『プロローグ』で筆者の三瀬氏は、現在の人類はさまざまな危機に直面しているが、医学の分野でも二つの大変に大きな危機に直面しているとしている。
第一の危機は、抗菌薬が効かない薬剤耐性菌の蔓延による肺炎などの感染症死亡者が急増していることであり、今やほとんどの病原菌で抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が発生・蔓延し、薬剤耐性菌だらけになっているとしている。イギリスの研究グループの調査によると、現在の状態が改められなければ、2050年には薬剤耐性菌による世界の死亡者数は年間1000万人に達すると予想されており、現在世界中で年間880万人と推定されているガンによる死亡者数を上回ることになるのだそうだ。
第二の危機は、アレルギー、肥満、喘息、潰瘍性大腸炎などの患者数が急増しており、その増加にストップがかからなくなっていることで、しかも、この二つの危機の原因には実は密接な関係があり、それは、多くの悪玉菌だけでなく、同時にヒトと共生している善玉菌の方も巻き添えを食らって殺滅・追放されている抗菌薬の見境のない乱用にあるとしているのだ。
筆者は、近年は新しい抗菌薬の開発が非常に難しくなっており、我々はヒトの感染症に有効な治療薬となる化学物質の種類にも限りがあることを認識すべきだとし、抗菌薬や消毒薬をむやみやたらに使用して微生物と対決することは、最悪の方法であるということを理解していただければ、本書を執筆した目的の半ばは達成されたことになるとしている。
筆者はまず第1章で、全ての抗菌薬の問題は、耐性菌が現れるかどうかではなく、耐性菌が多くなるまでの時間が長いか、短いかということであるとし、耐性菌が現れないような抗菌薬は将来も出現せず、効果を長持ちさせるためにも抗菌薬は慎重に使用しなければならないことなどを明らかにしたうえで、細菌が抗菌薬を無力化するメカニズム、細菌が薬剤耐性遺伝子を獲得するに至る仕組み、さらには、そもそもその薬剤耐性遺伝子の元々の供給源は何か、また、人災とも言える抗菌薬の乱用の実態、抗菌薬の効果を取り戻す方法、薬剤耐性ウイルスの問題などについて論じている。
続く第2章では、共生微生物が病原菌による感染・発症を抑えており、その多様性が失われると、肥満、潰瘍性腸疾患、クローン病、喘息などのアレルギー疾患、自閉症が引き起こされる一因となることなど、共生微生物の重要性をさまざまな観点や事例から説き起こしていっている。
第3章では消化器感染症(食中毒)、呼吸器感染症、性感染症、神経系感染症、胎児に先天的奇形を起こす感染症、エマージング(新興または再興)感染症について、感染原因・症状・病原微生物・予防対策・治療方法などを、第4章ではガン、動脈硬化、慢性関節リウマチなどの自己免疫病と微生物感染との関係や発症に至るメカニズムなどを、それぞれ論じている。
ちなみに、第2章と第4章で取り上げている病気の中には、素人には抗菌薬や微生物との関係性がにわかには信じがたい病気もあるのだが、実際、第2章の各病気の解説を読んでみると、筆者自身も「これまで…間接的な証拠を紹介してきました」(91ページ)と認めているように、たとえば、患者には共生微生物の種類が少ないとか、統計学的なデータ解析や動物実験の結果であったりといった間接的な証拠を羅列しており、したがって、発症に至るメカニズムもまだ仮説段階のようで、いくつかの仮説の中から代表的な仮説を紹介している。第4章の一部の微生物感染とガン、微生物感染と動脈硬化や慢性関節リウマチについても同様に、関係の疑いや推測という段階のようだ。
なお、本書は三瀬氏と山内氏の共著本とされているものの、本書中の何ヶ所かでは常に「筆者(三瀬)」と表記されており、山内氏の役割分担が見えてこなかったのだが、三瀬氏執筆の『おわりに』によると、山内氏は、全体的な構成や校閲及びウイルス分野の執筆を担当したのだそうだ。
この商品をお持ちですか?
マーケットプレイスに出品する

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません 。詳細はこちら
Kindle Cloud Readerを使い、ブラウザですぐに読むことができます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
ガンより怖い薬剤耐性菌 (集英社新書) 新書 – 2018/6/15
購入を強化する
肺炎クラミジア、ブドウ球菌、ピロリ、ボツリヌス、サルモネラ、O157…etc
もはや抗生物質は効かない!
