ヤマザキマリといえば映画「テルマエロマエ」の原作者であり漫画家であることは知っていたが、本書を読むと、十代で単身イタリアに「留学」し、そのまま現地に滞在。未婚の母となって、今はイタリア人と結婚。子連れのままシリアに住んだりポルトガルに住んだりと、まあ、どう見ても破天荒な人生を生きてきた女性だったとは知らなかった。
そりゃあ、貧乏だったろう。著者によれば、こうした先の見えない貧乏時代に食べ過ぎて、パスタ、なかでもトマト味のパスタ(缶詰のトマトの水煮をあえた奴)は「貧乏パスタ」で、食べたくないそうだ。著者が食欲をそそられるのはタラコ味のような和風パスタなんだそうだ。
似たような経験を私もしている。スペイン旅行中、学生時代のことだが、パスポートとトラベラーズチェックをすべて盗まれた記憶がある。幸いトラベラーズチェックはすぐ再発行出来たが、パスポートが再発行されるまでの一週間、ンマドリードで私は毎日毎日出来るだけ安い料理を食べながら、当時はただだったプラド美術館に通って時間を潰した。その時覚えたのがランチでよく食べたトルティラエスパニョーラのサイドウィッチとパンをあてに赤ワインを飲むことである。トルティラエスパニョーラはジャガイモ入りの玉子焼きで、これが最も安く、最も腹持ちがしたし、その日の日替わり定食を頼むとパンは食べ放題で赤ワインはタダ同然だった。
それにしてもヤマザキさんの食に関するエッセイの力は大したものである。本書はフジ日本製糖のホームページに連載されたものをベースに新書版に加筆訂正したものだが、食について、これだけ読ませるものを書ける筆力には脱帽するしかない。
彼女の食レポの魅力は、すべて実体験で収集した情報の集積力によるものである。例えば、イタリア人は東京に行くと、「必ずイタリア料理店に行くように」と言い含められるという。なぜなら「東京のイタリアンは、本場イタリアよりも美味しいから」。これは私の実感でもある。イタリア旅行した友人知人からイタリアで食べた料理のまずさを散々聞かされている。
日本で外国人を連れて行くなら「ラーメン」という指摘も「なるほど」である。
日本のアニメが海外で人気だが、例えばドラえもんたちが時々食べる「黒や白の三角形のもの」が「おにぎり」であることを大半の外国人は理解できずにいるとか、同じく「お弁当」が、そもそも欧州にはお弁当がないので分からないとか、なるほどという感じである。欧州人はランチボックスは「まずいもの」と諦めていて、ランチボックスを美味しくしようという情熱をそもそも持たないそうだ。
モツ料理は世界どこでも「貧乏人が食べるもの」と相場が決まっている。だから私は「博多のモツ鍋」は絶対に食べない。父の田舎は博多だが、博多で鍋と言えば「水炊き」と相場は決まっていて、とんこつラーメンも無かったし(あったのは、朧コンブが入った博多うどん)、明太子すらなかった。明太子が出回り始めるのは昭和50年代後半の「激辛ブーム」以降で、それまでは「辛い物を食べると、バカになる」のが常識だった。イタリアでもトリッパは高級食材ではなく、まあ、一部の人がソウルフードとしてひそやかに食べるものなのだろう。
イタリア人がオリーブオイルに異様にこだわるとか、ワインについては各国とも「ナショナリズム」に燃えており、イタリアにいるならイタリアワイン、シチリアにいるならシチリアワイン、スペインにいるならスペインワイン、ポルトガルにいるならポルトガルワインを飲むのが常識で、フランスワインはお呼びでないのだそうだ。フランスのシャンパンなんか、バカみたいに値段が高く「お高くとまっている」嫌味な飲料で、それより地元産のスパークリングワインをワイワイぐびぐび飲もうぜというのが、基本らしい。
私はポルチーニ茸を食べたことがないが、ヤマザキさんは「最後の晩餐」はポルチーニ茸にしてほしいそうだ。これは食わねばならない。
ヤマザキさんが、そもそも「テルマエロマエ」を画く原動力になったのが、バスタブ無しの生活を欧州で数年間強いられて、それで「風呂に入りたい」という願望が怨念の領域にまで高められて、それで一気に書き上げたという下りは納得できる。私も海外駐在中、ずっと「日本の温泉に入りたい」と強く思っていて、帰国し、結婚すると、かなり頻繁に家族で温泉に行った記憶がある。人間にとって最大の欲望は「ないものねだり」に尽きるのである。
ついでながら、ヤマザキさんは決して「偏食」ではない。「偏愛食」である。
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パスタぎらい (新潮新書) 新書 – 2019/4/17
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イタリアに暮らし始めて35年。
私は、一生分のパスタを食べてしまったのかもしれない――。
胃袋の記憶を綴る、極上の食文化エッセイ。
断言しよう。パスタより美味しいものが、世界にはある!
