本書は朝日新聞の記者及び元記者が書いたバブル経済事件の調査報告書である。本書でも触れられているが、バブルについては日本経済新聞の元記者だった永野健二氏が著した『バブル』がある。この永野氏の名著に比べると、どうもバブル経済事件の取り上げ方が狭いというか偏っている感じがして、新書という文字数制限のせいかもと思いつつ、最後まで読了したら、最後の最後になって謎が解けた。本書はバブルというより、バブルに直面し、翻弄され、瓦解していった大蔵省銀行局であり、大蔵省主導の金融護送船団がメインのテーマで、バブルという壮大な経済事件ではなく、本書を貫く経糸は、徹頭徹尾大蔵省なのである。だったら本書の署名も「バブルと大蔵省」とか「大蔵省金融護送船団の崩壊」とかにすれば、より内容にフィットしたのである。
本書の章立ては、
第一章 尾上縫と日本興業銀行
第二章 高橋治則VS特捜検察、日本長期信用銀行
第三章 大和銀行ニューヨーク支店事件
第四章 大蔵省と日本債券信用銀行の合作に検察の矛先
日本興業銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行の三行は、かつて日本金融ピラミッドの頂点に君臨した長期信用銀行三行で、いずれも今は存在しない。しかし、映画『バブルへGO!』にも出てくるが、これら三行は、かつては就職先でも別格の存在として光り輝いていた(日債銀だけはちょっと格下だったが)。何しろ金融債、割引債の発行を求められていて、自分で資金調達が出来たので、都市銀行のようにどぶ板踏んでの預金集め営業が無かったのである。支店も少なく、金融護送船団の頂点にいたので、かつて日本が圧倒的な資金不足だった時代は、文字通り特権的な銀行として君臨出来ていたのである。それがアメリカ発の金融自由化で長期信用銀行を取り巻く環境ががらりと変わる。かつて、日本では零細な国民の預金を銀行その他が集めて企業に流す間接金融中心主義が採られ、大企業がマーケットで社債を発行して直接資金を調達することが禁じられていた。だから長期信用銀行は居ながらにして、東京電力、東京ガス、新日本製鐵、日本鋼管、日産自動車といった巨大企業に、それなりの利ザヤを乗せて貸し付けて利益をあげていたのである。それが金融自由化でがらりと変わる。これら巨大企業はマーケットで普通社債を発行し、日本の銀行より遥かに安い金利で直接自由に資金を集めることが出来るようになり、長期信用銀行は大企業という顧客をいっぺんに失うことになったのだ。本来なら、そこで、長期信用銀行は投資銀行業務へと転換し、市場での資金調達を助ける存在へと転換すべきだった。しかし、投資銀行には支店網はいらないし、人員もそんなに抱えることは出来ない。大幅な人員削減が不可避だったが、それは「終身雇用」が前提の日本では出来ない話だったのである。そこで興銀、長銀、日債銀がのめり込んだのが不動産バブル融資だった。
かつて、興長銀日債銀は秀才中の秀才が集まる銀行だった。国家公務員試験で大蔵省、通産省を落ちて、文部省に行くくらいなら興銀にいくみたいなことが、一流大学の学生の間で、平然と語られていた。しかし、私は学校秀才は万能の天才ではないと見ている。秀才とは、あくまで与えられた知識を上手く整理し、理解し、暗記して、吐き出すのが得意な、いわばパソコンみたいな連中で、確かに便利ではあるが、いままで想定していなかった新事体で、常に正解を出せるとは限らないし、正解が自己否定につながる場合、敢えて正解を追求するより保身を選ぶ、そういう存在だと見ている。はやい話、秀才は乱世には弱いのである。それが、本書ではものの見事に証明されている。あの興銀が、ただの飲み屋のババアにのべで2兆7736億円を貸し付け、尾上が逮捕された当日、尾上が抱えていた4691億円の借金のうち、実に2295億円が興銀及びその子会社からの貸付だったのだ。
長銀も似たようなものだ。私はバブルのピーク時に、高橋治則らとすれ違っている。高橋らは堂々と「長銀は絶対に我々を潰せない。我々が潰れるときは、長銀も道連れにする」と公言していた。そして本当に長銀は高橋らの道連れにされ、地上から消滅してしまった。私の大学時代の同級生はJALのスチュワーデスと結婚し、長銀に勤務していたが、長銀が潰れる前に長銀を去った。本書を読むと、高橋治則という男は、やはり事業というものがそもそも理解できていなかったのだろう。カネを無尽蔵に調達できるものと思い込んでいたとしか思えない記述が本書のあちこちに出てくる。そんな高橋に貸し込んだmpは、長銀の「秀才集団」である。情けない。そして本書に詳しく出ているが、一旦「EIEがヤバい」となった後の、長銀の慌てぶりが、またひどい。EIEに長銀関係者が乗り込んでいって、勝手に優良資産を売却しては長銀が貸し付けたお金の返済に充てるというのは、どうみても違法である。気持ちは分かるが、これはまずい。まあ、秀才なんて、こんなものである。
