本作から入った場合「カストラチュラ」を読まずとも問題なし。
「カストラチュラ」からの読者は本作に微温の救いを見出す。
微温の救い…それが救いであればこそ、必要ない場合もある。
以上、結論。で、以下、各論ということで。
鳩山氏著「カストラチュラ」の愛読者は「嬉しい…また逢えた…」と思う。思っちゃうよ!
それで「なるほど、こんなことが…」となって、最後の短編2本で
「ああ、やっぱり天使とチビ卵のコンビは永遠なのね」と微笑む(ほくそえむ?)。
何のことやら分かりませんね(笑)。整理します。
本作全体の五分の二程を占める、表題作兼巻頭の書き下ろし「シューメイカー」
が「カストラチュラ」続編で、その後の「滴翠珠」が雑誌連載の同番外編、
ラスト2編が「解剖学の天使」こと方滴錘&おちびの特別出演(って表紙頁に
ちゃんと銘打ってある)の短編。くすん、惚れたほうがいつも負けるってわけね…。
って、ますます何のことやら分かりませんね(笑)。
「シューメイカー」…面白いです。「カストラチュラ」と関係なく面白い。
ブリティッシュ・ポップのニュー・ロマンティックの雰囲気まで楽しめる。
ニュー・ロマンティックって言葉、数十年振りに思い出しました。
1980年代の音楽文化再臨。「靴職人」の前髪、きっと半分ピンクだ。
って私、ホントに何歳よ…音楽への目覚めが早かったんですよ…。
本題に戻ると、ホラーの最善の一瞬を胚胎するコマが幾つもあります。
ナショナルジオグラ◯ィックの記事まで登場して、なかなかの説得力で笑う、
とゆうか、ここで笑わずにどこで笑えばいいのか分からんよ。
最終頁のオチが笑えないので、ここで笑っておきましょう。
最終頁、エンドマークに載っかられたB.G.Mが楽しい。
本当にENDが上書きされているので、判読が難しいのですが、
コクトー・ツウィンズはファーストの頃でしょうね。リタ・ミツコに
苦笑。云わずと知れたゴダール監督「右側に気を付けろ」登場のユニット。
これは…B,G,Mとゆうより、右派勢力への嫌悪を複雑精妙に織り込んだ
あの傑作コメディに言及?鳩山作品、サラリの故に面倒なときがありますが、
(いえ、あの、こんなところに反応する読者の方が面倒ですけど)
楽しくて読んでしまう。ブリット系ではタイガー・リリーズという
異様に怖いファルセットのバンドが存在するけど、これは無視なのか。
スージー&ザ・バンシーズの名前は半分消えてますが、20年くらい前に
再結成。ナマで触れたバンド名が多くて、懐かしい。追憶の溜息。
「滴翠珠」…文革を舞台とした幻想的中編ですが「カストラチュラ」
と関係なく面白い。幻想的なのは、アレやらコレやらへの偏愛の要素で、
うっかり読むと緻密な描写に騙されます。どうぞお気を付けて…。纏足に
あんな用途があったのは、信じていいのか。悩む。さてようやくラストの短編。
タイトル Passage だけにベンヤミン→歴史の天使→解剖学の天使→方滴錘なのかしら?
天使つながりで読み流せばいいのか。
でも、そうしたら「クサヒバリ」(2001年発表、「エルネストの鳩舎」所収)
までも方滴錘の物語に読めてしまうではないの…。あ、これ大好きですけど。
「カストラチュラ」読者は「翠色の不動の一点」(という名も告げられぬまま)
その一点に「帰属」したからこそ、シャーロットを始めとする七十余人の
ブランコに乗る少年たちを、方滴錘を、マオを、シューリーを「愛」したので。
「愛」って何?と愕然としつつ、普通に良い本です。連載と書き下ろしの
扱いが逆な気はしますけど…。鳩山さん、スゴい力技です。
ただ、天使とおちびコンビの「彷徨える不滅の実在」化はちょっと…。
余計な心配をせずとも、次はないか。「カストラチュラ」の魅力は
「喪失」の不可逆性と硬質なラストの「痛み」にもあったわけで。
じゃあお前は読むな、ということになりますが、そんな、殺生な…。
あったら読みたいじゃん…。
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