厚めのハードカバーを前に「よっしゃ」と気合入れて読み始めたが、あっという間だった。
スピード感あふれる文体に引っ張られたせいだ。もうひとつの理由は、眺めるだけのページが大量にあったから。
ベスター読者ならわかりますね。本書がいちばん凄い。
22世紀のニューヨーク、暇を持て余した富裕層の女たち(自称・蜜蜂レディ)が悪魔召還の儀式を行ったところ、
意識下に潜んでいた怪物ゴーレム100が目覚めてしまう。この名前はゴーレム100乗と読むのだが、小さい100が出せない。
ゴーレムは物理法則を越えた大量殺人を繰り返す。精神工学者ナンは、化学者プレイズ・シマを関係者と見なして尾行する。
捜査官インドゥニも事件の真相に迫っていた。
視点人物たちは全員マイノリティだ。ナンは黒人美女・シマは日系人・インドゥニはインド系である。
猟奇事件の解明が、イドの世界と現実をごった混ぜにする大騒動へと発展する。
プロメチウムという稀少元素を用いたドラッグとかパレスチナ・マフィアとか、変なアイデアが大量にぶち込まれている。
目のくらむような飛躍が連発するが、基本は捜査と真相解明であって、軸は一貫してぶれない。
これがベスターだ。「分解男」「虎虎」のベスターだ。「コンピュータ・コネクション」は失望しただけに、ことのほか嬉しい。
悪ふざけやブラック・ジョークが上手く訳されていて、楽しくて仕方がない。
底には人間の意識下と集団意識という深いテーマが横たわっている。これは、ほぼすべての実験小説のテーマでもある。
いわゆるニューウェーブの退屈さに比べて、ベスターは文句なしに面白い。
解説に「サイバーパンクの元ネタになったのでは」とある。サイバーパンクは肌が合わず三冊くらいしか読んでいないが、
意識下のネットワークを扱ったという点で、たしかに本書が原型のような気がする。
ここでもベスターの破天荒な娯楽性に比べて、サイバーは独りよがりで無駄に難解で退屈だ。
本書さえ読んでおけば、変な前衛小説など読む必要はない。なにより単純に面白い。
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