人類は今、ふたつの医学上の危機に直面している。ひとつはペニシリンなどの「抗菌薬」が効かない「薬剤耐性菌」が蔓延し、死亡者数が増加していること。これによる世界の感染死者数は将来、ガン死者数を上回るとも推定されている。もうひとつの危機は感染症のみならず、アレルギー、ガン、肥満、ぜんそく、自閉症、生活習慣病、潰瘍性大腸炎などの患者数が増えていることだ。これらの危機は治療等で抗菌薬を乱用し、人が生きていく上で欠かせない腸内や皮膚の細菌・微生物を殺してきたのが原因である。抗菌薬まみれの人類は危機を回避できるか? 細菌とウイルスに対する正しい知識を紹介し、最新感染症対策も解説。
[著者情報]
三瀬勝利(みせ かつとし)
一九三八年、愛媛県出身。東京大学薬学部卒業後、厚生省所管の研究機関で種々の病原細菌の研究に従事。薬学博士。著書に『逆襲するバイ菌たち』(講談社)、『薬が効かない!』(文春新書)などがある。
山内一也(やまのうち かずや)
一九三一年、神奈川県出身。東京大学農学部卒業後、国立予防衛生研究所、東京大学医科学研究所などでウイルスの研究に従事。東京大学名誉教授。著書に『はしかの脅威と驚異』(岩波書店)ほか多数。
もはや抗生物質は効かない!
人類は今、ふたつの医学上の危機に直面している。ひとつはペニシリンなどの「抗菌薬」が効かない「薬剤耐性菌」が蔓延し、死亡者数が増加していること。これによる世界の感染死者数は将来、ガン死者数を上回るとも推定されている。もうひとつの危機は感染症のみならず、アレルギー、ガン、肥満、ぜんそく、自閉症、生活習慣病、潰瘍性大腸炎などの患者数が増えていることだ。これらの危機は治療等で抗菌薬を乱用し、人が生きていく上で欠かせない腸内や皮膚の細菌・微生物を殺してきたのが原因である。抗菌薬まみれの人類は危機を回避できるか? 細菌とウイルスに対する正しい知識を紹介し、最新感染症対策も解説。
[著者情報]
三瀬勝利(みせ かつとし)
一九三八年、愛媛県出身。東京大学薬学部卒業後、厚生省所管の研究機関で種々の病原細菌の研究に従事。薬学博士。著書に『逆襲するバイ菌たち』(講談社)、『薬が効かない!』(文春新書)などがある。
山内一也(やまのうち かずや)
一九三一年、神奈川県出身。東京大学農学部卒業後、国立予防衛生研究所、東京大学医科学研究所などでウイルスの研究に従事。東京大学名誉教授。著書に『はしかの脅威と驚異』(岩波書店)ほか多数。
- 本の長さ240ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2018/6/15
- 寸法10.6 x 1.2 x 17.3 cm
- ISBN-104087210367
- ISBN-13978-4087210361
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
人類は今、ふたつの医学上の危機に直面している。ひとつはペニシリンなどの「抗菌薬」が効かない「薬剤耐性菌」が蔓延し、死亡者数が増加していること。これによる世界の感染死者数は将来、ガン死者数を上回るとも推定されている。もうひとつの危機は感染症のみならず、アレルギー、ガン、肥満、ぜんそく、自閉症、生活習慣病、潰瘍性大腸炎などの患者数が増えていることだ。これらの危機は治療等で抗菌薬を乱用し、人が生きていく上で欠かせない腸内や皮膚の細菌・微生物を殺してきたのが原因である。抗菌薬まみれの人類は危機を回避できるか?細菌とウイルスに対する正しい知識を紹介し、最新感染症対策も解説。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
三瀬/勝利
1938年、愛媛県出身。東京大学薬学部卒業後、厚生省所管の研究機関で種々の病原細菌の研究に従事。薬学博士
山内/一也
1931年、神奈川県出身。東京大学農学部卒業後、国立予防衛生研究所、東京大学医科学研究所などでウイルスの研究に従事。東京大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1938年、愛媛県出身。東京大学薬学部卒業後、厚生省所管の研究機関で種々の病原細菌の研究に従事。薬学博士
山内/一也
