記述から察するに著者のデビュー作である。
著者は新聞社の特派員として、ヨハネ・パウロ二世の逝去と後継のベネディクト16世の誕生を現地で目の当たりにしている。キリスト形の学校で学んだようだが、率直に言ってバチカンについての深い知識は本書を読む限りあまり感じられない。
一方で、本書にも書かれているとおり日本人のバチカン理解、いや宗教に関する知識は明らかに不足しており、それは前法王の葬儀に首相はもちろん、閣僚級の参列もしなかったことに明白に現れている。
ある意味で同レヴェルの本は竹下節子氏が数年前に上梓しており、いまでも多少増補した文庫本が入手できる。一方、カトリック司祭による著書には護教的意識が強すぎて、歴史がきちんと書かれていないものもある。
そういう意味で期待して読んだのだが、やや失望した。
その原因は、ひとつには特派員として見聞した多くの事柄(それは一定の魅力があることは否定しないが)を整理し切れておらずに記述が散漫になっていること。
第二は、その評価には未確定部分はあるもののヨハネ・パウロ二世というおそらく法王史上に長く記憶されるであろう法王と、それに代わる現法王の記述を新書という小著に押し込んだため、どちらについてもやや中途半端に終わっていることがあげられる。
が、先に書いたように著者の処女作であろう。勤務先の都合で著者がバチカンをこれからも見つめ続けることは、あるいは困難かもしれない。が、たとえば英語だけでもヨハネ・パウロ二世の著書や評伝類は無数に出ている。玉石混交ともいえるし、その評価は難しい。でも、彼の葬儀にバチカンを訪れた膨大な人々の心情は否定できない。
著者には是非これを機会に研鑽を積み(巻末の参考文献はあまりにお粗末)もう一段、深い本(例えば、前法王の評伝など)を目指してほしいと思う。それは「宗教音痴」の日本人には大きな寄与となると確信する。期待を込めて☆は厳しくした。
- 新書: 232ページ
- 出版社: 岩波書店 (2007/10/19)
- ISBN-10: 4004310989
- ISBN-13: 978-4004310983
- 発売日: 2007/10/19
- 梱包サイズ: 16.8 x 10.6 x 1 cm
- おすすめ度: 9件のカスタマーレビュー
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