利己的な遺伝子と断続平衡説。生物進化について激しい論争を繰り広げた両巨頭がドーキンスとグールドである。著者が最後に述べているように、ドーキンスよりの印象を与える部分もあるが、全体として公平に中立に両者の論説をまとめているように思う。
書中にもふれられているが、両者の論争はドーキンス対グールドという対立以上にドーキンス派対グールド派の感情的応酬という様相を呈している以上、自分の立ち位置について一定の留保を置くこと、ドーキンスとグールド本人たちの論説に立脚することが問題を整理するために絶対的な前提となるのだろう。
結局両者のどちらがより「正しい」のか。
そういった問いは無意味なように思えた。
ある局面ではグールドがより正しく、ある局面ではドーキンスがより正しく、両者の説が両立しうる場面もある。論争が長引くということはどちらかが絶対的に正しいというわけではないからであろう。将来的には両者の論説を包含する大理論が現れてくるのかもしれない。
実は個人的にはあまり読みやすい本とは言えなかった。
両者の論説をよくまとめてはいるのは確かだが、まとまりすぎていて本書を読んだだけではよくわからないところが多い。進化論に詳しい人ならともかく、門外漢にはハードルが高いという印象だ。
ドーキンス VS グールド (ちくま学芸文庫) 文庫 – 2004/10/7
キム・ステルレルニー
(著)
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本の長さ206ページ
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出版社筑摩書房
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発売日2004/10/7
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ISBN-104480088784
-
ISBN-13978-4480088789
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商品の説明
メディア掲載レビューほか
ドーキンスvs.グールド
自然淘汰と遺伝子の働きを重視し、利己的遺伝子説を唱えたリチャード・ドーキンス博士と、断続平衡説を提唱した古生物学者スティーヴン・ジェイ・グールドが生物進化の仕組みについて戦わせてきた論争の解説。
自然淘汰と遺伝子の働きを重視し、利己的遺伝子説を唱えたリチャード・ドーキンス博士と、断続平衡説を提唱した古生物学者スティーヴン・ジェイ・グールドが生物進化の仕組みについて戦わせてきた論争の解説。
後代に残す自身の子孫の数を極大化するために、生物(遺伝子)の、多様性が生まれたとするドーキンスに比べ、化石を研究してきたグールドは環境への適応を重視しない。
グールドは、「動物の系統はもっとも根本的な部分においては、非常に長い期間にわたって変化しない」と主張しており、大量絶滅の際に多くの種が姿を消しても、そのとき生き残ったものは、適応度よりも偶然に助けられたということになる。
スピード感あふれる訳文と動物学者の新妻昭夫氏の解説、さらに索引と各章ごとに詳細な解題が付いて、丁寧な編集姿勢も印象的な文庫本だ。
(日経バイオビジネス 2005/01/01 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
-- 日経BP企画
内容(「BOOK」データベースより)
生物の行動パターンやありようを「利己的な遺伝子」によって説明し、適応は遺伝子の淘汰であると考えたリチャード・ドーキンス。古生物学者として大量絶滅に可能性を見いだし、進化は偶然に助けられたとして「断続平衡説」を説くスティーヴン・J・グールド。現代における進化と適応についての研究成果をさまざまな側面から公成にたどることにより、この2人の視点を徹底的に検証。論議の応酬が絶えなかった20世紀の生物進化における最大の論争に決着をつける。本邦初訳。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ステルレルニー,キム
オーストラリアのシドニー大学で哲学を修め、現在、ウェリントンのヴィクトリア大学の哲学教授。オーストラリア国立大学でも教鞭を執る。専門は生物学の哲学、心理学の哲学など
狩野/秀之
1963年生まれ。東京大学教養学部卒業。新聞社勤務のかたわら翻訳業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
オーストラリアのシドニー大学で哲学を修め、現在、ウェリントンのヴィクトリア大学の哲学教授。オーストラリア国立大学でも教鞭を執る。専門は生物学の哲学、心理学の哲学など
狩野/秀之
1963年生まれ。東京大学教養学部卒業。新聞社勤務のかたわら翻訳業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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VINEメンバー
