訳者があとがきで述べている様に、西欧人にとって交渉は普段の生活だが、日本人にとっては避けるべき厄介ごとだというのはそうだと思う。とはいうものの、グローバル社会になってくると外国人と交渉しなければいけない場は避けられないわけであり、交渉術を高めることは今の日本人にとって重要だと思う。トランプとヒラリーの公開討論は、交渉ではなく相手を攻撃して自分の正しさを主張するいわゆるディベートというものだが、まあ、あれだけ口が立つものだと感心する。日本もオウム事件のころは、「ああ言えば上祐」と言われた男がいたが、会社などでの議論の質は残念ながら日本人はまだまだ学ぶことが多いような気がする。ただでさえ英語が苦手なのに、ディベートが達者で英語もできるインド人などには苦戦している。
この本のポイントを簡単にまとめると、交渉から感情を切り離して、理屈を盾にして客観的に解決せよ、ということだ。
相手の立場に立って考えるというのは基本で、相手が何を望んでいて何を望んでないかということがわからないと交渉の土台に立つことすらできない。そして相手の見方、感じ方に心底理解できて同情してくると相手と自分が共感できて、共同で問題を解決しようという空気が生まれてくる。この同情はSympathyではなくてEmpathyのこと。
このステップなしにいきなり自分の希望や条件を突きつけると、相手は防御態勢になりこちらがその後いくら理由を説明しようとしても、その間相手は反発のうまい理由を探すのに脳がフル活用されて、お互いの理解にはたどり着けない。
共同で問題解決しようという流れになってきたときに、使用するのに面白いな、と思ったのが4つの思考過程を示した円形図だ。まずは現実世界でどんな問題が発生しているかを整理し、その後理論世界で問題の原因を分析する。次はそのまま理論世界であるべき対策、解決策を考え、最後に現実世界に戻って実際に策を実行に移す。
とはいうもの交渉がなかなか両者が完全に納得するという風に終わることは少ないわけで、そういうときは「駆け引き型」交渉をせずに、「原則立脚型」交渉をするように、というのがこの本の主旨だ。単に相手が1000円、こちらが2000円と主張しているから、1500円にする、というのではなく、本来いくらであるべきか、という客観的なルールや事実を有効に提示すると交渉を有利にすすめることができるということ。
また、交渉を進めるにあたって、かならず交渉が不成立になったときの対策を「不調時対策」と呼んでいるが、これがいわゆるバックアッププランとかプランBとかいうもので、交渉が進み、相手から条件が提示されるたびに、不調時対策と比較し、不調時対策よりも悪い条件であれば、交渉を決める必要がないというもの。考えてみれば誰でも交渉時は当たり前にやっているようなことだけれど、きっちり理論だてて説明されると、確かにそうだな、と感じた。面白いのは、相手の不調時対策を推定し、相手がもしも楽観的に構えているようなら、そこを突き崩すという作戦だ。戦いながら相手の逃げ道を狭めていくようなやりかたでなかなか権謀術数といった感じだ。
また「追い詰め戦術」というふうに紹介されているが、相手がどんどんプレッシャーをかけてくる場合は、冗談をいって調子を狂わせたり、自分の立てた原則を何を言われても繰り返していうだけにするなど、相手のプレッシャーに乗せられて、焦って失敗しないようにする。テニスでいうとハードヒットをロブで返すような方法。これは仕事の議論などでもよく使える手法といえる。
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