本書は「PR」という現在(専門化/非専門家問わず)多くの人々によって日常的に用いられている概念の歴史性・社会性について主題的に論じています。どの分野においても、なにかしらの「概念」を用いてさまざまな実践を行っていく場合、「その概念がどのような歴史的出自を持つのか、そしてそのような歴史性によってその「概念」を用いる際にどのような限界が設けられているのか」を知ることは、これまで用いられてきた実践を反省的に捉え返す際に重要となり、そしてこれから新しい営みを練り上げていく際に必須の作業となると考えられます。
そのため、値段が高く博士論文を下敷きにしているため内容も硬派なものとなりますが、先に別の方がレビューされているとおり、PRに関わる業界の方やそういった領域に関心のある学生、関連領域の方々にも広くお勧めできると思います。
同時に本書は、産業社会論、歴史社会学、メディア研究、広告研究、シンボリック相互作用論、(メディア)インフラストラクチャー研究、近代マスメディア論といったキーワードに関心のある方々にも勧めることができます。私も以上のキーワードのいずれかに関心があり本書を読み始めたのですが、本書の読書を通じて自分の関心が様々な方向に広がっていく感覚を得ました。以下簡単に、個人的に興味深いと思った点を記したいと思います。
本書は「PR」の歴史的出自を、人・モノ・情報の高速移動を可能にし、近代資本主義を駆動させていったインフラストラクチャー企業(鉄道、通信、電力会社など)から理解します。それらの企業は物理的な諸技術(レール、電信柱など)を国土の広範囲に設置していくことが求められるため、大量の人員を雇い入れることが必要となります。そして、大量の労働者を一つの企業のうちに抱え込むことで、そういった「内なる他者」を理解し、馴致するためのコミュニケーション技術が重要となります。またインフラストラクチャー企業は、同時代の多くの人々によって利用され、様々な種類の社会的コミュニケーションの文字通りの下部構造として機能していきます。そのためインフラストラクチャー企業の不正や不平等に対して同時代人から多くの批判が寄せられることになります。私企業でありながら公的な性格を帯びざるを得ないのがインフラストラクチャー企業の特徴です。そのためそれらの企業にとって、同時代の「公衆」に対して自己の正当性を肯定的に呈示し、説得するためのコミュニケーション技術を洗練化させることが重要な課題になります。このような展開を経て、インフラストラクチャー企業における/をめぐって創出された「他者」との関係において成立したのがPRだと本書は指摘します。つまり、近代資本主義とPR概念は共生起的な関係にあるといえます。
詳細は実際に本書にあたってみてほしいのですが、本書のだいご味はその見事な筆致にあると思います。本書は様々な要因が複雑に絡みながら、そしてそれらが循環的に作用しあいながらPR概念が析出していく過程を描き出しています。近代資本主義とインフラストラクチャー企業は相互循環的に作用することで自己の領域を拡大していきますが、そういった循環過程でPR概念がある種の必然性をもって要請される、さらにそのPRをめぐるコミュニケーションそれ自体がインフラストラクチャー企業が提供する商品=人・モノ・情報の移動可能性によって担保されている、というように、入り組んだ関係性を非常にわかりやすい文体で示しています。とはいえ、PR概念の歴史的見取り図を描き出すことを目的として設定していることもあり、「わかりやすすぎる」というのが気になるところではあります。この見取り図を踏まえてどのような「厚い記述」が可能になるのか、今後の筆者の研究活動にも期待しています。
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パブリック・リレーションズの歴史社会学――アメリカと日本における〈企業自我〉の構築 単行本 – 2017/1/26
河炅珍
(著)
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パブリック・リレーションズ(PR)とは何か。プロパガンダとも広告とも違う独特のコミュニケーション様式は、どのような要因と背景をもち、近代以降の産業団体や各種企業、政府や自治体のあり方、公/私の関係に何をもたらしたのか。19世紀~20世紀の米国と日本のPR事業を詳細に分析し、その意味を跡付けた労作。
- 本の長さ480ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2017/1/26
- ISBN-104000244833
- ISBN-13978-4000244831
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
鉄道産業、AT&T、ニュー・ディール、GE、電通、東京電力…。パブリック・リレーションズ=PRとは何か。広告ともプロパガンダとも違う、その独特のコミュニケーション様式は、どのような要因と背景をもち、資本主義社会における産業団体や各種企業、政府や自治体のあり方、公/私の関係に何をもたらしたのか。一九世紀~二〇世紀の米国と日本のPR事業を詳細に分析し、その意味を歴史的・理論的に跡づけた労作。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
河/〓珍
1982年、韓国生まれ。韓国梨花女子大学卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。現在、東京大学大学院情報学環助教。専門は、社会学、メディア・コミュニケーション研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1982年、韓国生まれ。韓国梨花女子大学卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。現在、東京大学大学院情報学環助教。専門は、社会学、メディア・コミュニケーション研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2017/1/26)
- 発売日 : 2017/1/26
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 480ページ
- ISBN-10 : 4000244833
- ISBN-13 : 978-4000244831
- Amazon 売れ筋ランキング: - 167,795位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- カスタマーレビュー:
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