著者は1961年生まれのメディア論研究者である。本書は「ネット右派」と評される人々が発信した言説の内容を丹念に追ったものである。
対象の時代は1990年代から2010年頃までで、インターネットの普及によりメディアが既存の新聞・雑誌・テレビからインターネットに移行していった時代に相当する。本書の特徴はメディア分析の枠組みを「アジェンダ」と「クラスタ」との組み合わせで、一貫して分析していることである。アジェンダとは言説の論題を、クラスタとは、ほぼ意見が一致している集団を意味する。本書が取り上げた右派的言説のアジェンダは、「嫌韓」「反リベラル市民」「歴史修正主義」「排外主義」「反マスメディア」の五つ、クラスタは、右翼系セクターの三つのクラスタ(既成右翼系、新右翼系、ネオナチ極右)、保守系セクターの二つのクラスタ(サブカル保守、バックラッシュ保守)、およびビジネス保守クラスタの合計六つのクラスタである。
本書によれば、ネット右派は1990年代からの形成期を経て、2010年代には成熟期あるいは普及期に入り、2010年代半ばには停滞期に入った。本書が注目するのは特に形成期である。初期のネット右派の主体はサブカル保守やバックラッシュ保守であり、反リベラル市民アジェンダや歴史修正主義アジェンダが主にテーマであったが、2000年代に入ると右翼系クラスターが合流し、アジェンダも嫌韓や排外主義がテーマとなり、行動も過激となって世間を騒がせることになる。一方、2000年代以降には在特会に代表される嫌韓かつ排外主義的活動へのアンチ活動も盛んになり、ようやくネット党派の活動も下火となる。
評者は、本書が取り上げたネット右派とその言説を暗黙の裡に後押ししたのが安倍政権であったと考えている。安倍政権の暗黙の了解と、日本会議系政治家、および右派評論家による「表」(右派系雑誌や新聞など)の排外主義的言説がなければネット右派の跋扈はあり得なかったのではないか。本書は貴重な研究ではあるが、ネット右派のメディア分析だけではなく、その典型的な「人物像」が可視化されるともっと迫力が出たと思われる。本書に併せて、樋口直人氏の『日本型排外主義』(名古屋大学出版会、2014年刊)など一連の研究を参照すると、ネット右派が立体的に把握できる。
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