フィレンツェのモツ煮込み、シチリア島で頬張った餃子、理性を狂わすポルチーニ茸、死にたいくらいに憧れた日本食、忘れ難いおにぎりの温もり、冷えたナポリタンetc.
いわゆるグルメじゃないけれど、食への渇望と味覚の記憶こそが、私の創造の原点――。
絵画を学ぶため、17 歳でフィレンツェに留学。イタリア以外にも北海道やリスボン、エジプト、シリア、シカゴに暮らし、世界中を旅したヤマザキマリが、胃袋で世界とつながった経験を美味しく綴る、極上の食文化エッセイ。
【本書に登場する料理】
冷えたナポリタン/和風スパゲッティ/函館の塩ラーメン/ケチャップ味の洋食/母の砂糖バターパン/京王百貨店の駅弁/めふんと白子/仔羊の「脳味噌フリット」/牛の骨髄煮込み/日本のスナック菓子/パルミジャーノのバルサミコ酢がけ/ヴェネト州の馬肉とプロセッコ/フィレンツェの「モツ煮込み」/臨終ポルチーニ/猛暑の日のジェラート/ルフトハンザ機内のソーセージ/イタリアの「実家」で食べた仔羊のロースト/イランの炊き込みご飯/リスボンのエッグタルト/転校生がくれたゆで卵/シチリア島の餃子/世界の「病人食」etc.
【目次より】
第1章 イタリア暮らしですが、なにか?
I 貧乏パスタ
II イタリアのパンの実力
III トマトと果物が苦手です
IV コーヒーが飲めません
.
第2章 あなた恋しい日本食
I ラーメンが「ソウル・フード」
II 世界の〝SUSHI〟
III 日本の「洋食」とはケチャップである
IV 憧れのお弁当
V にぎりめし考
VI キング・オブ・珍味
VII スナック菓子バンザイ!
第3章 それでもイタリアは美味しい
I 「万能の液体」オリーブオイル
II 酸っぱいだけじゃない!
III 優しいスタミナ食
IV 深遠なるモツのこと
V 臨終ポルチーニ
VI ジェラートとイタリア男
VII クリスマスの風物詩
第4章 私の偏愛食
I 思い込んだらソーセージ
II 私の〝肉欲〟
III パサパサか、ドロドロか
IV たまご愛
V シチリア島で餃子を頬張る
VI 串刺しハングリー
VII 世界の「病人食」
第5章 世界をつなぐ胃袋
I ワインとナショナリズム
II チーズと寛容
III ミラノ万博取材記
IV 胃袋の外交力
私は、一生分のパスタを食べてしまったのかもしれない――。
胃袋の記憶を綴る、極上の食文化エッセイ。
断言しよう。パスタより美味しいものが、世界にはある!
フィレンツェのモツ煮込み、シチリア島で頬張った餃子、理性を狂わすポルチーニ茸、死にたいくらいに憧れた日本食、忘れ難いおにぎりの温もり、冷えたナポリタンetc.
