なんだ!? この分量は!?
というのが、最初開いた時の偽らざる感想です。
長い長いと思っていた六話の倍以上あります。
概算ですけど文庫本一冊の基準たる十万字を軽く越えてます、それでいて取り分けて高価であるというわけでなく。
これはお値打ち価格と言っていいんですが、切りどころがわからない波濤たる勢いで大体の謎を解くと共に人体も解(バラ)してきます。
遅れてやってきた第十話と併せて第一部完――いや、冗談ではなくて完全疾走して燃え尽きました的な満足感に満ちているので、本当に予想外だった、とだけ言っておきます。
ここまで急遽まとめてきたのは政治的判断(出版の上の人の意向)もあるのでしょうが、完成度は落ちていません。重ねて言うと満足、大満足です。
筆者の得意とする激烈な人体破壊描写は相変わらず冴えつつ、今回は大量虐殺とそれに立ち向かう者たちのヒロイックな抵抗、そして我らが主人公シーエの満を持しての登場、と王道をお膳立てしているのがわかっていても強い。
と、同時に。
閉じた箱庭の繁栄が砂上の楼閣に過ぎないというのが、断片的な日常の片鱗の描写から伝わってきて。
それら市井の人々の犠牲者を担保に、英雄の誕生を演出するという極めて政治的な話であります。
わかっていて(・・・・・・)突き進むシーエ、その陰に隠れてよくわからないうちにとんでもなく酷い目に遭う橙子さんと、対比が効いてきて、いや美味しい。
闘争に至らない逃走劇を第一幕にカーテンフォール手前の大団円? まで持続する緊張感。
政治っていう得体の知れない怪物が右に左に揺れまくる現場をよそ事にしていたはずなのに、現況がヤバくなりすぎて逆に高見の判断を覆すって、逆転。
そこまで大暴れしてるのに、鶴の一声で矛を収める淘汰さんが怖すぎました。戦慄します。
小物は小物なままにしたたかさを発揮しましたが、退場描写なしに「はい終わり」って突き放す非情さ、別に今後一切合切一文たりとも割かれなくてもその後の運命を想像できよう、な逆転。
平依存、嫌いじゃないけど、それは平時に限った事なんですよね。同情もしないし、まぁ納得の末路ですね。
というか安全地帯ってどこですか?
おたくら敵を舐め過ぎでは? って認識の齟齬と誰それしか持っていなかった情報が差し迫った絶望と一縷の希望につながっていき、また自分自身さえ騙していた構図の逆転。
そんなこんなで逆転に至る一話から綿々と紡がれてきた伏線の回収が見事過ぎました。
マクロ単位の目標である「人類種の生存/繁栄」とミクロな指標である「外界への進出」がイコールで結ばれたというか、こういう答えの出ないはずの二律背反が、謎の解決と共に一直線に解消されるカタルシスが正しくエンタメしていて大好きです。
リソースをどっちに割くか悩むより、駆け抜けろ!
名シーンが多すぎて数えきれません。
嗜虐に快楽を見出す一方で無気力で忠実な軍人として振る舞うヴァ○ナ。
肉体も精神も凌駕して、魂で吼え迎え撃った橙子さん。
どれだけの年月を背負ってきたんだ、エムジ?
と、思ったらシーエの専用機の最悪すぎるネーミングにズッコケました。何があっても変わってねえ、こいつ。
けれども、そこから一気に切り替え、野放図だった構図がシーエという個を靭帯に網を織り、傲慢な鳥を叩き落とす絵図を一気に描き出すありさまにはまさに快感しか覚えませんでした。
けれども、「変態」という言葉には反するかもしれません。美しさというより悦楽が勝るしかない戦場で、ようやく美しさが勝った瞬間なのかもしれないと、そうとも思ったのです。
あと、これ以降は詳しく語りませんが、悪意で留まらず、凌駕したミカイヌの日記帳、物語を語る上で絶対に外せないところです。
もし、これが悪意仕立てで終始お仕着せのままで終わったのなら、私自身百パーセント、この頁を破り捨てていた(電子書籍だけど)と思います。
悪意はあるよ、けれどそれがすべてではない。
黒一色で塗りつぶしたなら逆に陳腐で、読めないさ。
太陽に近づけたちっぽけな虫「テントウムシ」、またの名を「紅娘」、彼女は確かにシーエを色付け、力付けました。
というか、御劔さんとの儀式と言い、退路を断ったというより活路を切り拓いたという感覚しか覚えないんですよね。
最後は魂で応えたというか、納得しか覚えません。
そして、最後、最後の最後は不穏な一石を投じたというか、むしろ石で滅多打ちの総仕上げというか、橙子さんがやっぱりひどい目に遭います。
……、筆者の悪意と性癖しか感じませんが同時に物語の主人公として安定したシーエとは逆軸に、今後の不確定要素を一心に背負うことになると思えば妙手と思っています。
いや、もうすごい。
まとめるに、ありとあらゆる外連味を詰め込んでいるはずなのにシーエという存在がそれを飲み込んで王道に転じつつも、外連味を失っていない。
改めて言うことではないかもしれません。
けれど、私はキメラとヒューマノイドの合いの子みたいなこの物語を愛おしく思います。時折ドン引きしつつ、微笑みますが――。
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ゼロマキナ 架空蛹をシーエは撃てない 単行本(ソフトカバー) – 2016/3/19
- Kindle版 (電子書籍)
¥0 Kindle Unlimited 会員は、このタイトルを追加料金なし(¥0)で読み放題 ¥360 Kindle 価格 獲得ポイント: 4pt - 単行本(ソフトカバー)
¥650
Deinoオリジナルキャラクター「シーエ」と『囚人と紙飛行機』シリーズの囚人Pによって デジタルファーストで発表された最凶のコラボレーションが待望の紙書籍化!!!
