著者は、歴史的な哲学者だ。哲学に疎い人でも、アトランティス伝説を著述したことは知っている、哲学より、この伝説での通りが良いかもしれない。
レビュアーが著者のことを知ったのも小学生のとき。世界の謎を扱った読み物の中でである。もっとも、アトランティス伝説に関しては、手塚治虫原作の「海のトリトン」が初見だったのだが。成長するにつれ、マンガの元ネタが、ギリシャ哲学者だったことを知った。
訳者によると、本対話篇は、世界では、一番知られた著作なのだそうだ。しかし、レビュアーは、少なくとも図書館の類で、本対話篇蔵書を見たことがない。ほかの著作はそろっているのに、である。なぜだろう。日本で一般人にも有名にした伝説なのに。いや、どうやら、教条的教育主義者が、余計な知識を与えたくなくて、本書の蔵書を認めなかったのではないか、と思ってしまうぐらい。
田舎在住ゆえ、本書の訳本を見かけるのは夢のまた夢で、すっかりあきらめていた。新訳本の案内をみて、ずっと心にとめていたのだが、ようやく、入手できるに至った。
伝説の個所を一番最初に確かめたが、思い直して通読してみた。ティマイオスは、物理学から生命科学を織り込んだ宇宙論について著されている。一方のクリティアスは、アトランティス伝説をこれから詳述しようとしたものの、未完となっている。晩年の著とされていて、執筆が困難になったか、急死か、とにかくこの先が知りたかった著作である。
これまでに訳された本を読むことはかなっていないので、比較はできないのだが、しっかりていねいに訳されたものだと感じる。
その根拠は、ほかならぬ、アトランティス伝説に関する部分の訳し方だ。
少し脱線する。
日本でのアトランティス研究第一人者は、元SFマガジン編集長で、ミステリー現象研究家の南山宏氏であろう。その氏が、アトランティス論文を雑誌に発表した際、憂慮していたことがあった。それは、日本では、アトランティスは大陸という認識がある、ということだった。氏によると、アトランティス文明が栄えたのは、島であって、大陸ではなかったと指摘している。クリティアスに記されたサイズも大陸とするには難がある。氏は、懸念を表明するにあたり、英語訳ではなく、ギリシャ語の原典を直接あたり、大陸ではなく島であると確認したという。
なぜに島ではなく大陸という誤解が広まってしまったのかは不明ながら、研究する際は可能な限り原典をあたるべきであるとする指針とその大切さを強調していた。
そして、本書。アトランティス「島」と訳している。あとがきの中では一か所だけ大陸としてしまっているが、これは日本人の「常識的教養」がうっかり出てしまったようだ。対話篇の本文では、どちらもしっかりと「島」と訳出してくれている。真摯に向き合って訳出したことが感じ取れる。注釈もきちんとしている。惜しむらくは、この注釈が、文末にまとめて列挙されていることだ。これにより、本文と注釈を行ったり来たりすることを余儀なくされ、読み進めることに余計な時間を費やすことになった。氏ではなく、編集方針にやや難があったと思う。ただでさえ難解な文言が続いている文章についての注釈はできるだけ視線移動が少ないほうが良いと考える。具体的には、旧約聖書の注釈のように本文下に掲載したほうがベター。その分ページ数は増えてしまい価格に影響を及ぼすだろうが、少々価格が上昇しても読みやすさを考慮した編集のほうが後世的にも吉と思ったことを記しておく。評価のひとつ減は、これによる。
でも、良い訳本であると思う。入手できるうちに行動するべし。
追記 いくつかの記憶違いがあったため、訂正した。
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。

Kindle化リクエスト
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。