システムについての議論はどこまで進化しているのか? 自然界における事象を単純なモデルとして置き換える作業から始まったこれらの議論は、より複雑なものを取り扱うことができるように進化を続けてきた。自然現象のみならず、経済、社会などの人間活動から生み出される世界についても多くの議論が続けられているのが現状である。
本書はシステム(原題では人工物)について、その可能性と本質について論じたものだ。本書で定義される人工物とは人間が何らかの恣意(しい)をもって構築したものすべてである。すなわち工学的なマテリアルやシステムはもちろんのこと、経済や企業などの特定の目的をもつ組織も含まれ、認知心理学、経済学、工学的デザイン論を通して人工物の科学の本質を明らかにしている。著者は政治学、経済学、コンピュータ工学など広範な分野に精通しており、その豊富な見識を駆使して本書を書き上げている。多岐にわたる話題についてどのようなアプローチがいままでに試みられ、そしてそれらがどのような成果を出し、またどのような意味があったのかを分析し、解説し、そして結論づけることを試みている。われわれが作り出すすべての人工物に対する科学の可能性を論じ、すべての人工物の集合であるところの文明の構築理論を論じているのだ。
学識者ならずとも理解できるように練りこまれた内容は著者の力量をうかがわせる。われわれがどこまでシステムにアプローチできるのか、どのように扱うことができるのかを模索したい人におすすめ。(斎藤牧人)
「人工物の科学はいかに可能であるか」本書は必然性ではなく、環境依存性―「いかにあるか」ではなく「いかにあるべきか」―に関与するデザインの諸科学、すなわち人工物の科学(The Sciences of the Artificial)の本質を明らかにし、その可能性を問うものである。
内容(「MARC」データベースより)
人工物の科学の本質とその可能性について、経済学・認知心理学・工学的デザイン論など広範な領域に関する議論を通して考え、「文明構築の論理」を明らかにする。87年刊に続く原著第3版の翻訳。
著者について
1916年、米国ウィスコンシン州ミルウォーキー生まれ。1949年よりカーネギー・メロン大学コンピュータ科学・心理学教授(Richard King Mellon University Professor)。
2001年、ピッツバーグにて逝去。
人間の意思決定、および問題解決過程をコンピュータ・シミュレーションなどにより研究。コンピュータ科学はもちろんのこと、広範な研究分野すべてにおいて偉大な業績を挙げた。
1943年に政治学でシカゴ大学にて博士号を取得したのをはじめとして、イェール大学、ケース工科大学、その他の多くの大学より博士号を贈られた。
全米学術会議会員、アメリカ経済学会特別会員、全米研究協議会行動科学部会会長、大統領科学諮問委員会委員などを歴任。1978年度ノーベル経済学賞受賞。その他、チューリング賞(1975年)、アメリカ国家科学賞(1986年)、米心理学会特別科学貢献賞、米政治学会ジェームズ・マディソン賞などを受賞している。