本書は英語で出版された書籍を翻訳し、2017年に出版されたもの。副題は「あるイギリス人のディープな現代日本ポップ・ロック界探検記」。その副題のとおり、とことんディープに現代日本のポップ・ロックに分け入って考察しており、大変刺激的で面白い書籍だった。
僕は日本の音楽批評には、批判的態度が欠けていると思っている。褒めることしかしない音楽誌。一方、業界的なしがらみがないはずのアマチュアの批評家である音楽ブロガーやツイッタラーの大部分も褒めることしかしない。
だが、この本の著者の音楽に対する批判は辛辣だ。商業主義的な音楽をバッサリ斬り捨てる。そして、日本のアイドル文化に対して容赦なく批判している。例えば、この箇所。「AKB48のファンたちは自分たちが女の子らの夢を応援しているのだと信じるよう仕向けられてはいるものの、彼らが実際にやっているのは彼女たちの夢をファンを喜ばせることとして定義することだったりするーー本質的に言って、それは彼女たちに対しての所有権を主張するということだ。」(p.218.)。しかし、一方でインディー的に活動しているアイドルに対しては一定の理解を示してもいる。
あと、日本で発売されている書籍でも、ここまで深くインディーシーンに分け入ったものはないだろう。例えば、インディーロック好きなら一度は目にする「みんなの戦艦」というイベント。みんなの戦艦が活字になっているのを僕は初めて見た。あるいは、高円寺二万電圧、新宿モーション、秋葉原クラブ・グッドマンなど、東京のインディーシーンを語る上で欠かせないライブハウスの数々。二万電圧で「迷宮から」という下手くそバンドでライブ出演したことのある僕は二万電圧が取り上げられていて嬉しかった。
日本の音楽のこれからに対する提言も、具体的・建設的であり、示唆的だ。ライブハウスのノルマ代など、本来ならば供給者であるはずのミュージシャンが消費者として音楽業界の末端に位置づけられている状況を嘆いている。
日本の音楽を英語圏に紹介する書籍としてこれほど適切なものがあるだろうか。荒井由実を四畳半フォークとして紹介するなどの誤差はあるものの、欧米のステレオタイプ的な日本音楽の観察の仕方ではなく、日本の音楽のリアルな生態を活写したものとして、非常に価値のある書籍だと思う。
訳者あとがきで書かれているように、欧米でもきゃりーぱみゅぱみゅやノイズロックの灰野敬二が取り上げられることはある。しかし、"カワイイ"な超メジャーや、アングラの底で伝説的なミュージシャンが取り上げられることはあっても、その中間にあたる肥沃なシーンが取り上げられる機会は少なかった。日本のポップミュージックの歴史も含めて、そのシーンを海外に紹介したというだけで、歴史に残るべき一冊だ。
そして、日本の音楽本シーンにおいても、先述した日本の音楽本にない批判的態度や、ディープなインディーシーンを取り上げた点において、とても価値ある一冊となっている。淡白な日本の批評に慣れた者からすると文章はやや装飾過多に感じるが、海外では主流なレトリカルな批評に日本語で触れるという点においても貴重な一冊となっている。どうかこの本がもっと売れますように。
バンドやめようぜ! ──あるイギリス人のディープな現代日本ポップ・ロック界探検記 (ele-king books) (日本語) 単行本 – 2017/11/25
イアン・F・マーティン
(著)
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本の長さ287ページ
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言語日本語
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出版社Pヴァイン
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発売日2017/11/25
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ISBN-104907276885
-
ISBN-13978-4907276881
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登録情報
- 出版社 : Pヴァイン (2017/11/25)
- 発売日 : 2017/11/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 287ページ
- ISBN-10 : 4907276885
- ISBN-13 : 978-4907276881
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Amazon 売れ筋ランキング:
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2019年6月28日に日本でレビュー済み
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この本の副題は「あるイギリス人のディープな現代日本ポップ・ロック界探検記」
内容がよくわかる副題です。
副題に比べ、この本のタイトル『バンドやめようぜ!』は、読者をぎょっとさせます。不安に思いながら、読み始めました。
