽って世界に「輸出」している中共の実態などが告発もされている。
「パンダ」一つとっても、国際政治を考える上での大事な「題材」となる。「可愛い!」と言っているだけではすまない…。勉強しなくちゃ?