(第26章より)
負荷の設定
Load Assignment
Dan Wathen
トレーニング強度は、コンディショニングにおいて最も重要なものであると考えられている(5,6,12,17)。トレーニング強度は多くの場合、トレーニング負荷(レップ数×レップごとの挙上重量)と類義語である。科学者たちは、運動強度とはエクササイズにおけるパワー出力である(5,6,10,17)と説明するが、パワーとは、ある一定時間に行われた運動、または、「力×動作速度」のことである。パワー出力、すなわち運動強度は、エクササイズ動作の負荷やスピードによって決まる。
ほとんどのスポーツ選手において、強度とは、エクササイズにおける最大反復回数(RM)のパーセンテージを表している。最大反復回数とは、ある負荷を用いて連続して行える関節運動の最大回数のことをいう。例えば、あるエクササイズを100kgの負荷を用いて5回繰り返すことができる(6回はできない)選手がいたとする。この場合、その選手は100kgで5RMであるといえる。適切なウォームアップや休息インターバル、モチベーション、またエクササイズに慣れることによって、最大反復回数の正確度は高まる。運動強度をパワー出力という言葉以外で説明するならば、1RMのパーセンテージでいうことができる。例えば、あるスポーツ選手がベンチプレスを100kgの負荷重量で行った場合に1RMであったとする。この場合、1RMの60%の運動強度とは、このエクササイズを60kgの負荷重量を用いて行う場合のことをいう。
運動強度は年齢、性別、身体のコンディション、健康状態によって様々に変化する。ある人にとって高負荷であっても、それが他の人にとっても同様であるとはいえない。似ている場合でも完全に同じであることはない。例えば、数週間のトレーニング経験を持ち、エクササイズで40kgの負荷重量を用いたときに1RMである選手がいるとする。この選手は、ゆっくりとしたスピードで1RMの70%を用いて10レップスを行ったとしても、あまり大きい負担はかからない。それに対して、240kgで1RMである、8年間にわたるトレーニング経験を持つスポーツ選手が同じエクササイズを行った場合、1RMの70%で10レップスをどのスピードで行ったとしても大きな負担がかかる。これはある部分、絶対筋力の向上とともに相対的な筋持久力が低下することによる(1,11,13)。
負荷、スピード、量、休息時間は相関が高い。短い休息時間で高負荷や多量のトレーニングを行うことは困難である。通常、高速度の動作は低~中程度の負荷を用いて行う必要がある。しかし、パワークリーン、スナッチ、プル、プライオメトリックスのような、適切に運動を行うためにはある程度のスピードが必要とされる運動を行うときは例外である。トレーニング頻度も負荷によって異なる。高強度のトレーニングは、低、中強度のトレーニングと同程度の頻度で行うとオーバーワークとなってしまう(5,10,12,17)。
最大反復回数に対するパーセンテージの利用は、選手が用いるべき負荷を決定する際の最も簡単な方法である(この決定に関する詳細は後に述ベる)。レジスタンストレーニング経験のあまりない選手は、新しい最大反復回数を様々なレップ数を用いて設定し、神経系の適応が得られるまでトレーニングごとに異なったものを試すようにする。どのような最大反復回数に対するパーセンテージを用いるにしても、重い重量でのセットごとに、できるだけ正しいフォームで、できるだけ多くのレップ数を行うようにする。通常、経験を積んだ選手においては、短期間ではほとんど最大反復回数は変化しないため、特定のレップ数を事前に設定するのに自分の最大反復回数に対するパーセンテージを用いることが一般的には正しい結果につながる。
最大反復回数の決定
最大反復回数の決定は、選手がこれまでにトレーニング経験があり、十分な休息をとっている場合には比較的簡単なことである。しかしトレーニングの初心者では、安全かつ効果的な手順で最大反復回数のテストを行うためのスキル、バランス、その他の神経系の要素がまだ十分に発達していない場合もある。従って、トレーニングの早い段階においては、より高い最大反復回数(10RMなど)を用いるのが適切といえる。1RMかそれより高い最大反復回数を見積もるときには、表26.1のような表を利用すると比較的容易にできる。
1RMの見積もり方
10RMテストの測定値から1RMを見積もるために、選手に軽い負荷重量を用いて10レップスを1セット行わせる。それをどれだけ容易に実施できたかを見て、負荷重量を追加して再び10レップスを1セット行わせる。選手が十分に回復できるように、トライアル間には2~4分間の休息時間を設ける。その方法で徐々に負荷重量を増やしていき、10レップスしかできない負荷重量を調べる。経験を積んだインストラクターなら、どの負荷重量がその選手にとっての10RMかを5回未満のトライアルで調べることができるだろう。自分の10RMの負荷重量が明らかになれば、選手は表26.1のような表を利用して1RMを調べることができる。まず、レップ数が10の欄からレップ数が10のときに用いた負荷重量を探し、その欄と1RMの欄が交差しているところの負荷重量が、その人のおおよその1RMの負荷重量である。例えば330ポンド(149kg)の負荷重量を用いたときに10RMであった場合、表26.1でチェックすると1RMの負荷重量は450ポンド(2!