「プロローグ」によると、十代の女の子五人が金切り声で叫ぶ歌詞「やめてやる! こんなバンド、やめてやるっ!」に呼応して、合いの手のように付けたタイトルのようです。「こんなバンド、やめてやるっ!」そんなら『バンドやめようぜ!』は息の合った対句です。
「年端のいかないもうひとりの少女から『やめてやる!』とがなり立てられるのには、何かしら嬉しくなってしまうネガティヴさがある」(7頁)と書くネガティヴ好きの著者です。だから、「バンドやめようぜ!」というネガティヴな言葉をタイトルにしたのでしょう。
しかし、このタイトルは著者の本音ではないと感じました。
「価値ある才能が次々に落伍」してバンドをやめざるをえなくなる「様を横目に凡才どもが幅を利かせる図を何年も見守ってきた」著者です。「バンドやめようぜ!」というタイトルは、もしかしたら逆説的な皮肉(アイロニー)なのでは。
著者は、どこかのインタビューで、この本に書いたことの「半分はジョークで半分はアイロニーだ」と語っていました。
「日本のアンダーグラウンド音楽は美しいし、ばかばかしいこともしょっちゅうで、そして猛烈にクリエイティヴだ」と考える著者なのです。だから、本気で「バンドやめようぜ!」とは思っていないような気がします。キャッチーなタイトルの本にしようとしただけなのかも。
本書を読み終わってみると、内容はタイトル『バンドやめようぜ!』とは全く違う内容でした。
英国人の著者が放つジョークやアイロニーは、はたして日本の音楽愛好家や音楽業界に通ずるものでしょうか。
著者は、1978年生まれの英国人ジャーナリスト。
日本に長く住んで取材してきただけでなく、10年くらい前からは自らのアンダーグラウンド音楽のレーベルを立ち上げたレーベル主でもあります。
この本の中には、いろいろと書かれていますが、特に「言語と日本人らしさ」(188頁)という章が印象的でした。
「日本語は『日本人っぽい』思考を表現するのに非常に適しているわけだが、逆に言えばそれは日本的なレールから外れた思考を表現するにはいささか不向きだということで、多くのアーティストがそうした意味論における制約から解放され自らの思考を好きなように浮遊させることのできる外国語のもたらす自由を満喫している」(192頁)
さらに「ほぼ日本語歌詞のシングルの中に英語が句読点という形で入り込んでくることもある。ポップ・ミュージシャンはよく画一的な英語フレーズを歌にちりばめるがその多くはほとんど何も表現しておらず、(中略)といったフレーズはずらずらと続く日本語の流れを中断させるリズミカルな代用品として主に機能している」(193頁)
日本語歌詞の中に「句読点」代わりに英語を使うポップ・ミュージシャン。日本語の「句読点」代わりにベイビー英語を使うぜベイビー。
「こうした例においては英語はあくまで日本語の付属物として機能している」(193頁)という著者の見識には感服しました。
次の指摘にも、感心しました。
「AKB48の曲のいくつかがやっている、女性のグループ・メンバーを彼女たちを観察する男性側の視点から歌う立場に立たせるという手法は、彼女たちとファンとの間にある奇妙な関係について何かしら物語っている――とりわけ、いかに彼女ら女の子たちからは主体性が奪われていて、自分たち自身をオブジェ=物体として観察するようポジショニングされているか、という意味で」(204頁)
人間を物体として位置付ける、のか。物体なら規則違反の恋愛はしませんよね。考えさせられました。
最後に、この本の巻末の「INDEX」に引用されている箇所の多いアーティストは、次の通りです。
ナンバーガール 28箇所
AKB48 15箇所
シーガル・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハー 9箇所
きゃりーぱみゅぱみゅ 8箇所
日暮愛葉 8箇所
小室哲哉 7箇所
このデータを見るだけでも、この本が力を入れて書いている内容が想像できるようです。
内容がよくわかる副題です。
副題に比べ、この本のタイトル『バンドやめようぜ!』は、読者をぎょっとさせます。不安に思いながら、読み始めました。
「プロローグ」によると、十代の女の子五人が金切り声で叫ぶ歌詞「やめてやる! こんなバンド、やめてやるっ!」に呼応して、合いの手のように付けたタイトルのようです。「こんなバンド、やめてやるっ!」そんなら『バンドやめようぜ!』は息の合った対句です。
「年端のいかないもうひとりの少女から『やめてやる!』とがなり立てられるのには、何かしら嬉しくなってしまうネガティヴさがある」(7頁)と書くネガティヴ好きの著者です。だから、「バンドやめようぜ!」というネガティヴな言葉をタイトルにしたのでしょう。
しかし、このタイトルは著者の本音ではないと感じました。
「価値ある才能が次々に落伍」してバンドをやめざるをえなくなる「様を横目に凡才どもが幅を利かせる図を何年も見守ってきた」著者です。「バンドやめようぜ!」というタイトルは、もしかしたら逆説的な皮肉(アイロニー)なのでは。
著者は、どこかのインタビューで、この本に書いたことの「半分はジョークで半分はアイロニーだ」と語っていました。
「日本のアンダーグラウンド音楽は美しいし、ばかばかしいこともしょっちゅうで、そして猛烈にクリエイティヴだ」と考える著者なのです。だから、本気で「バンドやめようぜ!」とは思っていないような気がします。キャッチーなタイトルの本にしようとしただけなのかも。
