一気読み必至! 婚活サスペンス長編 イヤミスの旗手が『サイレンス』に描いた地方出身者の業とは
「婚活ブームに一石を投じるという大げさなものではないですが、いまの女性の実情を掘り下げて描きたかったんです」
『暗黒女子』や『聖母』が大ヒットし、イヤミスの新旗手として注目を集めている秋吉理香子さん。最新長編『サイレンス』は、婚活中の女性が主人公だ。
「深雪(みゆき)は34歳で、結婚を一番あせる時期です。現在の彼氏を逃したら……と思う一方、マンションを買ったり、1人で生きていく覚悟はできていない。私自身、その間で揺れました」
舞台は新潟本土の港からフェリーで2時間、人口300人ほどの孤島「雪之島(ゆきのしま)」。
深雪はアイドルを夢みて島を離れ、東京の芸能事務所でマネージャーをしている。広告代理店勤務の俊亜貴(としあき)は、つきあって6年なのに、結婚の話を全然しない。女子会で先輩からアドバイスされた深雪は、意を決して迫り、年末に2人で雪之島に住む両親へ挨拶に行くことに。だが、深雪の実家へ泊まった後、俊亜貴は失踪してしまう。2人は果たして結婚できるのか。
雪深い島出身の深雪に対して、俊亜貴は東京の裕福な家で生まれ育った。結婚が近づくにつれて、2人の違いがあらわになっていく。
「生まれ育った家族と積み上げてきた歴史があるわけで、それが違う2人が一緒に生活するのは簡単じゃないんです。また、結婚は本人同士さえよければいいと言われますが、現実には家同士がうまくいかず、夫婦の関係も悪化することが私のまわりでも結構あります」
婚活中の親友が「彼が田舎の地主の家でラッキー」と喜んでいたら、それを聞いた秋吉さんの母親は「大変だよ」と諭したという。
「母は大阪の都会の人ですが、パイロットをしていた父は茨城県の田舎出身。母はとても苦労したそうです。ふだん都会的な父は、実家に帰ると豹変して『お土産を配ったのか』とか小さなことを気にする。幼い頃から不思議で、地方から都会へ出てきた人たちの業(ごう)を描きたいと考えていました」
秋吉さんは中学1年の頃、作家になろうと思った。
「太宰治や三島由紀夫の作品を読んで、人間のきたない部分を描いていることに衝撃を受けて、私も小説を書きたくなったんです」
川上弘美さんや小川洋子さん、多和田葉子さんの作品を愛読。純文学志向だったが、編集者から「ミステリーが向いている」と言われ、ミステリーへ転向した。
「『サイレンス』はこれまでの作品とは違って、純文学風のサスペンスです」
評者:「週刊文春」編集部
(週刊文春 2017.2.9号掲載)
しまたまさん―雪之島の護り神。新潟本土の港からフェリーで約二時間、人口は三百人以下で信号機もない雪之島で生まれ育った深雪。アイドルを目指して故郷を離れたが、いまは夢をあきらめて東京の芸能プロダクションでマネージャーをしている。両親に結婚の挨拶をするために実家へ帰省したが、婚約者の俊亜貴は突然失踪…。「しまたまさん」に護られた島から、深雪たちは東京へ戻って結婚できるのか。イヤミスの新旗手が放つ、サスペンス長編。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
秋吉/理香子
兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。ロヨラ・メリマウント大学院にて、映画・TV製作修士号取得。2008年、「雪の花」で第三回Yahoo!JAPAN文学賞受賞。2009年、同作を含む短編集『雪の花』でデビュー。その後、図書館司書として勤務するかたわら、『暗黒女子』を発表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)