知らない人を探す方が難しい「くまのプーさん」ですが、多くの人のイメージはディズニーが作り上げたコミカルなテイストのプーさんかと思います。
一方で、A.A.ミルンの原作は、ディズニー版とは一味違う、とても穏やかで優しく、それでいて深みのある作品に仕上がっています。E.H.シェパードの挿絵も最高の世界観です。
児童文学としての金字塔であることは、原作の英語版を読めば、その言葉遊びと物語の巧みな進行からよく分かるのですが、一方でその言葉遊びこそが、実は英語話者ではない日本人にとって、小難しい英字新聞を読むより理解に苦しむ要素にもなっています。
本書の翻訳を手がけられた石井桃子さんは既にお亡くなりになっていますが、この憎めないクマのぬいぐるみに初めて「プーさん」という名前を付けた人であり、この作品の日本語版は大変に素晴らしいものです。
1940年に日本で出版されて以来70年以上経過していることもあり、今では使われない表現や、語彙が含まれていますが、翻訳当初には訳者の力が及ばない部分があった事、また読み返すと間違っている部分もあった事を、石井さんご自身が認めておられ、1956年に一度訳が改められ、また1985年には再び石井さんによって改訳されています。ですから、初期翻訳に比べると、より洗練され、読みやすくなっています。
現在Amazonや書店で購入できる岩波少年文庫008の「くまのプーさん」はこの1985年の訳です。
まもなく生誕100年を迎え、クリストファーロビンの実写映画も公開されたりと、改めてプーさんの魅力が見直されている今、子供は勿論、かつて子供だった皆さんにも読んで欲しい名作です。
本書の正当な続編となる「プー横丁に立った家」の2冊を読み終わった時、ディズニー版のそれとは違う世界に衝撃を受けると共に、最後は静かに涙が溢れました。
ぜひ、原作の英語版と石井桃子訳を読み比べながら読んで欲しいです。
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