乙川優三郎が最新作で完璧な小説として主人公の響子に引用させた「ストーナ-」(ジョン・ウィリアムズ著 日本語翻訳は作品社より2014年に出版) は実在の小説である。その本の解説によれば、1965年に初版が刊行されるもののほそぼそと読み継がれるだけであり、著者の死後は長く忘れ去られた。2011年にフランスの作家により再発見され、ベストセラ-に。やがてヨ-ロッパ全体で読者を獲得し、2013年には本国のアメリカで人気に火がつき、わずか4時間の間にAMAZONで一千部以上売り上げた、という。ニューヨ-クタイムズの書評が掲載されている。「完璧な小説だ。巧な語り口、美しい文体、息をのむほどの感動が読む人の胸に満ちてくる」
一段組で320ページほどの比較的短いこの長編を読み終えると、あたかも自らの人生とは別のもうひとつの人生を生きたかのような錯覚に陥る。うだつの上がらない地方の大学の英文学の助教授ストーナ-の一生が読者の人生の相似形として心に沈み静かに定着するのだ。うまくいかない人生、残すものが何もなかった人生、どこか、なにかが、似ている。「共通の経験はなくとも描きだされる感情のひとつひとつが痛いほどによくわかるのだ」、と「あとがき」に書かれている。そのとおりだ。
抑制されこの上もなく緻密な文体の歩みとともに語られるスト-ナ-の人生は、時にミズ-リ-州中部の美しい自然の描写に包まれる。「衝動的に机の灯りを消し、暖かい暗がりに座ってみた。冷たい空気で肺を満たしながら、開いた窓のほうへ体を傾ける。冬の夜の静けさが聞え、入り組んだ繊細な蜂窩構造の雪に音が吸い込まれるのを感じとれたような気がした。白銀の上では何も動かない。その死の光景が空中の音を取り込み、・・・一瞬、窓辺に身じろぎもせず座る肉体から離脱し・・すべてのものがあまりにちっぽけで、あまりに遠く」この遊離体験は死ぬ瞬間を前にしてもっと美しい形で繰り返される。
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