03kg)となる。しかし、この値は用いる表によって異なる。
これらの表は、選手個々による違いやリフティングによる違いなど、条件が異なる場合も正確であるかという点で反論があり(7)、またフリーウェイトや多関節運動のほうが、マシーンエクササイズを用いるより正確なようである。このような表は、低い最大反復回数(1~5RM)を用いての安全かつ効果的なテストが行えるように神経系や固有受容感覚が発達するまで用いられる一般的なガイドラインである(5,10,17)。
例えば、2週間(2~6回のトレーニング)にわたり導入としてのトレーニングを行った後には、10回反復できる重量から最大反復回数を決定することができる。これらの表は、それ以降の週において、より高負荷なトレーニング課題を行う際の1RMを見積もるために使うこともできるだろう。そして、6週間後(12~18回のトレーニング)には1~5RMのテストを行うことができる。筋力・パワー系競技の選手には、設定された1RMに対するパーセンテージを用いたトレーニングが効果的であるが、その他の種目の選手には5~10RMに対するパーセンテージを用いたトレーニングによってそれと同様の効果を得る場合もある。また、テスト前の数回のトレーニングセッションで低い最大反復回数の抵抗を用いていた場合、通常低めの最大反復回数のテストから得られる結果がより正確であるといえる。
過度のトライアル(セット)を行うと、トレーニングする人が疲労してしまうため正確な最大反復回数を見積もることができない。パワークリーンやスナッチのようなエクササイズでは疲労によってテクニックが急激に低下するため、最大反復回数のテストで5レップス以上行うことはできない。しかし、選手が十分なテクニックや経験を積むにつれ、より低い最大反復回数の決定が可能となる。低い最大反復回数を測定する際に代用できる簡単な方法として提案されているものに(5)、最大反復回数の連続体(図26.1)を用いたものがある。挑戦と失敗を重ねることによって、選手はトレーニングサイクルの各期や段階に合った、トレーニングの際に用いる様々な最大反復回数での負荷重量を決定し、用いることが可能となる。例えば、トレーニングサイクルの早い段階では、10~12RMとなるような負荷重量を決定し、利用する。10~12RMとなるように設定した負荷重量で、さらに多くのレップ数が可能である場合、用いる負荷重量を増やす。サイクルが進むにつれ、最大反復回数の連続体の高いRMから低いRMへと移行し、強度(抵抗)を后くしていくようにする。
様々な最大反復回数で用いる負荷重量を決定するのは、フリーウェイトよりマシーンを用いたほうが容易である。これは、フリーウェイトを用いたときには運動学習要因がバランスやコーディネーションに影響を与えるが、マシーンを用いた場合にはあまり影響を受けないからである。マシーンを用いた場合、選手のほとんどが1週間以内に自分の5~10RMの負荷重量を正確に決定することができる。フリーウェイト(特にスクワットやパワークリーンのような多関節運動)を用いて低い最大反復回数のための負荷重量を決定するには、何週間もの時間がかかるかもしれない。
エクササイズの際はきちんとテストによって見積もった最大反復回数に対するパーセンテージを用いたほうが、推測したものを用いるより正確である(5,8,9,11,14)。表26.2のような表をウェイトルームに貼ることで、選手が実施するトレーニングで用いる最大反復回数に対するパーセンテージに該当する負荷重量を自分で見積もることができる。
注意事項
最大反復回数のテストを希望する選手は、制限なしに運動を行えるという医師の確認をとる必要がある。また、機器の安全確認はテスト前に必ずやっておく。適切な人数の経験ある補助者をつけ、スクワットやベンチプレスといったフリーウェイトエクササイズを行う場合、パワーラックのような安全装置がついた機器を用いる。テストを受ける選手は、適切な服装をし、十分な休息時間をとり、エクササイズに慣れていなくてはならない。監督者などは事故やケガを想定し、緊急事態発生時の手順について知っておかなくてはならない(10)。
ウォームアップ