1931年、神奈川県出身。東京大学農学部卒業後、国立予防衛生研究所、東京大学医科学研究所などでウイルスの研究に従事。東京大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1分以内にKindleで ガンより怖い薬剤耐性菌 (集英社新書) をお読みいただけます。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
Kindle をお持ちでない場合、こちらから購入いただけます。 Kindle 無料アプリのダウンロードはこちら。
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
5つ星のうち4.1
星5つ中の4.1
12 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
ベスト500レビュアー
Amazonで購入
8人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2018年12月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
繰り返す膀胱炎に悩んでいた私ですがこの本で明確に原因を知る事が出来ました。医師の処方通りに服用していたのにも
かかわらず抗菌薬が効かない耐性菌がわたしの身体に発生してしまった様です。
耐性菌に熱心に取り組んでいる病院で診療を受けることにしました。
かかわらず抗菌薬が効かない耐性菌がわたしの身体に発生してしまった様です。
耐性菌に熱心に取り組んでいる病院で診療を受けることにしました。
2019年1月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
盲目的に、薬を飲むのは、極めて危険、やめましょう。
2018年7月7日に日本でレビュー済み
本書には、ニュースなどで耳にすることが増えてきた「薬剤耐性菌」について書かれている。新書ということもあり、かなり分かりやすい。なお、本書は「抗生物質」ではなく「抗菌薬」という言葉を使っている。抗生物質がカビなどの自然由来のものを示す言葉なので、同じような役割を果たしている化学合成した薬品を含まないことになるからとのこと。
この手の本で警告されるのは、だいたい抗生物質の濫用だが、本書では、それに加え、抗菌グッズや消毒薬の濫用も薬剤耐性菌・薬剤耐性ウイルスと無関係でないこと、このままでは薬剤耐性菌で死亡する人がガンで死亡する人を上回る勢いであること、耐性菌の蔓延や新しい病気の急増の背景に抗菌薬の濫用があることを実例を上げながら指摘している。また、感染症を起こす微生物の代表例を、さらにはガンを引き起こしかねない微生物や細菌についても説明している。
『失われてゆく、我々の内なる細菌 』などは、人間の体と細菌の共生に大きなスポットが当たっているが、本書の特徴は、書名にもあるように薬剤耐性菌にスポットをあて、その発生する理由や原因、その怖ろしさ、対処方法などに大きくページを割いていることである。
抗菌薬も「薬」である以上、濫用は危険だということ。だから、不要な抗菌薬を求めないこと。そういったことを人類が実践していかないと、未来の人類は抗生物質発見以前のように感染症に苦しむことになり、新しい病気の脅威からも逃れられない、ということだ。
この手の本で警告されるのは、だいたい抗生物質の濫用だが、本書では、それに加え、抗菌グッズや消毒薬の濫用も薬剤耐性菌・薬剤耐性ウイルスと無関係でないこと、このままでは薬剤耐性菌で死亡する人がガンで死亡する人を上回る勢いであること、耐性菌の蔓延や新しい病気の急増の背景に抗菌薬の濫用があることを実例を上げながら指摘している。また、感染症を起こす微生物の代表例を、さらにはガンを引き起こしかねない微生物や細菌についても説明している。
『失われてゆく、我々の内なる細菌 』などは、人間の体と細菌の共生に大きなスポットが当たっているが、本書の特徴は、書名にもあるように薬剤耐性菌にスポットをあて、その発生する理由や原因、その怖ろしさ、対処方法などに大きくページを割いていることである。
抗菌薬も「薬」である以上、濫用は危険だということ。だから、不要な抗菌薬を求めないこと。そういったことを人類が実践していかないと、未来の人類は抗生物質発見以前のように感染症に苦しむことになり、新しい病気の脅威からも逃れられない、ということだ。
2018年7月2日に日本でレビュー済み
