1980年出版の十四中・短編集である。
『冷血』で、ノンフィクション小説というジャンルを切り開いたカポーティの、また新しい
試みであり、実験的分野としての作品集である。レイモンド・チャンドラー的で、E・A・ポ
ー風の要素も含まれている。また、日本芸術の能、歌舞伎、映画を参考にし、三島由紀夫、
美しい花火の話題もある。著者は、「フィクションとノンフィクションは二つの大きな河の
ように合流していくし、文章世界ではますますこの傾向が強まる」と、『カポーティとの対
話』のなかで述べている。本作品は、散文、脚本など、著者がこれまで書いてきたあらゆる
異なった形式、すべての技術を同時に適用している、と云える。短篇について、「短篇の芸
術家にとっては、短篇はもっとも難しい」と云い、作品に対する最大の「制御力」と「精確
さ」を必要とするとも述べている。『カポーティとの対話』を併読すると一層理解しやすい。
構成は、十三の短篇と一つの中篇である。「カメレオンのための音楽」を含む六短篇は、
一人称小説であるが、「わたし自身の存在を完全にけしさることだ」と序文で書いているよ
うに、カポーティの存在を感じさせない。各物語は不思議で、奇抜で、奇怪な内容である。
わたしの友人が死んだカリブ海の島、老婦人が弾くピアノでカメレオンたちが部屋に集ま
ってくる。友人の死と関係あるのだろうか。身体障害者のソ連のスパイらしき人物をモスク
ワで見かけ、彼は健常者であったこと、ジェーン・オースティンの『エマ』を読む夫人が猫
好きで、冷凍庫に猫の死体を保存している話、夫に女性を紹介し自らも不倫をし、三角、四
角関係の人間模様の話など、非日常と恐怖の世界に迷い込む。
第二部の中編小説「手彫りの柩」は、牧場をめぐる利水権争いで、手彫りでミニチュアの
柩が送られてきた人物が殺されていく。犯人の目星はついているが、追い詰められない。ア
メリカ人作家の紹介もある。レイモンド・チャンドラー、マーク・トウェン、グレアム・グ
リーンなど。「牧場主の手がラフマニノフの手に似ている」と面白い表現もある。すこし、
長い作品であるが、まさしくレイモンド・チャンドラー風である。
文体としては、会話、地の文、かっこ付き( )文章で工夫している。かっこ付きは、写生
、心理描写である。
第三部は「会話によるレポート」、七短篇である。カポーティは「TC」と表示され、主人
公たちと会話しながら物語を紡いでいく。著者が「いちばん気に入っている」という「一日
の仕事」は、黒人掃除婦に同行しながら他人の部屋を観察する。著者「TC」が質問している
が、ノンフィクションかフィクションか判断が困難で、著者の「会話体小説」という新ジャ
ンルと思いたい。
しかし、マリリン・モンローを主人公にした「うつくしい子供」は『カポーティとの対話』
でも取り上げられているノンフィクションである。モンローの言葉の表現力、頭の回転の
はやさ、優雅な顔の表情などが著者の繊細な筆力で描写されている。
「あたしがどんな女か、そう人に聞かれたら?」の問いに、カポーティは、「何もかもがな
んで決まりきったように消えてなくなるのだろうか。人生ってなんでこんなにいまいましく
くだらないのだろうか?」と、モンローに質問している。消えていく美しいモンローの死を
予感していたのだろうか。
アルファベットも完璧に言えず、数学音痴で引き算ができないカポーティであるが、抜群
な知能指数で、本を逆さにして読むことができる特技もある。カポーティの才能や、人脈を
窺い知る作品集でもある。
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カメレオンのための音楽 (ハヤカワepi文庫) 文庫 – 2002/11/1
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- 本の長さ424ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2002/11/1
- ISBN-104151200193
- ISBN-13978-4151200199
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