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2011年2月27日に日本でレビュー済み
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生物の進化論者として高名な二人の先生の論を、
対比させつつ、互いに論破されうる要素をぶつけていきます。
ドーキンスが「利己的な遺伝子」、キーワードは「遺伝子の戦争」と「乗り物の進化」です。
グールドが「偶発の結果」、キーワードは「大量絶滅」と「たまたま」です。
全体を通してたいへんわかりやすく、平易な文体で書かれており、
読むのにはそれほど苦労することはないかと思います。
ただ、ちょっと内容が浅いので、物足りなさを覚えるかも…
そんな方は、お二人の単著を読まれることをお勧めいたします。
※きっと、ぐいぐい惹きつけられますよ。
二人とも文章を書くのがめちゃくちゃ上手いんです。
ちなみに、どちらの論が優れているかどうかの答えを出すことが目的ではなく、
「スケール」ごとに、それぞれの論を取り扱うべきだとする筆者の考えに
ひどく納得させられました。
ただ、個人的にはグールドの考えのほうが好きなんですが。
スケールがでかすぎて、実証できない分、ドーキンスの論と比較して、
説得性にかけるのは仕方ない。
対比させつつ、互いに論破されうる要素をぶつけていきます。
ドーキンスが「利己的な遺伝子」、キーワードは「遺伝子の戦争」と「乗り物の進化」です。
グールドが「偶発の結果」、キーワードは「大量絶滅」と「たまたま」です。
全体を通してたいへんわかりやすく、平易な文体で書かれており、
読むのにはそれほど苦労することはないかと思います。
ただ、ちょっと内容が浅いので、物足りなさを覚えるかも…
そんな方は、お二人の単著を読まれることをお勧めいたします。
※きっと、ぐいぐい惹きつけられますよ。
二人とも文章を書くのがめちゃくちゃ上手いんです。
ちなみに、どちらの論が優れているかどうかの答えを出すことが目的ではなく、
「スケール」ごとに、それぞれの論を取り扱うべきだとする筆者の考えに
ひどく納得させられました。
ただ、個人的にはグールドの考えのほうが好きなんですが。
スケールがでかすぎて、実証できない分、ドーキンスの論と比較して、
説得性にかけるのは仕方ない。
2008年9月14日に日本でレビュー済み
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本書のテーマはタイトル通り、生物の進化に対して「利己的遺伝子説」を採るドーキンスと、「断続平衡説」を採るグールド、それぞれの特徴を説明しながら共通点と相違点を明らかにするというものである。
本文で著者自身の立場はどちらかというとドーキンス寄りとは書いてあるものの、グールドの考えも評価できる部分はきちんと評価するというとても客観的な姿勢で好感が持てる。
また、用語解説もついていて初心者にもわかりやすく、巻末の解説だけでも読み応え有り。
二人の著作を未読の人は、本書で対立点を理解してから読めばわかりやすいだろうし、既読の人は本書で上手に整理することができるように思う。
とにかく、進化や生物学に興味がある人であれば誰が読んでも面白いはず。良書。
本文で著者自身の立場はどちらかというとドーキンス寄りとは書いてあるものの、グールドの考えも評価できる部分はきちんと評価するというとても客観的な姿勢で好感が持てる。
また、用語解説もついていて初心者にもわかりやすく、巻末の解説だけでも読み応え有り。
二人の著作を未読の人は、本書で対立点を理解してから読めばわかりやすいだろうし、既読の人は本書で上手に整理することができるように思う。
とにかく、進化や生物学に興味がある人であれば誰が読んでも面白いはず。良書。
2004年12月4日に日本でレビュー済み
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ドーキンスとグールドの互いの主張が共通する点・異なる点をコンパクトにまとめた小論であり、内容がわかりやすく文章も読みやすい。この二人の著書をあらかじめ読んでおけば、なお一層理解が深まるだろう。
ときどきグールドを引き合いに出してダーウィニズムは間違っているなどと吹聴するトンデモ本があるが、この本を読めばドーキンスとグールドは進化の根本部分の理解に関してかなりの部分で共通していることがわかるだろう。
ときどきグールドを引き合いに出してダーウィニズムは間違っているなどと吹聴するトンデモ本があるが、この本を読めばドーキンスとグールドは進化の根本部分の理解に関してかなりの部分で共通していることがわかるだろう。
VINEメンバー
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ドーキンスは好きでたくさん読んだし、グールドも数冊読んでいる。それで、両者の違いはある程度認識していたし、ドーキンスのグールドに対す追悼文を読んでも論争してたんだなあとは思っていたが、双方は取り巻きを含めてかなりヒートアップしてたのね。