大和銀行のドラマの主人公は、実は西村吉正銀行局長である。結局、国際金融の経験がなく、米国当局の行動基準が皮膚感覚で分かっていない人物が、金融行政のトップに君臨し、強大な権限を振るっていたことが、日本にとっても、大蔵省にとっても、大和銀行にとっても、不幸であったとしか言いようがない。大和銀行事件で日本の金融行政は大混乱に陥り、最終的に金融機関の監督権限は大蔵省からはく奪されて、新たに金融庁が設置されるのだが、その原因を作ったのは西村である。西村自らが、国内の業界秩序と金融秩序を最優先に考える内向き志向であったがゆえに、アメリカから厳しい処断を受ける最大の原因を作ったことが、本書を読むと手に取るように分かる。
日本債券使用銀の章をみると、出てくるのは大蔵省から日債銀に派遣された窪田と、日本銀行から日債銀に派遣された東郷ばかりで「おかしいな」と思っていたが、本書が描きたいメインテーマが大蔵省の金融行政の崩壊だということが分かれば納得である。要するに本書の著者にとって、日本債券信用銀行なんかどうでも良くて、日本債券信用銀行という腐った船に最後の船長として送り込まれた窪田と東郷のコンビが、褒められるどころか刑事被告人にされてしまうという悲劇が、最後の章のメインテーマである。2003年7月、被告人質問の最後に裁判長は窪田に尋ねている。
裁判長「10対0で負けている野球の試合の9回にリリーフ登板して敗戦投手にされるようなものだという新聞記事がありましたが、被告人はどうおもいますか」
窪田「火事を消しに行った消防士が火の消し方が悪いと非難されているようなもので、気持ちの整理が難しいところです」
結局、バブルで裁かれたのは、大蔵省を頂点とする日本の秀才ピラミッドが、戦後の高度成長の中で、いつしか「偏差値が高い我々は万能の神であり、地球を支配できる」と驕り高ぶったことではないかと考えている。永野健二さんの本には、日本興業銀行は暴力団や右翼とつながっていて、表の社会で解決不能なトラブルが起きると、こうした暴力団右翼を差し向けて、最終的に問題を解決していたかの話が出てくる。日本のエリートは、暴力団を手なずけ、使っているつもりが、バブルの中で先方も資金を蓄え、やがて増長するようになって、正面玄関から表社会に土足で乗り込んでくるようになって、収拾がつかなくなったのである。それが一気に清算されたのが総会屋事件で、総会屋がいなくなると、今度は野村証券の収益力もめっきり減って今日に至っている。
そういいながら、バブルの清算は最終段階に近付いている。結局、不動産に群がった欲深な連中は、人口減少で需要が減少した地価が暴落する中で、いま本当に泡と消えようとしている。バブルよ、さようなら。
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バブル経済事件の深層 (岩波新書) Kindle版
バブル崩壊がきっかけとなって発生した数々の経済事件。それらはやがて、日本の金融・行政システムをも揺るがし、長年にわたって日本経済を苦しめることになった。「平成」が終わろうとする今、そこから何を未来への教訓とすべきか。新証言や新資料を発掘し、新たな視点から重要な事件を再検証。背後にある深い闇の奥へとわけ入る。
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2019/4/19
- ファイルサイズ5319 KB
商品の説明
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
奥山/俊宏
朝日新聞編集委員。1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞社入社。福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『秘密解除ロッキード事件―田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店)で司馬遼太郎賞(2017年度)受賞。福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含めた業績で日本記者クラブ賞(2018年度)受賞
村山/治
1950年、徳島県生まれ。1973年、早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。91年、朝日新聞社入社。2017年から、フリージャーナリスト。金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93、94年)、大蔵汚職事件(98年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) --このテキストは、paperback_shinsho版に関連付けられています。
朝日新聞編集委員。1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞社入社。福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『秘密解除ロッキード事件―田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店)で司馬遼太郎賞(2017年度)受賞。福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含めた業績で日本記者クラブ賞(2018年度)受賞
