ツーリズムと聞けば、普通は誰でも楽しい旅行を想起するでしょう。例えば東京◯◯リゾートは派手な演出を凝らして、どこまでも快楽と幻想を与えようとしています。その対極に位置するダークツーリズムは、その点で”いかにも地味”という性格は否めません。でも、決して楽しいことばかりの人生では無いように、歴史に埋もれた人間の罪や悲しさに触れることの意義は大きいと思います。また、筆者が与えてくれた新たな視点によって、私たちは、”最も楽しいこと”から”最も哀しいこと”その両極の間にある、これまで気付かなかった、見えなかった、様々な視点やテーマを発見し、それらを選ぶことができるようになります。
私たちは楽しい音楽によって元気付けられることもありますが、同時に哀しい音楽に癒されることもあります。一本調子の”励まし”を鬱陶しく感じることがあるように。楽しい小説、哀しい小説も同様です。優れた芸術においては、その内容が楽しいものでも、哀しいものでも、どちらも”人間が生きるための力”として享受できるのだ、と言えます。その意味で、筆者が提唱するダークツーリズムには、旅行というイベントに”深さ”をもたらし、新たな芸術表現ともなるような、大いなる可能性を感じさせてくれます。
食欲や物見遊山に特化したような”お定まりの旅行”には、とても付いて行けない。私もその一人です。そのため、今まで特に一人旅を好んでいたわけではないのですが、「一人旅しかできなかった」というのが本音です。「人間の真実に触れたい」「歴史の闇を覗いてみたい」「忘れられた記憶に出会いたい」そういう人は決して少なくないはず。
旅行である以上、旅程や旅費などに加え、テーマの設定も重要な要素になることでしょう。いかに人を魅了し、興味を惹きつけるテーマを設定するのか? このあたりが鍵になるように思います。このことは、今まで食わず嫌いだった”隠れたツーリストたち”を発掘し、旅の可能性を大きく広げることにもつながります。
本当ならば、旅行会社のマニアックな社員さんが真っ先に企画して欲しかったくらいですね。鉄道ファンが旅行会社や鉄道会社と組んで、面白い鉄道旅行を企画しているように。そんな中で筆者の視点と提案は、大変に貴重かつ重要なものであると思います。いつの日か、筆者とダークツーリズムを巡るお話ができればと願いつつ、レビューとさせていただきます。
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ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書) 新書 – 2018/7/30
井出 明
(著)
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人類の悲劇を巡る旅「ダークツーリズム」が世界的に人気だ。どんな地域にも戦争、災害、病気、差別、公害といった影の側面があるが、日本では、それらの舞台を気軽に観光することへの抵抗が強い。しかし、本当の悲劇は、歴史そのものが忘れ去られることなのだ。小樽、オホーツク、西表島、熊本、栃木・群馬などの代表的な日本のダークツーリズムポイントを旅のテクニックとともに紹介。未知なる旅を始めるための一冊。
- 本の長さ237ページ
- 言語日本語
- 出版社幻冬舎
- 発売日2018/7/30
- 寸法17.3 x 10.9 x 1.1 cm
- ISBN-104344985079
- ISBN-13978-4344985070
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
人類の悲劇を巡る「ダークツーリズム」が世界的に人気だ。どんな地域にも災害、病気、差別、公害といった影の側面があるが、日本では、それらの舞台を気軽に観光することへの抵抗感が強い。しかし、本当の悲劇は、歴史そのものが忘れ去られることだ。経済発展の裏で多数の非公認遊郭が存在した小樽、波照間島から強制移住させられた人々がマラリアで大量死した西表島、地元企業チッソの廃液で発生した水俣病によって死の海を抱える町という偏見に苦しんだ熊本・水俣など、代表的な日本のダークツーリズムポイントを紹介。未知なる旅を始める一冊。
著者について
観光学者。
金沢大学国際基幹教育院准教授。
近畿大学助教授、首都大学東京准教授、追手門学院大学教授などを経て現職。
1968年長野県生まれ。
京都大学経済学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、
同大学院情報学研究科博士後期課程指導認定退学。
博士(情報学)
社会情報学とダークツーリズムの手法を用いて、東日本大震災後の観光の現状と復興に関する研究を行う。共著に「観光とまちづくり―地域を活かす新しい視点」(古今書院)他。
金沢大学国際基幹教育院准教授。
近畿大学助教授、首都大学東京准教授、追手門学院大学教授などを経て現職。
1968年長野県生まれ。
京都大学経済学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、
同大学院情報学研究科博士後期課程指導認定退学。
博士(情報学)
社会情報学とダークツーリズムの手法を用いて、東日本大震災後の観光の現状と復興に関する研究を行う。共著に「観光とまちづくり―地域を活かす新しい視点」(古今書院)他。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
井出/明
観光学者。金沢大学国際基幹教育院准教授。近畿大学助教授、首都大学東京准教授、追手門学院大学教授などを経て現職。1968年長野県生まれ。京都大学経済学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、同大学院情報学研究科博士後期課程指導認定退学。博士(情報学)。社会情報学とダークツーリズムの手法を用いて、東日本大震災後の観光の現状と復興に関する研究を行う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
