私もそうであったように、とっつきにくい印象のある表題であるが、シュタイナーの講演集の中でも当時最も気合が入っていたらしく、輪廻転生を信じるものであれば、一度は目を通したい一冊(特に第2部)である。
当時のシュタイナーにあっては、最も大切な親友を亡くしたばかりか、自ら設計し手塩にかけて建築したばかりのゲーテの名を冠した「芸術館」が放火焼失されるという失意のどん底にあった。
本書は2部構成で、第1部は一般人のための2日間の公演録と第2部の人智学協会員向けの6つの講義録になっている。どちらかというと、第2部の方が、別に霊学の知識がなくても、シュタイナーが言葉を選ばず自由に話せる環境から、また、1部と2部は完全に独立しているので、面白さから言って、2部➡1部の順で読んでみても良いかもしれない。というのも私の場合は第1部から読み進めると第2部までいかずに眠くなり、途中で挫折するかもしれなかったからである。第2部全体だけでも、特に第4講座は物質的生活と霊的な生活との関連での「存在」の秘密に深くかかわった内容になっており、おそらくは目が開かれるはずである。
さて、シュタイナーは生前に2度、一人は先の親友に、もう一人は懇意であった家族の主人の死について、霊視によって死後の世界の足跡(?)を観察した。その経験をもと具体的な言葉として語っているのだが、後者の家族の主人については、その家族の団欒の場所にも出ないような書斎だけの引きこもり故にシュタイナー自身は一度も顔をあわせたことがなかったようである。家族の要望でその主人の弔辞を霊前で述べられたそうだが、1度もあったことがないシュタイナーが、その主人の生前の知りえない具体的な生きざまを語るその正確さに家族一同驚いたエピソードが残っている。
それはともかく、シュタイナーは2人の死後の世界を霊視によって、われわれに何を語ろうとしたのであろうか?
われわれは何故、死後の世界を経験して、なにゆえにその次の来世の準備をするのであろうか?
注目すべきことは死後の世界で出会う人々は我々が今生で、良くも悪くも、縁があった人間だけであって、霊界にあっては、縁もゆかりもない人々や、憧れの天使、女神や神々の階層たちには、決して会うことはないだろうということである。もし霊界でそのような階層たちに会うことができるとすれば、今生の世界で何らかの縁をつける場合に限る。
だからこそこの現世の実体験が重要なのであって、今生で経験したこともない意識では、霊界にあってさらなる理想はおろか次の来世にも何も成就することはない。今生の、この瞬間の現実こそが霊界での準備を経て次の来世の実現につながるのである、と。
ちなみにシュタイナーが霊視した2人の人物は、生前いわゆる唯物論者ではあったが、現世で精いっぱい生きた人物ゆえに霊界では来世に向けた準備が備わっていた。誰にあっても今生の経験は何一つとして来世に無駄なことは無いともシュタイナーは付け加えている。
蛇足ながら、この書物は文庫本だが、絶版になっていて、世にはあまり出回っていないらしく、1,000円程度の当時の文庫本が、いまや中古でかなり高価になっている。再販が望まれるが、専門書ゆえに難しいだろう。私のように、図書館で借りてみて、読み返す価値があると思えれば、中古本で更に高くならないうちに早めに確保しておいて、読み返す一冊としてもよいのかもしれない。
シュタイナーの死者の書 (ちくま学芸文庫) (日本語) 文庫 – 2006/8/1
ルドルフ シュタイナー
(著)
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本の長さ227ページ
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言語日本語
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出版社筑摩書房
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発売日2006/8/1
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ISBN-104480089861
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ISBN-13978-4480089861
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
「死後の生活」を霊視する修行に始まり、死者の生活の諸相、霊界の構造、魂の四つのあり方、「人間理想」のヴィジョンなどが、人智学の世界観に即して語られる。一九一四年に行われたウィーンでの連続講義のうち、第一部に二つの公開講義を、第二部に人智学協会会員に向けた非公開の講義六本を収める。親友モルゲンシュテルンの死、第一次ゲーテアヌムの建築作業という大きな出来事の直後、異様な集中力をもったこれらの講義は、「全体が見事に構成されていて、まるですぐれた交響曲を聴くように美しい」と評された。初期人智学運動の貴重な記録であるとともに、至高の秘儀伝授の書。改訳決定版。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
シュタイナー,ルドルフ
1861‐1925。オーストリア=ハンガリー帝国の辺境クラリエヴェク生まれ。自らの思想を人智学(アントロポゾフィー)として樹立。1914年、バーゼルの近郊ドルナハにゲーテアヌムを建設。以降ここを科学、芸術、教育、医療、農業の分野にいたる人智学運動の拠点とする
高橋/巖
東京生まれ。慶応義塾大学大学院博士課程修了。1973年まで同大学文学部哲学科、美学・美術史教授。現在日本人智学協会代表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1861‐1925。オーストリア=ハンガリー帝国の辺境クラリエヴェク生まれ。自らの思想を人智学(アントロポゾフィー)として樹立。1914年、バーゼルの近郊ドルナハにゲーテアヌムを建設。以降ここを科学、芸術、教育、医療、農業の分野にいたる人智学運動の拠点とする