村山/治
1950年、徳島県生まれ。1973年、早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。91年、朝日新聞社入社。2017年から、フリージャーナリスト。金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93、94年)、大蔵汚職事件(98年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) --このテキストは、paperback_shinsho版に関連付けられています。
内容(「BOOK」データベースより)
平成の三〇年は、バブルの絶頂に始まり、その崩壊、その後始末に費やされた「失われた三〇年」だった。戦後日本の経済統治体制を突き崩し、金融システムを揺るがせ、大蔵省と検察がせめぎあった、その時代の重要事件を再検証する。「今だから正直に言えることがある」。新証言や未公開資料を発掘、事件の深奥へとわけ入る。 --このテキストは、paperback_shinsho版に関連付けられています。
登録情報
- ASIN : B07V5HZFK8
- 出版社 : 岩波書店 (2019/4/19)
- 発売日 : 2019/4/19
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 5319 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 本の長さ : 272ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 179,759位Kindleストア (の売れ筋ランキングを見るKindleストア)
- - 1,505位岩波新書
- - 8,883位投資・金融・会社経営 (Kindleストア)
- - 21,825位ビジネス・経済 (Kindleストア)
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著者について
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1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、特別報道部、社会部など。2013年、朝日新聞編集委員。2022年、上智大学教授。インターネット新聞『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
著書『秘密解除 ロッキード事件 田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店)が第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。
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2019年5月4日に日本でレビュー済み
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「なか見!検索」が出来ないので参考のため目次を記します。 「序章」に続いて
第1章:尾上縫と日本興業銀行・・・◎
第2章:高橋治則 vs 特捜検察、日本長期信用銀行・・・〇
第3章:大和銀行ニューヨーク支店事件・・・△
第4章:大蔵省と日本債権信用銀行の合作に検察の矛先・・・△
序章で平成2年~17年が「第2の敗戦」というのに違和感を感じる。平成は大災害があったものの戦争がなく飢餓もない、日本の歴史において最も良い時代ではなかったか?
第1章は非常に易しい章。出典が無ければ週刊誌を読んでいるのと錯覚。尾上縫という人は神がかりの天才相場師と思っていたが、小学校の算数の計算ができない人(興銀からワリコーを買い、それを担保に同じ興銀から借金。つまり逆ざや) しかし、これを他人事と考えてはいけない。スケールは遥かに小さいが現在のサブリース問題も地主が損をする構造になっている。
第2章も易しい章。面白く読めます。
第3章は大和銀行の米国社員の不祥事で11億ドルの損失を発生し、日本の頭取に告白状を送ったが米国の法律を知らない銀行幹部と大蔵省銀行局がFRBへの報告を怠った(1week以内に報告要)ため莫大な罰金と米国撤退、他の米国進出銀行が欧米銀行から融資を受ける際ジャパンプレミアムという高金利を余儀なくされたという話。
第4章は記述がごちゃごちゃしていて必ずしも分り易くない。
まとめると、本書は大衆受けする順番に各章を配置したようです。著者は二人とも新聞記者なので「啓蒙書」ではなく新聞を読んでいる気分。年表が無いのも残念です。
第1章:尾上縫と日本興業銀行・・・◎
第2章:高橋治則 vs 特捜検察、日本長期信用銀行・・・〇
第3章:大和銀行ニューヨーク支店事件・・・△
第4章:大蔵省と日本債権信用銀行の合作に検察の矛先・・・△
序章で平成2年~17年が「第2の敗戦」というのに違和感を感じる。平成は大災害があったものの戦争がなく飢餓もない、日本の歴史において最も良い時代ではなかったか?