現実にあった、『冷血』を上回る残虐な連続殺人事件と刑事の絶望的な戦いを描く中篇「手彫りの柩」。表題作「カメレオンのための音楽」など、悪魔と神、現実と神秘のあわいに生きる人間を簡潔にして絶妙の筆致で描く珠玉の短篇群。マリリン・モンローについての最高のスケッチといわれる「うつくしい子供」など人の不思議さを追及した会話によるポートレート集。三部からなる、巨匠カポーティ、最後の傑作を野坂昭如の翻訳で贈る。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
カポーティ,トルーマン
1924‐84。ニューオルリーンズに生まれ、19歳のときO・ヘンリー賞を受賞した短篇「ミリアム」でデビューした。処女長篇『遠い声遠い部屋』で文壇の注目を集め、南部の輝かしい星、早熟の天才と呼ばれた
野坂/昭如
1930年生、作家。小説「エロ事師たち」、直木賞受賞作「火垂るの墓」「アメリカひじき」、吉川英治文学賞受賞作「同心円」他多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1924‐84。ニューオルリーンズに生まれ、19歳のときO・ヘンリー賞を受賞した短篇「ミリアム」でデビューした。処女長篇『遠い声遠い部屋』で文壇の注目を集め、南部の輝かしい星、早熟の天才と呼ばれた
野坂/昭如
1930年生、作家。小説「エロ事師たち」、直木賞受賞作「火垂るの墓」「アメリカひじき」、吉川英治文学賞受賞作「同心円」他多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2007年11月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
カポーティが、長いスランプの後に生み出した渾身の短編集。
この本の、特に序文を読むと、小説を創り出すことの困難さが伝わってくるし
そして何よりもカポーティが書くことにとりつかれた人間だった
ということが伝わってくる。
この本に収められた作品の中で、カポーティは小説の様々な形を提示している。
「冷血」に通じるようなノンフィクション風のもの、
会話形式のもの、ポートレイトなど。多彩で読み応えがある作品集になっている。
若くしてデビューし書き続けてきた作家の、キャリアの終盤に位置する短編集だけれど
この本には作家としての熟練だけではなく、斬新さや実験性があることに感動する。
カポーティの才能を堪能できる一冊だと思う。
この本の、特に序文を読むと、小説を創り出すことの困難さが伝わってくるし
そして何よりもカポーティが書くことにとりつかれた人間だった
ということが伝わってくる。
この本に収められた作品の中で、カポーティは小説の様々な形を提示している。
「冷血」に通じるようなノンフィクション風のもの、
会話形式のもの、ポートレイトなど。多彩で読み応えがある作品集になっている。
若くしてデビューし書き続けてきた作家の、キャリアの終盤に位置する短編集だけれど
この本には作家としての熟練だけではなく、斬新さや実験性があることに感動する。
カポーティの才能を堪能できる一冊だと思う。
2004年2月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
カポーティを読むのは初めてでしたが、ティファニーで朝食をからうけるイメージとは少し違う雰囲気の小説でした。訳の仕方も影響しているでしょうが、淡々としていて無駄がなく、筆者はあくまでも第3者として事件を客観的に。という姿勢が伝わってくる反面、インタビューをフィクションだと感じさせるほどの物語性も持っています。ニューヨークヤロサンジェルスを舞台とし、マリリン・モンローも登場人物となる華やかさとは裏腹に、どこか寂しさと暗さの漂う作品群。何年か後読み返せば、きっとまた違う印象を受けれる一作だと思います。
2008年5月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
村上春樹訳の「ティファニーで朝食を」でカポーティの作家としての圧倒的な存在感に魅了され、原書に加えて訳書の本書も購入しました。