本書を読み終わってみると、内容はタイトル『バンドやめようぜ!』とは全く違う内容でした。
英国人の著者が放つジョークやアイロニーは、はたして日本の音楽愛好家や音楽業界に通ずるものでしょうか。
著者は、1978年生まれの英国人ジャーナリスト。
日本に長く住んで取材してきただけでなく、10年くらい前からは自らのアンダーグラウンド音楽のレーベルを立ち上げたレーベル主でもあります。
この本の中には、いろいろと書かれていますが、特に「言語と日本人らしさ」(188頁)という章が印象的でした。
「日本語は『日本人っぽい』思考を表現するのに非常に適しているわけだが、逆に言えばそれは日本的なレールから外れた思考を表現するにはいささか不向きだということで、多くのアーティストがそうした意味論における制約から解放され自らの思考を好きなように浮遊させることのできる外国語のもたらす自由を満喫している」(192頁)
さらに「ほぼ日本語歌詞のシングルの中に英語が句読点という形で入り込んでくることもある。ポップ・ミュージシャンはよく画一的な英語フレーズを歌にちりばめるがその多くはほとんど何も表現しておらず、(中略)といったフレーズはずらずらと続く日本語の流れを中断させるリズミカルな代用品として主に機能している」(193頁)
日本語歌詞の中に「句読点」代わりに英語を使うポップ・ミュージシャン。日本語の「句読点」代わりにベイビー英語を使うぜベイビー。
「こうした例においては英語はあくまで日本語の付属物として機能している」(193頁)という著者の見識には感服しました。
次の指摘にも、感心しました。
「AKB48の曲のいくつかがやっている、女性のグループ・メンバーを彼女たちを観察する男性側の視点から歌う立場に立たせるという手法は、彼女たちとファンとの間にある奇妙な関係について何かしら物語っている――とりわけ、いかに彼女ら女の子たちからは主体性が奪われていて、自分たち自身をオブジェ=物体として観察するようポジショニングされているか、という意味で」(204頁)
人間を物体として位置付ける、のか。物体なら規則違反の恋愛はしませんよね。考えさせられました。
最後に、この本の巻末の「INDEX」に引用されている箇所の多いアーティストは、次の通りです。
ナンバーガール 28箇所
AKB48 15箇所
シーガル・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハー 9箇所
きゃりーぱみゅぱみゅ 8箇所
日暮愛葉 8箇所
小室哲哉 7箇所
このデータを見るだけでも、この本が力を入れて書いている内容が想像できるようです。
2017年11月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本のインディーシーンの現状はある程度知ってるつもりです
この本のタイトルは取り敢えず置いておくとして煽り文句の「日本では否定的なレビューがタブーとなっているのはなぜなのか」についてはpart1の一部のみです。
part2では音楽にある程度知識ある方なら誰もが知ってる日本の音楽シーンの推移。
part3になると日本の音楽の現状について海外展開やライブハウス、ブッキング更にはアイドルという視点で進んで行きます。
意識高めな訳の問題もあるのでしょうが、ある程度音楽を齧ってないと意味不明な単語が多いです。
筆者のバンドやミュージシャンの紹介もジャンルを無理やり組み込ませて紹介するので不明瞭な所が目に付きます。例えば「ポストロックとオールドスクールなエモな音」とか「チップチューンハードコア」といった具合に紹介されても何となく新しいことやってる体を醸し出してるだけで意味不明。
各部の冒頭で頻繁に出て来る作者のポエミーな導入も好き嫌いが別れるかもしれません。
主題がコロコロ変わり、改行少なめ句読点の乱用も酷く読むのがかなりしんどかった。
イギリス人から見た日本の音楽シーンという体で触れ込んでますが、作者は10年以上日本で暮らしており、解き方は日本人の視点に近いです。
資料的な価値は無いかと。
この本のタイトルは取り敢えず置いておくとして煽り文句の「日本では否定的なレビューがタブーとなっているのはなぜなのか」についてはpart1の一部のみです。
part2では音楽にある程度知識ある方なら誰もが知ってる日本の音楽シーンの推移。
part3になると日本の音楽の現状について海外展開やライブハウス、ブッキング更にはアイドルという視点で進んで行きます。
意識高めな訳の問題もあるのでしょうが、ある程度音楽を齧ってないと意味不明な単語が多いです。
筆者のバンドやミュージシャンの紹介もジャンルを無理やり組み込ませて紹介するので不明瞭な所が目に付きます。例えば「ポストロックとオールドスクールなエモな音」とか「チップチューンハードコア」といった具合に紹介されても何となく新しいことやってる体を醸し出してるだけで意味不明。
各部の冒頭で頻繁に出て来る作者のポエミーな導入も好き嫌いが別れるかもしれません。
主題がコロコロ変わり、改行少なめ句読点の乱用も酷く読むのがかなりしんどかった。
イギリス人から見た日本の音楽シーンという体で触れ込んでますが、作者は10年以上日本で暮らしており、解き方は日本人の視点に近いです。
資料的な価値は無いかと。