いわゆるグルメじゃないけれど、食への渇望と味覚の記憶こそが、私の創造の原点――。
絵画を学ぶため、17 歳でフィレンツェに留学。イタリア以外にも北海道やリスボン、エジプト、シリア、シカゴに暮らし、世界中を旅したヤマザキマリが、胃袋で世界とつながった経験を美味しく綴る、極上の食文化エッセイ。
【本書に登場する料理】
冷えたナポリタン/和風スパゲッティ/函館の塩ラーメン/ケチャップ味の洋食/母の砂糖バターパン/京王百貨店の駅弁/めふんと白子/仔羊の「脳味噌フリット」/牛の骨髄煮込み/日本のスナック菓子/パルミジャーノのバルサミコ酢がけ/ヴェネト州の馬肉とプロセッコ/フィレンツェの「モツ煮込み」/臨終ポルチーニ/猛暑の日のジェラート/ルフトハンザ機内のソーセージ/イタリアの「実家」で食べた仔羊のロースト/イランの炊き込みご飯/リスボンのエッグタルト/転校生がくれたゆで卵/シチリア島の餃子/世界の「病人食」etc.
【目次より】
第1章 イタリア暮らしですが、なにか?
I 貧乏パスタ
II イタリアのパンの実力
III トマトと果物が苦手です
IV コーヒーが飲めません
.
第2章 あなた恋しい日本食
I ラーメンが「ソウル・フード」
II 世界の〝SUSHI〟
III 日本の「洋食」とはケチャップである
IV 憧れのお弁当
V にぎりめし考
VI キング・オブ・珍味
VII スナック菓子バンザイ!
第3章 それでもイタリアは美味しい
I 「万能の液体」オリーブオイル
II 酸っぱいだけじゃない!
III 優しいスタミナ食
IV 深遠なるモツのこと
V 臨終ポルチーニ
VI ジェラートとイタリア男
VII クリスマスの風物詩
第4章 私の偏愛食
I 思い込んだらソーセージ
II 私の〝肉欲〟
III パサパサか、ドロドロか
IV たまご愛
V シチリア島で餃子を頬張る
VI 串刺しハングリー
VII 世界の「病人食」
第5章 世界をつなぐ胃袋
I ワインとナショナリズム
II チーズと寛容
III ミラノ万博取材記
IV 胃袋の外交力
- 本の長さ208ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2019/4/17
- 寸法18.2 x 11.3 x 2 cm
- ISBN-104106108097
- ISBN-13978-4106108099
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
イタリアに暮らし始めて三十五年。断言しよう。パスタよりもっと美味しいものが世界にはある!フィレンツェの絶品「貧乏料理」、シチリア島で頬張った餃子、死ぬ間際に食べたいポルチーニ茸、狂うほど愛しい日本食、忘れ難いおにぎりの温もり、北海道やリスボンの名物料理…。いわゆるグルメじゃないけれど、食への渇望と味覚の記憶こそが、私の創造の原点―。胃袋で世界とつながった経験を美味しく綴る食文化エッセイ。
著者について
マンガ家。1967年4月20日生まれ。84年、17歳でイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院に入学。美術史・油絵を専攻。97年にマンガ家としてデビュー。2010年、古代ローマを舞台にした漫画『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2017年には、イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。マンガ作品に『プリニウス』(とり・みきと共著)『スティーブ・ジョブズ』『オリンピア・キュクロス』など。文筆作品では『男性論』『国境のない生き方』『とらわれない生き方』『ヴィオラ母さん』など。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ヤマザキ/マリ
1967(昭和42)年生まれ。十七歳でフィレンツェに留学。97年、マンガ家デビュー。2010年、『テルマエ・ロマエ』で第三回マンガ大賞などを受賞。17年、イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1967(昭和42)年生まれ。十七歳でフィレンツェに留学。97年、マンガ家デビュー。2010年、『テルマエ・ロマエ』で第三回マンガ大賞などを受賞。17年、イタリア共和国星勲章コメンダトーレ受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2019/4/17)
- 発売日 : 2019/4/17
- 言語 : 日本語
- 新書 : 208ページ
- ISBN-10 : 4106108097
- ISBN-13 : 978-4106108099
- 寸法 : 18.2 x 11.3 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 17,189位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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ヤマザキマリさんの食物に関するエッセイです。
マリさんの経歴からして、やはりイタリアの食べ物を中心とした内容なのですが、
それと日本食が対比的に出てきます。
しかし、本書からするとマリさん凄い偏食なのです。
酸っぱいものがダメということですから・・・ただし醸造しているもの、加工して酸っぱいものはOK・・・、
トマトがダメ、コーヒーがダメ、しかし基本的にイタリア料理はトマト味がベースですからね!
