以前このCDの評で「鬼才アファナシエフがシューマンの狂気に迫る!」というのを見たことがある。たしかに今まで聞いたアファナシエフの演奏からすればこのようなコピーをつけるのも納得できるのだが、このCDに関してはこういった評価はあまり当てはまらないような気がする。
まず、テンポ感が違う。たしかに全体を通すとテンポは遅いのだが、極端に遅いわけではないし、「遅い」ということを意識させられることもない。また、ムソルグスキーの作品集(『展覧会の絵』ほか)にあるような重々しさや恐々しさもあまり感じない。それが一番よくわかるのは「クライスレリアーナ」の冒頭(CDの最初)で、普通この部分はペダルを効果的に使って波がうねるような演奏を聞かせるのだが、アファナシエフは左手のリズムに合わせて短くペダルを踏むだけで、あっさりと、しかも勢いよく弾ききっている。
アファナシエフの演奏の中では異色なものだと思うが、ほかの演奏者と違う部分には「さすが」と思わされる。好き嫌いは分かれるだろうが、ここに収められた2作品は近年CDが多くリリースされている注目株なので、ぜひ色々と聞き比べてほしいと思う。