公開当時、私はまだ、映画は好きといえど、浅薄なる田舎者の少年だった。学校で映画通なる学友が、本作の
ことを話していたのを覚えている。田舎には当然シネコンなんてまだない時代だし、情報ツールはもっぱら
お決まりの本屋で立ち読みする雑誌であり、そんなもんだからまぁ映画通などと言っても井の中の蛙的なもの
だったとは思うが、彼は映画に関してだけでなく、田舎者にして世の中の流行に敏感な奴であったのだと思う。
内容までは覚えていないが、当時は「何を格好付けやがって」なんて思ったもんで、どっぷりと思春期に突入
していく手前の浅薄なる少年の心は穏やかではなかった。それが原因かはわからないが、レンタルビデオ店で
DVDの貸し出しが流行り出した後も、本作品を何度も目に止めては、手を伸ばさずにいた。その後、一度も
観る機会がなかったのには、過去の作品を見返す時間的な余裕がなかったこともあるが、CHARAや小林武史
を主として、音楽的な時代の流れに起因したのだろうと思う。
ともあれ、平成を越えて時代とともに歳を重ねて数々の映画を堪能してきた今、この作品を観て想うのは、
冷静に見れば、俗にいうとダサい演出もある。ストーリーをとっても別段、ね。ランとシェンメイの無敵さも、
うーん。しかし、しかしだ、この世界観には魅了されるものがある。
独特言語で字幕で進むのには最初は少し戸惑ったが、いつの間にかすんなり受け入れてしまったのには、
一貫してブレない世界観のおかげであろう。逆にデイブを筆頭にYEN TOWN BANDメンバーが流暢な日本語
を話すのは、ちょっと狙い過ぎな気もするが、設定にメッセージ性がちゃんとあるのでそれも一興。
美術面でも世界観に説得力を与えている。実にしっくりと円都という社会に私を引き込ませてくれた。
それにグリコやフェイホンのスタイル一つ取ってみても、時代を超えたセンスが光る。
また、逆光を効果的に使った空間演出は惚れ惚れとする。
音楽がまた、ある意味この作品の主役と言って妥当だと思うが、何が良いって、その使い方や使いどころ
だろう。CHARAは昔からあまり好きではなかったが、説明できぬ涙がひとしずく。おっさんになった証拠か。
伊藤歩にしてもCHARAにしても、演技の「上手さ」でいえば語れないが、出演者全員の演技に対する
「熱量」はビシビシ伝わって素晴らしいものと感じたし、男女問わず演者の色気を引き出す監督の手腕にも
恐れ入った。
完全なファンタジーではなく、この非現実の世界が、観る者が現実社会で見てきたリアリティの延長あるいは
その並行的な世界観であるが故にハマるのであろうが、いずれにしても、ここまで徹底して一貫した
(ある意味独特の)テーマ性と世界観を作り上げた作品は類例に乏しいと思う。
こうして、またあの映画通だった彼を思い出し、そしてやはり「格好付けのマセガキめ」と思うのである。
彼はどんなおっさんになっているのだろう。
もう一つ思い出したことがある。小学校低学年頃だったか、近所に錆びた煙草の自販機があって、4種類くらい
しか入ってないような小さいやつ。それが壊れていて、釣り銭を出すレバーを回すとお金が落ちてくるわけ。
なんで煙草の自販機の釣り銭レバー回すかって?子どもはレバー回すもんでしょ。で、そりゃもう夢の箱な
わけで、500円玉が出てきたら大当たり。でも一応まじめな子どもだったから、1000円とかになってくると
なんだか恐くなっちゃって、それ以上はしなかった。数日後、やっぱりもう一回だけって思って行ったら、
それはもう撤去されていて、子どもながらに悪いことはなかなかできるもんじゃないなと思ったもんだ。
あれは私にとっても撤去されるべきものだったのだと、この作品を観て改めて思った。