その反面タマゴ、ラーメン、スナック菓子は大好きだそうです。
モツ料理、ヨーロッパでは普通に食べられていると思ったのですが、どうもそうではないようですね!
また、オリーブ・オイル、ワインに対するこだわり、日本人は、ここまでこだわりませんね!
しかし、世界の食事情は、やはりこのように現地で長期間過ごされた人の話を伺わないと、
実情がよくわかりませんね!
また、お弁当の話が出てきますけど、私も母親が弁当にこだわりがなかったので、
ドカベンに梅干し1つ、後は、肉を痛めたものだけ、とか、トリを煮たものだけ、のおかずで、
飾りっ気も何もなく、私も同級生と一緒に食べるのが恥ずかしかった思い出があります。
マリさんの経歴からして、やはりイタリアの食べ物を中心とした内容なのですが、
それと日本食が対比的に出てきます。
しかし、本書からするとマリさん凄い偏食なのです。
酸っぱいものがダメということですから・・・ただし醸造しているもの、加工して酸っぱいものはOK・・・、
トマトがダメ、コーヒーがダメ、しかし基本的にイタリア料理はトマト味がベースですからね!
その反面タマゴ、ラーメン、スナック菓子は大好きだそうです。
モツ料理、ヨーロッパでは普通に食べられていると思ったのですが、どうもそうではないようですね!
また、オリーブ・オイル、ワインに対するこだわり、日本人は、ここまでこだわりませんね!
しかし、世界の食事情は、やはりこのように現地で長期間過ごされた人の話を伺わないと、
実情がよくわかりませんね!
また、お弁当の話が出てきますけど、私も母親が弁当にこだわりがなかったので、
ドカベンに梅干し1つ、後は、肉を痛めたものだけ、とか、トリを煮たものだけ、のおかずで、
飾りっ気も何もなく、私も同級生と一緒に食べるのが恥ずかしかった思い出があります。
2019年10月11日に日本でレビュー済み
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食をテーマにしたエッセイというと、どこか気取ったよそよそしいものか、あるいはどこか自己陶酔したようなモノが多い。だから、池波正太郎のエッセイ以外には、あまり手を出してこなかった。
ヤマザキさんの本作は、イタリアを中心に海外生活35年の著者なので、もしかするとウンチク満載のイヤ〜なものかもしれないという不安もあったが、それ以上に他の作品があまりに面白かったので、むしろ大きな期待を持って読んでみた。結果は、この本を読んだのは大正解だった。
本作ではイタリア以外にも日本、ポルトガル、シリアなど、筆者が過去に居住した国のことも書かれているが、その中心はやはりイタリアと日本である。しかし、書かれている内容は、オシャレなちょいワルおやじが闊歩するという、最近の日本でありがちなイタリアのパブリックイメージ(ジローラモ?)とは正反対である。ここに出てくるイタリア人は、古くは「自転車泥棒」「道」、あるいは「ニュー・シネマ・パラダイス」といったイタリア映画で描かれていた、素朴で人情味のある、ちょっとおせっかいだが憎めないといった人たちばかりである。そういう人たちがムシャムシャ食べる料理の描写に、思わずよだれが出てきたものだ。場所こそイタリアではないが、映画「カリオストロの城」でルパンと次元がミートボール入りのスパゲッティを取り合うアットホームなシーンを思い出した。
