家庭裁判所調査官が主役の連作短編小説との前知識で読み始めたところ、最初の1話目が銀行強盗に巻き込まれる学生らの話で、えっどういうこと?と思いながら2話目を読むと、1話目は、家裁調査官となった陣内の学生時代に遭遇した話であったことが分かります。
この1話目と2話目はミステリー的要素が強く、期待していたものとちょっと違っていたのですが、その後も調査官となって活躍する陣内と、それから十数年前の時代を描いた短編とを交互に配列することで、全体として一つの長編小説としても成立しているという、伊坂幸太郎らしい巧い構成となっています。
特に秀悦だったのは4話目の「チルドレンⅡ」。
陣内の裁判所での同僚で、夫婦関係調整調停事件に携わる武藤の視点で描かれるこのお話では、陣内が携わる少年事件の少年が見事なリンクをみせ、感動的な終着点をみせます。
そして、このお話で居酒屋で酔っ払いに「犯罪を犯したダメな少年を更生させるなんて奇跡みたいなもんだ」と絡まれた際の陣内の次の言葉が圧巻です。
「俺たちの仕事はそれだ。俺たちは奇跡を起こすんだ」
少年犯罪は再犯率が高い。
一見見た目普通で頭のいい不良少年は、大人の前では殊勝な態度をみせ、専門的知見を持つ家庭裁判所調査官でさえ信用させてしまう。
したがって「家裁の調査官がサラリーマンよりも多く経験できるのは裏切られること」だという。
それでも「奇跡を起こすんだ」との陣内の言葉は圧巻です。
個人的に好きなのはラストを飾る「イン」。
陣内が家庭裁判所調査官になる前の時代を描くこのパートでは、陣内と偶然知り合いとなった盲目の青年永瀬の視点で語られるのですが、彼が付き合う女性優子が永瀬の目となって周りの状況を説明する場面がとても良いのです。彼女の説明で読んでいるこちら側にも穏やかな休日の情景が目に浮かび、なんとも心地が良いです。
なにげない時間の経過なのに、すごく特別な時間が流れている、「この特別な時間ができるだけ長く続けばいいな」と思う永瀬の気持ちはよくわかります。
最初はどうかと思った本書ですが、全体としてみると心地よい作品でしたので、つぎは「サブマリン」を読んでみたいと思います。
チルドレン (講談社文庫) Kindle版
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ISBN-13978-4062757249
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出版社講談社
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発売日2007/5/15
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言語日本語
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ファイルサイズ285 KB
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(Copyright© Web本の雑誌 POP王 POP姫)
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内容(「BOOK」データベースより)
「俺たちは奇跡を起こすんだ」独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々―。何気ない日常に起こった五つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。
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内容(「MARC」データベースより)
まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。信じること、優しいこと、怒ること。それが報いられた瞬間の輝き…。こういう奇跡もあるんじゃないか? ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「5つの奇跡」の物語。
--このテキストは、tankobon_hardcover版に関連付けられています。
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著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
伊坂/幸太郎
1971年千葉県生まれ。’95年東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。’04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞を、「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) --このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
1971年千葉県生まれ。’95年東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。’04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞を、「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) --このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
登録情報
- ASIN : B009GXLR0E
- 出版社 : 講談社 (2007/5/15)
- 発売日 : 2007/5/15
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 285 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 本の長さ : 352ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 16,830位Kindleストア (の売れ筋ランキングを見るKindleストア)
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2019年6月27日に日本でレビュー済み
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不思議で透明感あふれる物語。遠い日への郷愁も感じさせてくれる。登場人物のキャラクターも魅力的。主人公?の陣内のわけわからん正義感?はもちろん、盲目の青年永瀬君がうんといい。彼の登場場面は事件の渦中にあっても静謐な空気の中にある。盲目であるという大きな機能の喪失が彼を一歩引いて感じる存在にしているのかな。トリッキーないくつかの物語が約10年ほどの時を前後しながら語られていく。が、主題はそれぞれのトリックではなく、その中で刻まれる青年たちの彫像なのかな?
2019年6月7日に日本でレビュー済み
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陣内は声が大きく、自分の考えに絶対の自信を持ち、人当たりが強く、誰に対しても平等に振舞い、頑固。家庭裁判所調査官を生業にしているロックバンドマンだ。しかし彼は憎めないキャラクターで、付いてくる人間も多い。
そんな彼の周りで起きた不可解な出来事が、短編形式で書かれている。短編ではあるが、全編繋がっている。それぞれの章に別の章との繋がりがおき、最終的にすべてのもやもやが晴れるような仕組みとなっていて楽しい。
本のジャンルとしてはミステリーだろうか。陣内の周りで起きた変な事象が陣内により更に掻き回され、予測不能な事態を生み出す。その展開が読んでいて面白い。
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本のジャンルとしてはミステリーだろうか。陣内の周りで起きた変な事象が陣内により更に掻き回され、予測不能な事態を生み出す。その展開が読んでいて面白い。
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