高橋/巖
東京生まれ。慶応義塾大学大学院博士課程修了。1973年まで同大学文学部哲学科、美学・美術史教授。現在日本人智学協会代表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2006/8/1)
- 発売日 : 2006/8/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 227ページ
- ISBN-10 : 4480089861
- ISBN-13 : 978-4480089861
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Amazon 売れ筋ランキング:
- 352,714位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 422位認識論 (本)
- - 560位ドイツ・オーストリアの思想
- - 1,122位ちくま学芸文庫
- カスタマーレビュー:
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2021年2月12日に日本でレビュー済み
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2010年8月21日に日本でレビュー済み
シュタイナーは霊魂は不滅で輪廻転生するという立場を取っており,人間が死んだ後には魂は霊界に入るのだそうだ。しかも,生きている人間でも「霊界参入」の訓練を積むことによって霊視・霊聴・霊的合一の能力を身につけることができ,生きたままで霊界のありさまを認識できるのだという。
霊界では,簡単に言えば死んだ人間の霊が,次に生まれ変わる来世で,よりよく生きるため,また人間理想の実現に一歩でも近づくために修行を積んでいるのだという。人間の魂は生きていても死んでいても不滅の大きな循環をなしており,循環しつつ徐々に自分の魂を,そして世界をより良く進化させて行く使命を帯びている。
そして霊界にも宗教があり,霊界での神々の宗教のテーマは,この世で理想の人間存在を誕生させることなのだという。
また人は死んで無に帰るどころか,濃厚に前世での行いの影響を残しており,前世で関わりの大きかった人の霊と霊界でまた会うことになる。前世で自分が傷つけた人からはその傷の重さに応じて,霊界では自分の霊が負担を感じることになると言う。そしてその負担が減るように,より高い魂の進化を目指して魂は修行を積む事になるのだそうだ。
全体的に,非常に真面目で勤勉な人間観が感じられる。そして人間は,またこの宇宙は全体として良い方向に進歩しており,これからも進歩させなくてはならないという一種の楽観主義に強く根ざしている。
しかし,第二次大戦と共産主義の悪夢を経験し,大衆消費社会を実現した後でも留まる所のない人間の欲望とエゴの膨張を目の当たりにしている現代人にとって,この人間主義・楽観主義がどのくらいの説得力を持つだろうか。人間とはそれほど真面目で,進歩を目指して止まないほど高尚なものだろうか。
「死んでも生きる」ことに慰めや期待・安心を感じるのも事実だが,因果応報,死んでまでこの世の人の情や義理の貸し借りを持ち越さなくてはならないとは,何とも煩わしいあの世だ。死んでまであの人,この人と会うことになるのか。また学校か訓練施設のようなイメージの霊界も,「死んでまで修行か。何だか疲れるなあ」と思ってしまう。
十九世紀生まれのドイツ語圏の人はつくづく真面目だったなあと,ため息混じりに思ったというのが正直な感想である。
なお,講演録としては熱のこもった良い講演であり,内容も適度に具体的で分かりやすい。「神秘学概論」や「神智学」などの主著とも整合しており,シュタイナー入門としても良い書物である。
霊界では,簡単に言えば死んだ人間の霊が,次に生まれ変わる来世で,よりよく生きるため,また人間理想の実現に一歩でも近づくために修行を積んでいるのだという。人間の魂は生きていても死んでいても不滅の大きな循環をなしており,循環しつつ徐々に自分の魂を,そして世界をより良く進化させて行く使命を帯びている。
そして霊界にも宗教があり,霊界での神々の宗教のテーマは,この世で理想の人間存在を誕生させることなのだという。
また人は死んで無に帰るどころか,濃厚に前世での行いの影響を残しており,前世で関わりの大きかった人の霊と霊界でまた会うことになる。前世で自分が傷つけた人からはその傷の重さに応じて,霊界では自分の霊が負担を感じることになると言う。そしてその負担が減るように,より高い魂の進化を目指して魂は修行を積む事になるのだそうだ。
全体的に,非常に真面目で勤勉な人間観が感じられる。そして人間は,またこの宇宙は全体として良い方向に進歩しており,これからも進歩させなくてはならないという一種の楽観主義に強く根ざしている。
しかし,第二次大戦と共産主義の悪夢を経験し,大衆消費社会を実現した後でも留まる所のない人間の欲望とエゴの膨張を目の当たりにしている現代人にとって,この人間主義・楽観主義がどのくらいの説得力を持つだろうか。人間とはそれほど真面目で,進歩を目指して止まないほど高尚なものだろうか。
「死んでも生きる」ことに慰めや期待・安心を感じるのも事実だが,因果応報,死んでまでこの世の人の情や義理の貸し借りを持ち越さなくてはならないとは,何とも煩わしいあの世だ。死んでまであの人,この人と会うことになるのか。また学校か訓練施設のようなイメージの霊界も,「死んでまで修行か。何だか疲れるなあ」と思ってしまう。
十九世紀生まれのドイツ語圏の人はつくづく真面目だったなあと,ため息混じりに思ったというのが正直な感想である。
なお,講演録としては熱のこもった良い講演であり,内容も適度に具体的で分かりやすい。「神秘学概論」や「神智学」などの主著とも整合しており,シュタイナー入門としても良い書物である。