「さぁ、何から――取り戻そうか?」
少女は誓った。いつか世界の全てが敵になったとしても、
一機の彼が傍にいてくれるのなら、最後まで抗い続けてやると……。
「生まれ変わってもまた──おまえに殺されたい」
果てが存在するのかどうかさえも不確かな超巨大建造物「間隙鋼外殻(クロムシェル)」。幼少時に両親を亡くした少女、シーエ・エレメチアもまた、この「間隙鋼外殻」内の巨大な集落「街(ネブル)」で暮らしている有機生命体のヒトリだった。シーエは両親の悲願であった夢の大地「アルマ(天蘢未)」への移住を果たすべく、「夬衣守(えぐも)換装士」を目指して相棒のエムジや親友のミカイヌらとともに、厳しくも愉しい学園生活を送っていた。無限にして夢幻の空間「アルマ」。電子汚染を引き起こす殺戮機械「無機思考体」。機械でありながらヒトの心を持つ機械「救世主」……。すべての欠片(ピース)が接触するとき、物語は――稼働する!
「さぁ、何から――取り戻そうか?」
少女は誓った。いつか世界の全てが敵になったとしても、
一機の彼が傍にいてくれるのなら、最後まで抗い続けてやると……。
「生まれ変わってもまた──おまえに殺されたい」
果てが存在するのかどうかさえも不確かな超巨大建造物「間隙鋼外殻(クロムシェル)」。幼少時に両親を亡くした少女、シーエ・エレメチアもまた、この「間隙鋼外殻」内の巨大な集落「街(ネブル)」で暮らしている有機生命体のヒトリだった。シーエは両親の悲願であった夢の大地「アルマ(天蘢未)」への移住を果たすべく、「夬衣守(えぐも)換装士」を目指して相棒のエムジや親友のミカイヌらとともに、厳しくも愉しい学園生活を送っていた。無限にして夢幻の空間「アルマ」。電子汚染を引き起こす殺戮機械「無機思考体」。機械でありながらヒトの心を持つ機械「救世主」……。すべての欠片(ピース)が接触するとき、物語は――稼働する!
- 本の長さ344ページ
- 言語日本語
- 出版社PHP研究所
- 発売日2016/3/19
- ISBN-104569829961
- ISBN-13978-4569829968
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
幼少時に両親を亡くした少女、シーエ・エレメチアは、超巨大建造物“間隙鋼外殻(クロムシェル)”内にある巨大な集落「街(ネブル)」で暮らしている有機生命体のヒトリだった。シーエは両親の悲願であった夢の大地「アルマ(天蘢未)」への移住を果たすべく、「〓衣守(エグモ)換装士」を目指す。そんな彼女を待ち受ける未来とは―。
著者について
(囚人P)ボカロP、作家、(Deino)イラストレーター
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
Deino
1984年9月25日生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科卒業後、ゲーム開発会社のグラフィッカーを経て独立。現在3DCGを使いフリーのイラストレーターとして活動中
猫ロ眠@囚人P
楽曲制作、及び小説やシナリオを手がけるマルチクリエイター。2012年に自身の楽曲『囚人』『紙飛行機』を元とした『囚人と紙飛行機』シリーズを自ら執筆し刊行。また同年7月にはCLΦSH(96猫×猫ロ眠@囚人P)として、メジャーデビューも果たす。現在も音楽、小説面で様々な活動を続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1984年9月25日生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科卒業後、ゲーム開発会社のグラフィッカーを経て独立。現在3DCGを使いフリーのイラストレーターとして活動中
猫ロ眠@囚人P
楽曲制作、及び小説やシナリオを手がけるマルチクリエイター。2012年に自身の楽曲『囚人』『紙飛行機』を元とした『囚人と紙飛行機』シリーズを自ら執筆し刊行。また同年7月にはCLΦSH(96猫×猫ロ眠@囚人P)として、メジャーデビューも果たす。現在も音楽、小説面で様々な活動を続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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登録情報
- 出版社 : PHP研究所 (2016/3/19)
- 発売日 : 2016/3/19
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 344ページ
- ISBN-10 : 4569829961
- ISBN-13 : 978-4569829968
- Amazon 売れ筋ランキング: - 324,759位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 18,110位ライトノベル (本)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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