第1章は非常に易しい章。出典が無ければ週刊誌を読んでいるのと錯覚。尾上縫という人は神がかりの天才相場師と思っていたが、小学校の算数の計算ができない人(興銀からワリコーを買い、それを担保に同じ興銀から借金。つまり逆ざや) しかし、これを他人事と考えてはいけない。スケールは遥かに小さいが現在のサブリース問題も地主が損をする構造になっている。
第2章も易しい章。面白く読めます。
第3章は大和銀行の米国社員の不祥事で11億ドルの損失を発生し、日本の頭取に告白状を送ったが米国の法律を知らない銀行幹部と大蔵省銀行局がFRBへの報告を怠った(1week以内に報告要)ため莫大な罰金と米国撤退、他の米国進出銀行が欧米銀行から融資を受ける際ジャパンプレミアムという高金利を余儀なくされたという話。
第4章は記述がごちゃごちゃしていて必ずしも分り易くない。
まとめると、本書は大衆受けする順番に各章を配置したようです。著者は二人とも新聞記者なので「啓蒙書」ではなく新聞を読んでいる気分。年表が無いのも残念です。
2019年5月4日に日本でレビュー済み
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4つの事件を、金融機関、大蔵省、特捜検察の動き、4人の主人公による証言、4つの物語という組み立てにしている点が新鮮だった。
バブルを振り返ろうとするとつい数多くの事件を列挙してしまいがちだが、ここではあえて絞り込んでいること、記者二人が当事者に会っていることで迫力、すごみが出ている。事実関係を押さえつつもそこだけでなく、会話形式を挿入していることで全体的に読みやすく、場面や映像が浮かびやすくなっている。また、毎回最後に全体をまとめてあり、歴史的にどのような位置づけなのか解説があるため、単なる物語として読み終えることができない。これをどう見たらいいのかと考える視点を提供している。質が高い。
バブルを振り返ろうとするとつい数多くの事件を列挙してしまいがちだが、ここではあえて絞り込んでいること、記者二人が当事者に会っていることで迫力、すごみが出ている。事実関係を押さえつつもそこだけでなく、会話形式を挿入していることで全体的に読みやすく、場面や映像が浮かびやすくなっている。また、毎回最後に全体をまとめてあり、歴史的にどのような位置づけなのか解説があるため、単なる物語として読み終えることができない。これをどう見たらいいのかと考える視点を提供している。質が高い。
2021年10月6日に日本でレビュー済み
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前半の尾上縫の部分は読みました。
この本を見るまで、この人物のことは忘れており、当時ニュースステーションで、久米広さんが尾上縫が逮捕されたと報道していた記憶があります。大坂の料亭に、銀行を手玉にとる凄腕の女将がいることに、唖然としておりました。
当時の松下電器も被害に合っており、別書籍の「血族の王」によると、幸之助より追及を受けた当時の責任者は、気の毒に退職に追い込まれています。
奈良県の貧しい農家出身の尾上縫は、高等教育を受けた訳ではなく、金融の専門知識があった訳ではやはり無かった。多くは経験則から得た知識を最大限活用し、大胆に立ち回ることで、料亭の女将になったものと思われます。
社会構造の変化より、融資先を失った日本興業銀行が、ある意味人のいい尾上縫を顧客先に見出し、冷静に考えれば経済活動として成り立たない、融資を繰り返していた。世の中全体がバブル経済に埋没していると、高度な経済知識を持っているはずの銀行でも、必ず破綻がくることを見抜くことができなくなる、あるいは見抜くことを避けたのかもしれません。
この本を見るまで、この人物のことは忘れており、当時ニュースステーションで、久米広さんが尾上縫が逮捕されたと報道していた記憶があります。大坂の料亭に、銀行を手玉にとる凄腕の女将がいることに、唖然としておりました。