本書の主要なテーマは、紹介文にもあるように、治療等による抗菌薬の乱用あるいは抗菌グッズの過剰な使用などにより、抗菌薬が効かない「薬剤耐性菌」が蔓延していること、またアレルギーや潰瘍性大腸炎を始めとした様々な病気の患者数の増加を招いているということを色々な証拠(エビデンス)や実験事実を提示して紹介することにある。既に一般的にも良く知られてきているように、ヒトの腸内には100兆個にものぼる細菌が棲みついている。このことから「人間はヒトと細菌などからなる複合生物である」という考え方が受け入れられてきているとのこと。現実にヒトを構成する細胞の数(約60兆個)を遥かに超える細菌が腸や口腔、皮膚などにいて、食物の分解を助けたり、免疫を強化したり、病原性を持った細菌の侵入を防いだりと重要な役割を果たしてくれているとすれば、過剰な抗菌薬の使用により、それらの細菌が死滅したり、特定の細菌の割合が減ってバランスが崩れることで、病気になったり、病気にならないまでも体調を崩したりするということは良く理解できる。医師に安易に抗菌薬の処方を求めたり、過剰に抗菌グッズや消毒薬を多用するなど、我々自身の行動を改めていくことが、耐性菌の蔓延や関連疾患の増加を防ぐことにつながるという著者の主張ももっともに思われる。
一方で、本書の後半では、細菌やウイルス、真菌などにより引き起こされる様々な病気についての解説がなされている。一般的に微生物の感染症とされる病気だけではなく、一部のがんや、動脈硬化、自己免疫疾患など関連があるとは思われないような病気と微生物感染との関連を示す研究報告が増えてきているとのこと。感染症についても、既にほぼ制圧されたと思われてきていた結核や梅毒なども依然患者は減っておらず、またグローバル化に伴って新しいタイプの感染症(エマージング感染症)も次々と出現している。そういった感染症に対しては、早期に診断をつけ抗菌、抗ウイルス薬の使用も含め適切な治療をすることが大切であろう。また我々と共存している細菌の中でも動脈硬化や自己免疫疾患の原因となる細菌についてはその数を減らせればそれに越したことはない。色々考えていくと「適切な抗菌薬の使用」と言っても実際には中々難しく、個人でできることにも限界があるような気もしてくる。
結局、ありきたりの話になるが、我々と共存している微生物の存在を先ずはしっかり意識し、バランスの取れた食事等生活習慣に気を付け、善玉菌にしっかり働いてもらうことが体調を保ち、病気を遠ざける基本ということかもしれない。
一方で、本書の後半では、細菌やウイルス、真菌などにより引き起こされる様々な病気についての解説がなされている。一般的に微生物の感染症とされる病気だけではなく、一部のがんや、動脈硬化、自己免疫疾患など関連があるとは思われないような病気と微生物感染との関連を示す研究報告が増えてきているとのこと。感染症についても、既にほぼ制圧されたと思われてきていた結核や梅毒なども依然患者は減っておらず、またグローバル化に伴って新しいタイプの感染症(エマージング感染症)も次々と出現している。そういった感染症に対しては、早期に診断をつけ抗菌、抗ウイルス薬の使用も含め適切な治療をすることが大切であろう。また我々と共存している細菌の中でも動脈硬化や自己免疫疾患の原因となる細菌についてはその数を減らせればそれに越したことはない。色々考えていくと「適切な抗菌薬の使用」と言っても実際には中々難しく、個人でできることにも限界があるような気もしてくる。
結局、ありきたりの話になるが、我々と共存している微生物の存在を先ずはしっかり意識し、バランスの取れた食事等生活習慣に気を付け、善玉菌にしっかり働いてもらうことが体調を保ち、病気を遠ざける基本ということかもしれない。
2020年8月20日に日本でレビュー済み
COVID-19騒ぎでかすんでしまっていますが、これまで感染症の最大のリスクと言われ続けていたのは薬剤耐性菌です。人類がペニシリン、ストレプトマイシンに始まる抗菌薬のおかげで感染症死から免れるようになって70年ですが、最近になって「抗菌薬」が効かない「薬剤耐性菌」が蔓延し死亡者数が増加しています。
薬剤耐性菌の2050年問題って知ってますか?2014年にイギリスのキャメロン首相(当時)が立ち上げた研究グループによればこのまま対策がとられなければ2050年には耐性菌感染症による世界の年間死亡者は1000万人に達するらしいです。2015年にはオバマ大統領(当時)による耐性菌に対する行動計画さらに2016年伊勢志摩サミットでも耐性菌対策が議題になるなど、新型コロナ以前には耐性菌問題こそが最大の健康上の問題だったわけで、もちろん解決しているわけではないのです。