著者の言う通り、ドーキンスとグールドの立場はそれほど離れているわけではない。ほとんど同じなのだが、違う部分は専門家として譲れなかったのだろう。そりゃあそうだ。学問てそんなもんだわね。
私自身はドーキンスにも負けない現実主義者だから、ドーキンスの言い分が正しく思える。それでも、グールドの提供した視点は、それの反論を考えることで進化論に対する理解が深まる、重要なものだ。彼が間違えたところは、クリティカルな問題を含んだところばかりなのだ。この両者の論争が面白くなるわけだ。
私はこの論争の中で抜け落ちている見方が一つあるのではないかと考えている。それは、表現形の進化が地質学的時間で見ると極めて速いと言うことだ。これは、例えば犬の進化を考えれば分かる。犬は家畜化以降たかだか一万年で大きさや形があんなに変化した。地質記録をいくら見ても進化が一瞬で起こったように見えるのは当然だ。では、一般に進化は遅いと言われるのはなぜかと言うと、環境の変化速度が遅いからだ。つまり、一瞬で環境に適応した後は、生物は環境が変化する速度でしか進化しない。これが、進化の断続平衡の実態だと私は固く信じている。
本書でも進化は遅いことは自明なこととして議論をさばいている。人間の時間スケールでは確かに遅いのだが、地質学的時間の理解を生物学者は体得していないのだろう。
まあ、ドーキンスとグールドを別々に読んだ方が良いような本だが、ダイジェストなり理解の整理なりをするにはコンサイスで便利かもしれない。
著者の言う通り、ドーキンスとグールドの立場はそれほど離れているわけではない。ほとんど同じなのだが、違う部分は専門家として譲れなかったのだろう。そりゃあそうだ。学問てそんなもんだわね。
私自身はドーキンスにも負けない現実主義者だから、ドーキンスの言い分が正しく思える。それでも、グールドの提供した視点は、それの反論を考えることで進化論に対する理解が深まる、重要なものだ。彼が間違えたところは、クリティカルな問題を含んだところばかりなのだ。この両者の論争が面白くなるわけだ。
私はこの論争の中で抜け落ちている見方が一つあるのではないかと考えている。それは、表現形の進化が地質学的時間で見ると極めて速いと言うことだ。これは、例えば犬の進化を考えれば分かる。犬は家畜化以降たかだか一万年で大きさや形があんなに変化した。地質記録をいくら見ても進化が一瞬で起こったように見えるのは当然だ。では、一般に進化は遅いと言われるのはなぜかと言うと、環境の変化速度が遅いからだ。つまり、一瞬で環境に適応した後は、生物は環境が変化する速度でしか進化しない。これが、進化の断続平衡の実態だと私は固く信じている。
本書でも進化は遅いことは自明なこととして議論をさばいている。人間の時間スケールでは確かに遅いのだが、地質学的時間の理解を生物学者は体得していないのだろう。
まあ、ドーキンスとグールドを別々に読んだ方が良いような本だが、ダイジェストなり理解の整理なりをするにはコンサイスで便利かもしれない。
2005年2月4日に日本でレビュー済み
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名著「利己的な遺伝子」のドーキンスと、これまた名著の「ワンダフルライフ」のグルードの作者の論争内容をまとめた一般向けの書物です。
この本はどちらかの主張に偏ることなく冷静に双方の違いを解説しています。
私の理解では、「利己的な遺伝子」では遺伝子が自分が広く、長い間存在しつづけるために宿主(動物)の行動は遺伝子によって制御されている。という考えです。
例えば、ある動物が自分の子が危険にさらされているとき、助けて生き残れる可能性と、見殺しにしてその後、別に子供を産んで再び育て上げられる可能性と確率の高い方を選ぶはずだというのです(そういう行動をとらせる遺伝子が生き残る)。また「人間だけは理性により遺伝子の束縛を逃れることができる」というような内容のことを書いているのですが、ここを読み飛ばして「人間も遺伝子の奴隷なのだ!」とのたまうトンデモさんが世の中、多い気がします。
(本書には説明はありませんが)「ワンダフルライフ」は、カンブリア時代の(進化上の)大爆発直後の地層であるバージェス頁岩から出てきた大量と奇妙な動物たちを通じて、生物の多様性(異質性)は、カンブリア時代が最大で、その後の進化はマイナーチェンジに過ぎないといった説(断続平衡説)を展開しています。
ドーキンスは「動物の行動」を重要視しているのに対し、グルードは「体のデザイン」を重要視していると感じます。まぁ、詳しくは本書を見てみれば違いがよく分かります。いずれにしても二人ともふかーーーく考えているのが感じられます。
最後に二人の大きな違いをもう一点。
ドーキンスは無神論者で、科学原理主義者です。それに対しグルードは人間が生きていく上で、神を信じることを許容しています。「ワンダフルライフ」は映画「素晴らしき哉、人生!」からとったタイトルです(この映画、天使が出てくるそうです)。
本書を読めば、「利己的な遺伝子」も「ワンダフルライフ」も両方等も読みたくなるはずです。是非お勧め!