当時の松下電器も被害に合っており、別書籍の「血族の王」によると、幸之助より追及を受けた当時の責任者は、気の毒に退職に追い込まれています。
奈良県の貧しい農家出身の尾上縫は、高等教育を受けた訳ではなく、金融の専門知識があった訳ではやはり無かった。多くは経験則から得た知識を最大限活用し、大胆に立ち回ることで、料亭の女将になったものと思われます。
社会構造の変化より、融資先を失った日本興業銀行が、ある意味人のいい尾上縫を顧客先に見出し、冷静に考えれば経済活動として成り立たない、融資を繰り返していた。世の中全体がバブル経済に埋没していると、高度な経済知識を持っているはずの銀行でも、必ず破綻がくることを見抜くことができなくなる、あるいは見抜くことを避けたのかもしれません。
2021年7月17日に日本でレビュー済み
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仕事がら、事件の教訓に目が行きます。
① 尾上縫事件ー興銀がプライベートバンカーを目指すも自身を驕り過ぎた?ロックフェラービルを買ったナントカ地所と同じ匂いを感じました。お調子モンなんですよね、日本人って。
② 長銀とイ・アイ・イ高橋ー長銀が新生銀行に変わって2011年まで、ずっと訴訟していたことは、まったく知りませんでした。詐害行為まがいで長銀の敗訴の結果三桁億のお金が高橋氏に戻ったそうで。マヌケです。
③ 大和銀行NY支店事件ー10年以上にもわたるNYでの一人のディーラーによる損失隠し、それと事件の米国当局への報告遅れとルールの無知だそうで。コンプライアンスって日本の銀行には無かったということでしょうか??この事件は、教訓が多いはずです。また、現在でも何か不祥事が起きると、その全容がわかってから公表するという姿勢が、日本企業に多いのではないかと推測します。
日債銀事件ー公認会計士の監査って何だったの?という日本の上場制度の根幹が問われた事件と思いますが、結局は銀行だけ悪者にされてシャンシャン。
総じて規制緩和による金融ビッグバンを日本の銀行システムの安定性を度外視して行った政治主導のツケという側面もあります。準備不足というかもう少しマシなグランドデザインもあり得たような気もします。
① 尾上縫事件ー興銀がプライベートバンカーを目指すも自身を驕り過ぎた?ロックフェラービルを買ったナントカ地所と同じ匂いを感じました。お調子モンなんですよね、日本人って。
② 長銀とイ・アイ・イ高橋ー長銀が新生銀行に変わって2011年まで、ずっと訴訟していたことは、まったく知りませんでした。詐害行為まがいで長銀の敗訴の結果三桁億のお金が高橋氏に戻ったそうで。マヌケです。
③ 大和銀行NY支店事件ー10年以上にもわたるNYでの一人のディーラーによる損失隠し、それと事件の米国当局への報告遅れとルールの無知だそうで。コンプライアンスって日本の銀行には無かったということでしょうか??この事件は、教訓が多いはずです。また、現在でも何か不祥事が起きると、その全容がわかってから公表するという姿勢が、日本企業に多いのではないかと推測します。
日債銀事件ー公認会計士の監査って何だったの?という日本の上場制度の根幹が問われた事件と思いますが、結局は銀行だけ悪者にされてシャンシャン。
総じて規制緩和による金融ビッグバンを日本の銀行システムの安定性を度外視して行った政治主導のツケという側面もあります。準備不足というかもう少しマシなグランドデザインもあり得たような気もします。
ベスト100レビュアー
いわゆる尾上縫事件、何で興銀という大銀行が一料亭の女将に二千億以上のお金を融資するのか不思議だったし、また何でその女将が、こんなに莫大なお金が必要なのかもわからなかった。そうか、すべてがバブルという時代の狂気が生んだ仇花だったんだ。アメリカからの強烈な圧力による政府の内需拡大路線の過程で、土地や株の値段が一挙に何倍にも膨れ上がり、それらをちょっとうまく転がしただけで莫大な利益が転がり込んでくる。人の心も狂ってしまった。