安全かつ正確に最大反復回数のテストを行うため、ウォームアップのセットを行う必要がある。ウォームアップを行うことにより、適切な筋収縮と筋の弾性を最大限に引き出すことができる(5,6,10,11,17)。力の強い選手ほど最大反復回数を試みる前により多くのウォームアップセットを行うべきである。最大反復回数のテスト試行前に実施するための科学的に支持された最良のウォームアップ方法というものはないが、ウォームアップのセットを十分に行うことによって筋の深部温を上昇させ、精神的な準備や集中力を高めることができる(5,6,10,11,17)。通常、ウォームアップの最初のセットはその後試みる最大反復回数の50~70%の負荷重量を用いて行う。2回目のウォームアップのセットは最大反復回数の75~80%で行い、ウォームアップのセット数が増すごとに用いる最大反復回数に対するパーセンテージを5~10%ずつ増やすようにする。パワークリーンやスナッチなどの高いスキルレベルを必要とするリフティングを行う際には、より多くのウォームアップセットを行うべきでぁり、この際ベンチプレスなどのあまり複雑でない運動と比較して最大反複回数に対するパーセンテージは徐々に上げていくようにする。例えば、Spassovはオリンピックリフトを最大の筋出力で行う前に、10~18セットのウォームアップを行うことを薦めている(16)(しかし、スクワット無差別級の元世界記録保持者はウォームアップを3セットしか行わないという。最初のウォームアップセットでは450ポンド[203kg]の負荷重量で3レップス、2回目のウォームアップセットでは700ポンド[315kg]の負荷重量で3レップスそして3回目のウォームアップセットでは900ポンド[405kg]の負荷重量で、実際と同じ3RMを行った[12])。表26.3は、テネシー大学において実施されている、ウォームアップの負荷重量を段階的に増やしていく方法の例である(12)。結果的には“試行錯誤”(トライアル&エラー)こそが、それぞれの選手に最も適したウォームアップ方法に至る道である。
負荷の設定
ある最大反復回数のための負荷重量がいったん設定されれば、トレーニングの際に課す負荷を算出することは比較的簡単である。最大反復回数に対するパーセンテージは各トレーニングで特定のレップ数、セット数、あるいは課せられた負荷における最大反復回数でのセット数を決定する際に利用される。
どんな人にも当てはまる筋力向上のために必要な抵抗の大きさというものは明らかにはされていない。あまりトレーニング経験のない人の場合、アイソメトリックトレーニングを1RMの35%という低い負荷を用いて行った場合や、サーキットトレーニングを1RMの45%を用いて行った場合にも筋力の増加がみられるという研究結果もある(5)。アスレティックトレーナーのなかには、一流選手の場合は最低でも1RMの80%の負荷を用いなくては筋力の向上はなされないという人もいる(7,14,17)。草分け的研究(5,6,10,11,17)によると、選手は週に一度は最大努力のセットを行い、週の他の日は低強度から中程度(最大反復回数の50~90%)の軽めのトレーニングを行うとよいとしている。その研究では、最大反復回数のトレーニングはすべてのトレーニングで行うより、週1回行ったほうがより効果的であるとしている。また、10RMのセットを1セット行うより、10レッブスの1セットで各レップを最大の抵抗を用いて行ったほうが、絶対筋力のよぁ大きな向上がみられたという研究報告もある(2)。ただし、この種のトレーニングは、1セットの各レップごとに抵抗を減らすことができる特別な機器や、十分に経験を積んだ補助者がいないと実施が困難である。
表26.4(17)のようなスケジュールは、異なる運動強度からなるトレーニングを実施する際、激しいトレーニングからの適切な回復を促すためのガイドラインとして役立つ。ヘビーな挙上を行う日の前後の日には軽い代謝系トレーニングを行い、軽い挙上を行う日の前後にはヘビーな代謝系トレーニングを行うことにより、より大きな効果がもたらされる。第30章のピリオダイゼーショントレーニングもこれに当てはまる。
ある選手が課せられた負荷を用いてトレーニングを行うとする。この際、トレーニングごとに新たな最大反復回数を設定することができる。例えば、510ポンド(230kg)の負荷重量を用いた場合に1RMとなる選手は、1RMの80%の負荷である410ポンド(185kg)を用いてエクササイズを行う場合、なんとか8レップを行うことができる。表26.2でチェックすると、410ポンドの負荷重量を用いて8レップを行った場合、510ポンドを1RMとしたときの80%と同レベルであることを示している。続いて行うトレーニングでは、将来的なトレーニングの負荷を決定するためにも、その選手の1RMである510ポンドという数値を利用する。エクササイズでの絶対筋力を測定するためにも、時折1RMの測定を行う必要があるが、そのレベルはその日のトレーニング目標によって異なってくるだろう。