この本はどちらかの主張に偏ることなく冷静に双方の違いを解説しています。
私の理解では、「利己的な遺伝子」では遺伝子が自分が広く、長い間存在しつづけるために宿主(動物)の行動は遺伝子によって制御されている。という考えです。
例えば、ある動物が自分の子が危険にさらされているとき、助けて生き残れる可能性と、見殺しにしてその後、別に子供を産んで再び育て上げられる可能性と確率の高い方を選ぶはずだというのです(そういう行動をとらせる遺伝子が生き残る)。また「人間だけは理性により遺伝子の束縛を逃れることができる」というような内容のことを書いているのですが、ここを読み飛ばして「人間も遺伝子の奴隷なのだ!」とのたまうトンデモさんが世の中、多い気がします。
(本書には説明はありませんが)「ワンダフルライフ」は、カンブリア時代の(進化上の)大爆発直後の地層であるバージェス頁岩から出てきた大量と奇妙な動物たちを通じて、生物の多様性(異質性)は、カンブリア時代が最大で、その後の進化はマイナーチェンジに過ぎないといった説(断続平衡説)を展開しています。
ドーキンスは「動物の行動」を重要視しているのに対し、グルードは「体のデザイン」を重要視していると感じます。まぁ、詳しくは本書を見てみれば違いがよく分かります。いずれにしても二人ともふかーーーく考えているのが感じられます。
最後に二人の大きな違いをもう一点。
ドーキンスは無神論者で、科学原理主義者です。それに対しグルードは人間が生きていく上で、神を信じることを許容しています。「ワンダフルライフ」は映画「素晴らしき哉、人生!」からとったタイトルです(この映画、天使が出てくるそうです)。
本書を読めば、「利己的な遺伝子」も「ワンダフルライフ」も両方等も読みたくなるはずです。是非お勧め!
ベスト500レビュアー
英国のリチャード・ドーキンスと、米国のスティーヴン・ジェイ・グールドは、奇しくも同じ1941年に生まれた(グールドは2002年に死去)進化生物学者で、ドーキンスは『利己的な遺伝子』、グールドは『ワンダフルライフ』などの一般向けの科学書を多数著しており、一般的な知名度の極めて高い学者である。
本書では、オーストラリアの哲学者キム・ステルレルニーが、その二人を比較し、両者の間での論争を吟味した上で、両者の間の相違点と共通点をあぶりだし、それぞれの特徴を鮮明にしている。
内容を大まかに整理すると以下である。
◆ドーキンスとグールドは、進化生物学における異なった知的・国家的伝統をそれぞれ代表している。ドーキンスの恩師は動物行動学者であり、そうした背景が、ドーキンスを適応の問題に敏感にさせ、適応的な行動が系統の中でいかに進化し、個体の中でいかに発達するかに関心を抱かせている。一方、グールドの恩師は古生物学者であり、ある動物の能力と環境の要請との一致は、もし存在したとしても、化石生物の場合には現生成物ほど明瞭ではないという事情がグールドの考え方に影響を与えている。
◆ドーキンスは、遺伝子の系統が複製されようとする競争こそ、進化の根本的な競争だと見なす。長い生命の歴史の中には、大陸分裂・火山噴火・海や氷原の拡大縮小などの地球の地質学的な現象や、小惑星の衝突・太陽の活動の変化などの地球の外部からの力により、偶発的に大量絶滅が起こったこともあるが、その間の時期には、進化は普遍的かつ強力なものとして、遺伝子の構成を変化させ、遺伝子の「乗り物」である生物に適応的な改良を生じさせてきた。
