歴史人物評伝とあるので史実に基づいた研究・評価を期待したのですが、期待し過ぎでした。
例えば第二章から、「標準装備のティーガー戦車は、馬力にも火力にも優れる重戦車だ。これがフランスに攻めてきたら、どうなるか。自分に預けられた貧弱な軽戦車を眺めるにつけ、ドゥ・ゴールは焦りに駆られた。(p43)」などとあってビックリさせられます。ティーガーの量産は1942年でまだ存在せず、開戦時はむしろフランスのほうが単純な戦車性能では勝っていた位でしょう。
マジノ線に関しても、「ベルギーは中立国であり、その国土をドイツが侵犯するとは考えられない。かかる楽観から工事は打ち切られ、マジノ線は途切れたままになっていた。こんな穴の開いた要塞に、フランス軍の幹部たちは絶対の自信を抱いていたのだ。(p45)」とありますが、もちろんフランス軍幹部はそこまで愚かなわけもなく、ベルギー・オランダ方面へ進出して防衛することでドイツ軍を防ぎ、フランス国土を守るという、ディール計画を立てていました。マジノ線は、ドイツ軍を誘導するためわざと開けていたという意見もあったはずです。
このように、この本全体を通じて、少なくとも私には、フランスの失敗や各種困難は愚かな他者の責任とし、あるいはそもそも書かずに見なかったことにして、主人公ドゥ・ゴールを(ありきたりな)英雄として記述するという、著者の姿勢が感じられました。またそのためか、ドゥ・ゴールの具体的な行動や判断内容などの記述も乏しく感じられ、正直小説としてみても余り面白くないと思われます。
結局、ドゥ・ゴール神話を元ネタにした中身の薄い小説といった所が、私の読後の感想です。
ドゥ・ゴール (角川選書) (日本語) 単行本 – 2019/4/26
佐藤 賢一
(著)
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本の長さ360ページ
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言語日本語
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出版社KADOKAWA
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発売日2019/4/26
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ISBN-104047036129
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ISBN-13978-4047036123
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
二度の失脚、二度の救国―。20世紀の政治家で、彼ほどドラマチックな挿話に満ちた人物はいない。1940年のパリ陥落のあと、ロンドンに逃れ自由フランス政府を設立。BBCでレジスタンスを呼びかけるが、敵国ナチスの傀儡・ヴィシー政府を率いるのは軍隊時代の上官ペタンだった。フランス降伏という最悪の事態から自国を再生させ、戦後はアメリカの保護を拒否。強いフランスの威信を内外に訴えた大政治家の足跡を活写する歴史人物評伝。
著者について
●佐藤 賢一:1968年、山形県鶴岡市生まれ。山形大学教育学部を卒業後、東北大学大学院文学研究科で西洋史学を専攻。1993年「ジャガーになった男」(集英社)で第6回小説すばる新人賞、99年『王妃の離婚』(集英社)で第121回直木賞を受賞。2014年『小説フランス革命』(全12巻、集英社)で第68回毎日出版文化賞特別賞を受賞。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
佐藤/賢一
1968年、山形県鶴岡市生まれ。山形大学教育学部を卒業後、東北大学大学院文学研究科で西洋史学を専攻。93年「ジャガーになった男」(集英社)で第6回小説すばる新人賞、99年『王妃の離婚』(集英社)で第121回直木賞を受賞。2014年『小説フランス革命』(全12巻、集英社)で第68回毎日出版文化賞特別賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1968年、山形県鶴岡市生まれ。山形大学教育学部を卒業後、東北大学大学院文学研究科で西洋史学を専攻。93年「ジャガーになった男」(集英社)で第6回小説すばる新人賞、99年『王妃の離婚』(集英社)で第121回直木賞を受賞。2014年『小説フランス革命』(全12巻、集英社)で第68回毎日出版文化賞特別賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : KADOKAWA (2019/4/26)
- 発売日 : 2019/4/26
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 360ページ
- ISBN-10 : 4047036129
- ISBN-13 : 978-4047036123
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 212,417位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 120位フランス史
- - 799位ヨーロッパ史一般の本
- - 1,413位直木賞受賞(101-125回)作家の本
- カスタマーレビュー:
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2020年6月24日に日本でレビュー済み
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2019年12月31日に日本でレビュー済み
本書は、ドゥ・ゴールというフランス史に傑出した人物を中心に据えることで、一気に読める物語として第2次世界大戦前後から第5共和制成立にかけてのフランスを描き出している。
ヤルタ会談にもポツダム会談にも参加できなかったフランスが、なぜ国際連合常任理事国の一角を占めることができたのか?それは、ドイツに敗北した「敗戦国フランス」が、国際政治のメインプレイヤーの一つとしての地位を回復するために、ドイツに対して戦争に勝利するだけでなく、アメリカ・イギリスに対しても外交の舞台で譲歩することなくフランスの立場を主張し続けた結果であり、フランスの国益を一身に背負ったドゥ・ゴールの存在がある。
戦後の失脚の後、アルジェリア独立をめぐってフランスが内乱の危機に陥った時にドゥ・ゴールは再びフランスの危機をおさめ、現在に続く第5共和制を確立する。
もちろんそれらの成果はドゥ・ゴールただ一人によるものではなく、その背景には彼を支えた有名・無名の多くの人たちの努力があったはずである。それでもフランスの2度の危機の時に先頭に立ったドゥ・ゴールの足跡は、すなわち第2次世界大戦前後から第5共和制成立にかけてのフランスの苦闘の歴史である。
ヤルタ会談にもポツダム会談にも参加できなかったフランスが、なぜ国際連合常任理事国の一角を占めることができたのか?それは、ドイツに敗北した「敗戦国フランス」が、国際政治のメインプレイヤーの一つとしての地位を回復するために、ドイツに対して戦争に勝利するだけでなく、アメリカ・イギリスに対しても外交の舞台で譲歩することなくフランスの立場を主張し続けた結果であり、フランスの国益を一身に背負ったドゥ・ゴールの存在がある。
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もちろんそれらの成果はドゥ・ゴールただ一人によるものではなく、その背景には彼を支えた有名・無名の多くの人たちの努力があったはずである。それでもフランスの2度の危機の時に先頭に立ったドゥ・ゴールの足跡は、すなわち第2次世界大戦前後から第5共和制成立にかけてのフランスの苦闘の歴史である。