観光学者。金沢大学国際基幹教育院准教授。近畿大学助教授、首都大学東京准教授、追手門学院大学教授などを経て現職。1968年長野県生まれ。京都大学経済学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、同大学院情報学研究科博士後期課程指導認定退学。博士(情報学)。社会情報学とダークツーリズムの手法を用いて、東日本大震災後の観光の現状と復興に関する研究を行う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : 幻冬舎 (2018/7/30)
- 発売日 : 2018/7/30
- 言語 : 日本語
- 新書 : 237ページ
- ISBN-10 : 4344985079
- ISBN-13 : 978-4344985070
- 寸法 : 17.3 x 10.9 x 1.1 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 165,386位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 350位幻冬舎新書
- - 651位紀行文・旅行記
- - 5,302位エッセー・随筆 (本)
- カスタマーレビュー:
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ダークツーリズムとは、戦争や災害をはじめとする悲劇の場所をめぐり記憶を確かなものにする旅の手段として、1990年代にイギリスで登場した概念。日本では、3.11以降東浩紀氏らが『
チェルノブイリ・ダークツーリズムガイド
』を刊行して一般にも知られるようになりました。
事例として、北海道(稚内、サロマ湖岸、知床)、長野(戸倉上山田温泉、松代大本営)、熊本(水俣、三井三池)、栃木・群馬(渡良瀬川遊水池、足尾鉱山)やインドネシア、韓国、ベトナムなどをレポート。
場を移る無責任な旅人の立場だからこそ、負の遺産に触れながら複数の視点から集めた情報を再構成して、体系的に歴史を考えるきっかけにできるのではないかとしています。
事例として、北海道(稚内、サロマ湖岸、知床)、長野(戸倉上山田温泉、松代大本営)、熊本(水俣、三井三池)、栃木・群馬(渡良瀬川遊水池、足尾鉱山)やインドネシア、韓国、ベトナムなどをレポート。
場を移る無責任な旅人の立場だからこそ、負の遺産に触れながら複数の視点から集めた情報を再構成して、体系的に歴史を考えるきっかけにできるのではないかとしています。
2018年9月17日に日本でレビュー済み
井出明「ダークツーリズム」幻冬舎新書、2018を読み終える。戦争や虐殺、災害などの「人類の悲劇の場をたどる旅」と定義されるダークツーリズムが、世の中で広く認知されるきっかけとなる本として、今後も記憶されるのは間違いないだろう。
悲劇の場を訪れることで、旅の味わいが深くなるであろうことをこの本を読むことで、強く認識させられる。私自身も、イギリスのアイルランドに対する植民地支配の怨念を記録したダブリンの博物館や、長崎の爆心地の公園の旅は今も深く心に残る。
一方、この本は、客観性を追求した学術本ではない。著者自らの旅の経験(小樽、オホーツク、西表島、熊本、韓国、ベトナムなど)を通じてのダークツーリズムガイドといってよいだろう。現地への入り方や、宿やチケットの取り方まで書いてくれている。そして悲劇が起こった背景や遺跡の残し方について解説を加える。
この過程で、いろいろな悲劇に対する著者の認識が出てくる。悲劇のとらえ方は多様なだけに、必ずしも著者のとらえ方と同じでない点も少なくない。最初のうちは、ちょっと微温的ではないかとか、2つの悲劇への認識が、ダブルスタンダードになっているのではないかと感じたところもあった。しかし、読み進めていくうちに、現地を実際に歩き得た知識や、認識に基づき書いていて、その思いの深さを感じ、共感する部分が多くなっていった。そして、右からも左からも強く批判されかねない内容を書くということの、ダークツーリズムへの著者の思いの深さを感じるようになった。
ということで、読んでみるに値する本だと思います。そして、旅を豊かにしてくれる本だと思います。
悲劇の場を訪れることで、旅の味わいが深くなるであろうことをこの本を読むことで、強く認識させられる。私自身も、イギリスのアイルランドに対する植民地支配の怨念を記録したダブリンの博物館や、長崎の爆心地の公園の旅は今も深く心に残る。
一方、この本は、客観性を追求した学術本ではない。著者自らの旅の経験(小樽、オホーツク、西表島、熊本、韓国、ベトナムなど)を通じてのダークツーリズムガイドといってよいだろう。現地への入り方や、宿やチケットの取り方まで書いてくれている。そして悲劇が起こった背景や遺跡の残し方について解説を加える。
この過程で、いろいろな悲劇に対する著者の認識が出てくる。悲劇のとらえ方は多様なだけに、必ずしも著者のとらえ方と同じでない点も少なくない。最初のうちは、ちょっと微温的ではないかとか、2つの悲劇への認識が、ダブルスタンダードになっているのではないかと感じたところもあった。しかし、読み進めていくうちに、現地を実際に歩き得た知識や、認識に基づき書いていて、その思いの深さを感じ、共感する部分が多くなっていった。そして、右からも左からも強く批判されかねない内容を書くということの、ダークツーリズムへの著者の思いの深さを感じるようになった。
ということで、読んでみるに値する本だと思います。そして、旅を豊かにしてくれる本だと思います。
2020年3月22日に日本でレビュー済み
タイトルからすると、暗く、ディープで、珍スポット紀行のような何かキワモノの極端な旅行記のような印象を受ける。確かに人間の暗部を旅するダークツーリズムではある。しかし、それはあくまでも冷静に人間の業を見て、未来へ役立てようとする非常に希望に満ちたものである。また、終始冷静な筆致がすばらしい。それは学術論文のような固さでもなく、文学的なドラマチックさもない。暗闇を摘出するために筆者は注意深く、筆を進めていく。
長野、群馬、西表島など、自身が何度か行っているのに見逃していたところも多く、いかに自分の知識がないかを痛感した。いつか絶対に行こうと思っている。
長野、群馬、西表島など、自身が何度か行っているのに見逃していたところも多く、いかに自分の知識がないかを痛感した。いつか絶対に行こうと思っている。