耐性菌が蔓延してきた最大の理由は人類が浴びるほど抗生物質を使用してきたからです。この本では細菌の薬剤耐性のしくみ、そしてその耐性を獲得するメカニズムなど薬剤耐性菌をめぐるさまざまなことをまとめてくれています。例えば、カビや放線菌は自分の増殖を有利にするため周辺の細菌を死滅させる物質を作り出します。これが抗生物質になるわけです。そして同時にカビや放線菌はその抗生物質成分から自分自身を守るために抗生物質成分に対する耐性遺伝子も持っているのです。その耐性遺伝子がウイルス(ファージ)によって病原細菌の中に持ち込まれると細菌が薬剤耐性を獲得します。また細菌にもオスとメスがありオス・メス融合による耐性遺伝子の水平遺伝というメカニズムも細菌ならでは。細菌世界にもいろいろあるんです。
ではどうすれば耐性菌問題を解決できるのか。それには特定の抗生物質の使用を長期間、全面的に中断すること。そうすれば、その抗生物質はやがて効果を取り戻してきます。本書中ではクロラムフェニコールと赤痢菌の例が挙げられています。薬剤耐性菌は耐性を維持するため酵素を作るなど代謝上の負荷がかかっているので、抗生物質がない状態では耐性菌ではないほうが繁殖に有利なのです。そのため一定期間特定の抗生物質を使わないでいると耐性菌は非耐性菌に淘汰されるというわけです。耐性菌を増やさず、感受性菌に有利は環境を提供するためにも、無用な、多種類の抗生物質の乱用はルールをきめてしっかり規制していかなければならない・・・そういうコンセンサスが国際的にできつつあるというのが現状のようです。
本書の後半は抗生物質による体内環境(主に腸内細菌)の攪乱の話になったり、ウイルスを含む感染症全般に話が展開してしまい、タイトルである薬剤耐性菌の話は前半のみというのは少し物足りないです。
耐性菌については、2000年前後に名著ともいえる本が多いです。名著の「細菌の逆襲」「薬はなぜ効かなくなるか」をぜひ読んでみましょう。
薬剤耐性菌の2050年問題って知ってますか?2014年にイギリスのキャメロン首相(当時)が立ち上げた研究グループによればこのまま対策がとられなければ2050年には耐性菌感染症による世界の年間死亡者は1000万人に達するらしいです。2015年にはオバマ大統領(当時)による耐性菌に対する行動計画さらに2016年伊勢志摩サミットでも耐性菌対策が議題になるなど、新型コロナ以前には耐性菌問題こそが最大の健康上の問題だったわけで、もちろん解決しているわけではないのです。
耐性菌が蔓延してきた最大の理由は人類が浴びるほど抗生物質を使用してきたからです。この本では細菌の薬剤耐性のしくみ、そしてその耐性を獲得するメカニズムなど薬剤耐性菌をめぐるさまざまなことをまとめてくれています。例えば、カビや放線菌は自分の増殖を有利にするため周辺の細菌を死滅させる物質を作り出します。これが抗生物質になるわけです。そして同時にカビや放線菌はその抗生物質成分から自分自身を守るために抗生物質成分に対する耐性遺伝子も持っているのです。その耐性遺伝子がウイルス(ファージ)によって病原細菌の中に持ち込まれると細菌が薬剤耐性を獲得します。また細菌にもオスとメスがありオス・メス融合による耐性遺伝子の水平遺伝というメカニズムも細菌ならでは。細菌世界にもいろいろあるんです。
ではどうすれば耐性菌問題を解決できるのか。それには特定の抗生物質の使用を長期間、全面的に中断すること。そうすれば、その抗生物質はやがて効果を取り戻してきます。本書中ではクロラムフェニコールと赤痢菌の例が挙げられています。薬剤耐性菌は耐性を維持するため酵素を作るなど代謝上の負荷がかかっているので、抗生物質がない状態では耐性菌ではないほうが繁殖に有利なのです。そのため一定期間特定の抗生物質を使わないでいると耐性菌は非耐性菌に淘汰されるというわけです。耐性菌を増やさず、感受性菌に有利は環境を提供するためにも、無用な、多種類の抗生物質の乱用はルールをきめてしっかり規制していかなければならない・・・そういうコンセンサスが国際的にできつつあるというのが現状のようです。
本書の後半は抗生物質による体内環境(主に腸内細菌)の攪乱の話になったり、ウイルスを含む感染症全般に話が展開してしまい、タイトルである薬剤耐性菌の話は前半のみというのは少し物足りないです。
耐性菌については、2000年前後に名著ともいえる本が多いです。名著の「細菌の逆襲」「薬はなぜ効かなくなるか」をぜひ読んでみましょう。