ただ思うのは、当時、すべてが尾上縫のせいにされてしまったが、この本を読むと、興銀の方がはるかに悪いというのがよくわかる。株式や社債の発行による直接金融が増え、興銀自身が個人のお客等にシフトせざるを得なくなった時に、そのカモとして現れたのが、おだてられやすくて、見栄っ張りで、無知で愛想のいい女性、尾上縫だったんだ。その尾上によってたかって取り入り、バブル崩壊と共にすべての責任を尾上に押し付け、逃げ足早くトンズラしてしまった興銀、何て悪いんだ。
思い出すのは、やたら押し出しがいい興銀頭取がバリトン声で国会で喋る姿である。あの時、不思議に思ったのが、他の銀行の偉い人たちが次々と逮捕された(多くは後に無罪になったが)のに、何で興銀関係者だけは捕まらなかったかということである。よっぽど検察にコネでもあったんかいなと疑ってしまう。しかし、この事件の後、結局興銀もなくなってしまった。興銀や高橋治則でつぶれた長銀、拓銀や山一証券の破綻と共に、大銀行や大企業でもあっという間に消えてなくなってしまうことがあるんだ、ということを教えてくれたのが平成という時代でした。
ただ思うのは、当時、すべてが尾上縫のせいにされてしまったが、この本を読むと、興銀の方がはるかに悪いというのがよくわかる。株式や社債の発行による直接金融が増え、興銀自身が個人のお客等にシフトせざるを得なくなった時に、そのカモとして現れたのが、おだてられやすくて、見栄っ張りで、無知で愛想のいい女性、尾上縫だったんだ。その尾上によってたかって取り入り、バブル崩壊と共にすべての責任を尾上に押し付け、逃げ足早くトンズラしてしまった興銀、何て悪いんだ。
思い出すのは、やたら押し出しがいい興銀頭取がバリトン声で国会で喋る姿である。あの時、不思議に思ったのが、他の銀行の偉い人たちが次々と逮捕された(多くは後に無罪になったが)のに、何で興銀関係者だけは捕まらなかったかということである。よっぽど検察にコネでもあったんかいなと疑ってしまう。しかし、この事件の後、結局興銀もなくなってしまった。興銀や高橋治則でつぶれた長銀、拓銀や山一証券の破綻と共に、大銀行や大企業でもあっという間に消えてなくなってしまうことがあるんだ、ということを教えてくれたのが平成という時代でした。
2019年5月8日に日本でレビュー済み
取り上げられている四大銀行(興銀、長銀、大和、日債信)のうち、とりわけ大和銀行については、当時”バブルの塔”的な本社をぶっ建てた大和銀行本店の近所にある会社に勤めていた者としては、そのクライアントでもあった当行が特に印象深い。事件の主人公・井口クンが出した手記がベストセラーになったりして、とりわけ地元大阪では、行きつけスナックのママさんの間でも話題沸騰だった…
興銀の乱脈融資先尾上おばさんの事件もそうだけど、他の三つの事件は、結局、銀行の不正融資が発端になってるっていうことに尽きるんじゃないか。で、当時の護送船団長・大蔵省の意思決定の遅さがそれに輪をかけた。で、不正融資は今も止まらず、森友問題でも財務省の佐川クンはうまく逃げおおせている・・・っていう構図。
岩波新書と思えないタブロイド判夕刊紙のような書きぶりで、一気に読ませる面白さはあるけど、結局、そこまで。だんだん退屈になってきて、タイトルにある”深層”は何なのか、っていうことはよくわからなかったな。
興銀の乱脈融資先尾上おばさんの事件もそうだけど、他の三つの事件は、結局、銀行の不正融資が発端になってるっていうことに尽きるんじゃないか。で、当時の護送船団長・大蔵省の意思決定の遅さがそれに輪をかけた。で、不正融資は今も止まらず、森友問題でも財務省の佐川クンはうまく逃げおおせている・・・っていう構図。
岩波新書と思えないタブロイド判夕刊紙のような書きぶりで、一気に読ませる面白さはあるけど、結局、そこまで。だんだん退屈になってきて、タイトルにある”深層”は何なのか、っていうことはよくわからなかったな。