◆一方、グールドは、動物を構成する主な形は全てがほぼ同じ時期に生み出され、それ以降は新しいものは一つも生じていないという見方をしており、それは、進化が新たな適応を生み出すときにその歩みを止めたりはしないということと矛盾すると考える。グールドは、進化のメカニズムについても、過去の大量絶滅の際に生き残ったものは、適応度よりもむしろ偶然に助けられたと考えており、ドーキンスに比べると、進化の歴史を説明する上で自然淘汰にあまり重きを置かない(「断続平衡説」)。また、淘汰の働きについても、ドーキンスがいう遺伝子レベルでの淘汰という考えに懐疑的で、個々の遺伝子が生物にもたらす効果は、同じ動物内の他の遺伝子や環境の様々な特性に左右されるのであり、淘汰が働く場合は、個体に対して作用するのが通常だと考える。
◆両者は「科学」に対する評価も異なる。ドーキンスは典型的な啓蒙主義者で、科学は完全であり全てを説明しうると考えるが、グールドは、起こりうる科学的発見とは別に、人文科学、歴史、更には宗教さえもが価値の問題に省察を与えると考える。
上記のように意見の対立が強調される二人ではあるが、解説では、大衆に対しダーウィン主義的な進化を啓蒙するときには、手を携えて協調していたし、自然界の脅威に魅了される歓びや、そのような脅威こそ純粋に自然科学的な説明に値するという確信を含めて、共通するところも多かったことも付記されている。
(2018年1月了)
本書では、オーストラリアの哲学者キム・ステルレルニーが、その二人を比較し、両者の間での論争を吟味した上で、両者の間の相違点と共通点をあぶりだし、それぞれの特徴を鮮明にしている。
内容を大まかに整理すると以下である。
◆ドーキンスとグールドは、進化生物学における異なった知的・国家的伝統をそれぞれ代表している。ドーキンスの恩師は動物行動学者であり、そうした背景が、ドーキンスを適応の問題に敏感にさせ、適応的な行動が系統の中でいかに進化し、個体の中でいかに発達するかに関心を抱かせている。一方、グールドの恩師は古生物学者であり、ある動物の能力と環境の要請との一致は、もし存在したとしても、化石生物の場合には現生成物ほど明瞭ではないという事情がグールドの考え方に影響を与えている。
◆ドーキンスは、遺伝子の系統が複製されようとする競争こそ、進化の根本的な競争だと見なす。長い生命の歴史の中には、大陸分裂・火山噴火・海や氷原の拡大縮小などの地球の地質学的な現象や、小惑星の衝突・太陽の活動の変化などの地球の外部からの力により、偶発的に大量絶滅が起こったこともあるが、その間の時期には、進化は普遍的かつ強力なものとして、遺伝子の構成を変化させ、遺伝子の「乗り物」である生物に適応的な改良を生じさせてきた。
◆一方、グールドは、動物を構成する主な形は全てがほぼ同じ時期に生み出され、それ以降は新しいものは一つも生じていないという見方をしており、それは、進化が新たな適応を生み出すときにその歩みを止めたりはしないということと矛盾すると考える。グールドは、進化のメカニズムについても、過去の大量絶滅の際に生き残ったものは、適応度よりもむしろ偶然に助けられたと考えており、ドーキンスに比べると、進化の歴史を説明する上で自然淘汰にあまり重きを置かない(「断続平衡説」)。また、淘汰の働きについても、ドーキンスがいう遺伝子レベルでの淘汰という考えに懐疑的で、個々の遺伝子が生物にもたらす効果は、同じ動物内の他の遺伝子や環境の様々な特性に左右されるのであり、淘汰が働く場合は、個体に対して作用するのが通常だと考える。
◆両者は「科学」に対する評価も異なる。ドーキンスは典型的な啓蒙主義者で、科学は完全であり全てを説明しうると考えるが、グールドは、起こりうる科学的発見とは別に、人文科学、歴史、更には宗教さえもが価値の問題に省察を与えると考える。
上記のように意見の対立が強調される二人ではあるが、解説では、大衆に対しダーウィン主義的な進化を啓蒙するときには、手を携えて協調していたし、自然界の脅威に魅了される歓びや、そのような脅威こそ純粋に自然科学的な説明に値するという確信を含めて、共通するところも多かったことも付記されている。
(2018年1月了)