水夫上がりで腕っぷしの強い若者マーティン・イーデンは、或る時ひょんなことから或るブルジョア階級の一家と知り合う。そこの3才年上の娘、ルースへの憧れは、思想や文学を学びたいと云う強い欲求を彼の中に引き起こし、彼の階級には凡そ相応しくない学究の道へと彼を駆り立てる。ルースと婚約し、2年の期限付きで文学の道で成功してみせると猛然とペンを執るマーティン。だが彼の傑作群は一向に売れず、金も底を尽き、理解しようとしない周囲の人々からは「早く職を見付けろ」と言われ続ける。唯一の理解者であった友人が自殺し、ルースとも疎遠になり、絶望して戦いを止めたその時、皮肉にも彼を待ち受けていたのは、空前の大成功だった………。
原題は"Martin Eden"。邦題の「的」をどう解するかは微妙なところ。多分にロンドン自身の社会的成功までの経験が反映されているのは確かだろうが、全く同じではなく、恐らく彼の絶望志向の面が強調されて描かれているのではないかと想像する。とにかく単純な「成功するまでの苦労話」ではない(現にマーティンは終局的には人生そのものに失敗していると言える)。心理描写の饒舌や、ニーチェやスペンサー等の影響下で他の思想と対決するシーンの唐突さ等、全体の流れとしてはややバランスを欠くところもあるのだが、個々のシーンに於ける下層・上流それぞれの階級の人物描写の巧みさはそれを補って余りある。またこうと思い込んだら猪突猛進するマーティンの性格は、悪く言えば自己を客観的に見る習慣がないことの現れとも言えるが、その分がむしゃらに報われぬ努力を続ける強靱なそのエネルギーには仲々に迫力がある。世に数ある青春苦闘物語の裡、ここまで剛力な作品はそうそうないだろう。
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