かつてアイルランドの幻想作家ロード・ダンセイニは、一連の作品を語る中で、ベガーナ神話という架空の神話大系を作り上げました。このベガーナ神話に影響を受けて、ラヴクラフトはいくつもの自作に神話的要素を盛り込み、あたかも一つの壮大な世界観が存在するよう見せかけました。この「お遊び」はやがて、ラヴクラフトが交流する作家たちのコミュニケーション・ツールとして活用され、後に「クトゥルー神話」と総称されることになるおぼろげな神話体系がゆるやかに形成されていきました。
この章では、クトゥルー神話の誕生から発展への歴史、そして物語群としての世界観や特徴、傾向について解説します。