ハリー・ニルソンの伝記は本国アメリカで彼の没後21年を経た2015年に出版されている。日本での彼の人気・知名度から、まさか邦訳本は出ないだろうと思っていたので、出版されたことに正直驚いた。そしてそれ以上に、ニルソンの伝記を日本語で読めることが嬉しかった。なにより訳者と出版社に感謝である。
この伝記は、実に多くの証言を集め、過去の資料を掘り起こし、ニルソンのあらゆる楽曲ほぼすべてに言及し、悪口雑言やミュージシャンの伝記にありがちな下世話な話題に偏ることもない上質な仕上がりになっている。ニルソンによる自伝の草稿に助けられた面もあったと思うが、家族やニルソンと関わりのあったひとたちの、ハリーのために良い本を作って残してあげたいという気持ちが惜しみない協力という形になって結実したように思えるし、なにより著者自身がニルソンの人生と誠実に向き合って書き上げたことが文章から窺え、ハリー・ニルソンの一ファンとして感謝せずにいられない。
一般的にニルソンとは「うわさの男」と「ウィザウト・ユー」の歌手であり、ジョン・レノンとのコラボ「Pussy Cats」で終わったひとなのだが、この伝記においてそれは、本文2段組み427ページ中の274ページに過ぎない。晩年というにはあまりにも長すぎるニルソンのその後の20年にも光を当て、残り150ページあまりにわたって、ミュージシャンであり続けた、いや、あり続けようとしたニルソンが語られている。
インターネットが普及した現代と違い、ニルソンが活躍していた頃は海外ミュージシャンの情報は非常に少なく、限られていた。当時のニルソン・ファンはみな、音楽雑誌にニルソンの名前を見つけては歓喜し、レコードのライナーノーツを繰り返し読みながら各々自分にとってのニルソン像を心の友として作り上げていたんじゃないかと思う。それで充分幸せだったんだ。この伝記を読むことで、そのニルソン像がより確固たるものになるのか、あるいは崩れ落ちて新たなニルソン像が浮かび上がるかは人それぞれであるだろうけれど、ぼく自身は自分のこれまでの決して順調とは言えない人生と併せて、大阪弁で言うところの「ほんまに、アホな奴やなぁ。。。」と彼のことをしみじみ思うのである。それゆえ、死期を悟ったニルソンが友人ジミー・ウェブを誘って車の中で自身の楽曲集を聴き、その後おとずれた静寂の中 " Well, that’s my life’s work. Thanks for listening. " とつぶやいた逸話に、ふと涙腺が緩んだりするのだ。
1973年1月下旬、ニルソンがリチャード・ペリーと来日したことは残念ながら本文には一言触れてあるだけだ。その時の記者会見で、ライナーノーツが必要か否か映画評論家の野口久光氏と論争して場が険悪な雰囲気になったそうだが、ニルソンの頑固な一面が表れたエピソードとして書いてほしかった。個人的には、深夜オールナイト・ニッポンを聞いていた時、ニルソンが突如現れ、誰に教えてもらったのか「オッス、オッス」とDJの亀渕"カメ"昭信氏に連呼していたことが懐かしく思い出された。
この伝記本の記述で不思議に思ったことがひとつある。ニルソンが亡くなった日をUna夫人の証言も紹介しながら1月17日としている点だ。原書にもそう記されている。しかし、彼の墓石には January 15 と彫刻されているし、ニルソンの死亡記事が日本の新聞に掲載されたのが17日の朝刊なのだ。よくわからない。まさか15日が土曜日だったので役所の手続きが月曜日の17日、なんてないわなぁ。。。
さて、邦訳本で気になったのが表紙の装画だ。そのモチーフから、ニルソンをよく知るひとの手によると思われる興味深い力作だが、本の内容、というかこの伝記が醸し出す雰囲気と異なり、読了後違和感を覚えるようになった。好みもあるだろうけれど、個人的には「NILSSON: The Life of a Singer-Songwriter」という原題と同様、晩年のニルソンの写真をあしらった少し暗めだが格調ある原書の表紙の方がこの伝記には合っているように思う。(逆に、海外の書評で Fine biography - don't judge this book by its cover とあったので、やはり好みや感性は人それぞれってことでしょうか/笑)
巻末には原書にはないジャケットのカラー写真付きの美しいデスコグラフィーと、植草"J・J"甚一氏がかつて手掛けたニルソン宣伝用ポスターの縮小版がついている。ファンとして、嬉しい限りだ。
ハリー・ニルソンの肖像 (日本語) 単行本 – 2018/1/8
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本の長さ500ページ
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言語日本語
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出版社国書刊行会
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発売日2018/1/8
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ISBN-104336062471
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ISBN-13978-4336062475
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
大ヒット曲“うわさの男”“ウィザウト・ユー”で知られるアメリカのシンガー・ソングライター、ハリー・ニルソンの初にして決定版伝記がついに登場!ビートルズの面々が絶賛した変幻自在の声をもつ不世出のアーティストの波瀾にみちた生涯を、ジョン・レノン、リンゴ・スターらとの伝説的交遊やレコード制作秘話など豊富なエピソードとともに描く。
著者について
1953年生まれ。音楽評論家・ミュージシャン。ジャズ評論のほか、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックで教鞭をとりながらベーシストとしてバンドも率いている。主な著作にFats Waller His Life and Times (1988) Groovin' High: The Life of Dizzy Gillespie (1999) A New History of Jazz (2001) I Feel A Song Coming On - The Life of Jimmy McHugh (2009) Hi De Ho - The Life of Cab Calloway (2010)などがある。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
シップトン,アリン
1953年生まれ。音楽評論家・ミュージシャン。ジャズ評論執筆のほか、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックで教鞭をとりながらベーシストとしてバンドも率いている
奥田/祐士
1958年広島県生まれ。東京外国語大学英米語学科卒業。雑誌編集をへて翻訳業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1953年生まれ。音楽評論家・ミュージシャン。ジャズ評論執筆のほか、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックで教鞭をとりながらベーシストとしてバンドも率いている
奥田/祐士
1958年広島県生まれ。東京外国語大学英米語学科卒業。雑誌編集をへて翻訳業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 国書刊行会 (2018/1/8)
- 発売日 : 2018/1/8
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 500ページ
- ISBN-10 : 4336062471
- ISBN-13 : 978-4336062475
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 628,164位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 1,113位海外のロック・ポップス
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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