ヤマザキさんのエッセイを読んだのは、これが3作目である。他の作品と同様に、本作の文章も、ざっくばらんであまり色っぽくない物言いだが(失礼!!)、本質的な育ちの良さと感性の豊かさ、そして頭の良さを感じさせる。何よりも素晴らしいのは、この人の場合、普通の日本人には想像できない海外での苦労が、しっかり人生の肥やしになっていることである。人間、苦労すると人によっては性格がいびつに拗けてしまうが、この人にはそうした臭みが全くない。
だから、インスタ映えなどまるで無縁な、言ってしまえばB級グルメ的な話が多くても、人間の食に対する欲求と、それがもたらす心の豊かさ、そして幸せが文章から迸っているのだろう。短時間で読みきれる本だが、幸せな気分のおすそ分けにたっぷりあずかった、そんな気分である。
ヤマザキさんの本作は、イタリアを中心に海外生活35年の著者なので、もしかするとウンチク満載のイヤ〜なものかもしれないという不安もあったが、それ以上に他の作品があまりに面白かったので、むしろ大きな期待を持って読んでみた。結果は、この本を読んだのは大正解だった。
本作ではイタリア以外にも日本、ポルトガル、シリアなど、筆者が過去に居住した国のことも書かれているが、その中心はやはりイタリアと日本である。しかし、書かれている内容は、オシャレなちょいワルおやじが闊歩するという、最近の日本でありがちなイタリアのパブリックイメージ(ジローラモ?)とは正反対である。ここに出てくるイタリア人は、古くは「自転車泥棒」「道」、あるいは「ニュー・シネマ・パラダイス」といったイタリア映画で描かれていた、素朴で人情味のある、ちょっとおせっかいだが憎めないといった人たちばかりである。そういう人たちがムシャムシャ食べる料理の描写に、思わずよだれが出てきたものだ。場所こそイタリアではないが、映画「カリオストロの城」でルパンと次元がミートボール入りのスパゲッティを取り合うアットホームなシーンを思い出した。
ヤマザキさんのエッセイを読んだのは、これが3作目である。他の作品と同様に、本作の文章も、ざっくばらんであまり色っぽくない物言いだが(失礼!!)、本質的な育ちの良さと感性の豊かさ、そして頭の良さを感じさせる。何よりも素晴らしいのは、この人の場合、普通の日本人には想像できない海外での苦労が、しっかり人生の肥やしになっていることである。人間、苦労すると人によっては性格がいびつに拗けてしまうが、この人にはそうした臭みが全くない。
だから、インスタ映えなどまるで無縁な、言ってしまえばB級グルメ的な話が多くても、人間の食に対する欲求と、それがもたらす心の豊かさ、そして幸せが文章から迸っているのだろう。短時間で読みきれる本だが、幸せな気分のおすそ分けにたっぷりあずかった、そんな気分である。
2019年7月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
イタリアに行ったことが無いのでイタリアの評価はできませんが、パリで食べたフレンチよりも日本のフレンチの方が好きだし、上海や北京で食べた中華や上海ガニよりも日本の町中華やツガニの方が好きな私には、ヤマザキマリさんのケチャップナポリタンがイタリア人にうけたこと、イタリアのおばさんが日本のイタリアンを気に入ったなどのお話はとても面白く読ませていただきました。
さらには、実際にイタリアを巡って地元地元の名物を味わってみたい気持ちにもなりました。
さらには、実際にイタリアを巡って地元地元の名物を味わってみたい気持ちにもなりました。