主として、カポーティが自身に纏わる実話をベースに、(氏曰く)修得したあらゆる文体・技巧を駆使して描いた短編小説集です。生前最後に出版された小説ですが、マリリンモンローから殺人事件の容疑者、カリブの島の老貴婦人に至るまで登場人物はとても幅広く、「ティファニーで朝食を」程の余韻は残さないまでも、これ程の切れと奥行と神秘性(必然なる偶然等)を併せ持つ短編小説には中々巡り会えないと思います。
個人的には、好きなラフマニノフやゴッホ、それから日本(人)という言葉が(良い意味でなくても)多く引用されていたことや、最後の短編で(私が尊敬する)三島由紀夫の自死のエピソードを登場させ、友人である三島が過去に「カポーティは自殺するだろうと確信している者の一人だ」と述べた事を引用し、自殺する位ならその原因となる相手を殺すと言い切ったのがとても印象的でした。
そのカポーティは畢竟、自分を客観的に見つめ脅かすもう一人の自分を殺した(つまり、結果的には自殺した)のではないかと感じられました。なぜなら、その最後の短編の設定は、奇しくもカポーティがもう一人の自分と問答しあう内容だったのです。
主として、カポーティが自身に纏わる実話をベースに、(氏曰く)修得したあらゆる文体・技巧を駆使して描いた短編小説集です。生前最後に出版された小説ですが、マリリンモンローから殺人事件の容疑者、カリブの島の老貴婦人に至るまで登場人物はとても幅広く、「ティファニーで朝食を」程の余韻は残さないまでも、これ程の切れと奥行と神秘性(必然なる偶然等)を併せ持つ短編小説には中々巡り会えないと思います。
個人的には、好きなラフマニノフやゴッホ、それから日本(人)という言葉が(良い意味でなくても)多く引用されていたことや、最後の短編で(私が尊敬する)三島由紀夫の自死のエピソードを登場させ、友人である三島が過去に「カポーティは自殺するだろうと確信している者の一人だ」と述べた事を引用し、自殺する位ならその原因となる相手を殺すと言い切ったのがとても印象的でした。
そのカポーティは畢竟、自分を客観的に見つめ脅かすもう一人の自分を殺した(つまり、結果的には自殺した)のではないかと感じられました。なぜなら、その最後の短編の設定は、奇しくもカポーティがもう一人の自分と問答しあう内容だったのです。
ベスト500レビュアー
Amazonで購入
アメリカ的犯罪のノンフィクション解釈と副題がつけれれた「手彫りの柩」は,「冷血」同様読み出したら止まらない。
アメリカの片田舎で事件を担当する刑事ジェイク・ペッパーから興味を引く事件の話を聞かされる。
ある夫婦のもとに届いたミニチュアの柩。中には夫婦の写真が。
その後二人が家を出て車に乗り込んだとたん,ひと群れのガラガラヘビが電光石火の勢いで二人を襲う。蛇にはアンファタミンが注射され,極端に興奮した蛇が夫婦の身体にところかまわず噛みつき,夫婦は即死する。
その後,同様に写真入りのミニチュアの柩が届いた人物は,かならず何らかの手段で殺害または死亡してしまう。
「冷血」同様現実の事件をもとにしていますが,登場人物を再構築し,かつカポーティー自身がTCという形で全面的に登場する点が「冷血」とは大きく違う点です。
作者自ら前書きで,「あえて自らを中央舞台に位置せしめ,ありふれた人との普段の会話を,地味にまた簡潔に再構成してみた」とあるとおり,
「手彫りの柩」以外の作品においても,カポーティーがおもてに出る私小説風作品集とも言えそうです。
「手彫りの柩」においては,その技法によって,自らに及ぶ危険や恐怖が増幅されているように思われます。
こんな事件が本当にあったということ自体驚きですが,それを見事に再構成させたカポーティーの文体はさすがです。
アメリカの片田舎で事件を担当する刑事ジェイク・ペッパーから興味を引く事件の話を聞かされる。
ある夫婦のもとに届いたミニチュアの柩。中には夫婦の写真が。
その後二人が家を出て車に乗り込んだとたん,ひと群れのガラガラヘビが電光石火の勢いで二人を襲う。蛇にはアンファタミンが注射され,極端に興奮した蛇が夫婦の身体にところかまわず噛みつき,夫婦は即死する。
その後,同様に写真入りのミニチュアの柩が届いた人物は,かならず何らかの手段で殺害または死亡してしまう。
「冷血」同様現実の事件をもとにしていますが,登場人物を再構築し,かつカポーティー自身がTCという形で全面的に登場する点が「冷血」とは大きく違う点です。
作者自ら前書きで,「あえて自らを中央舞台に位置せしめ,ありふれた人との普段の会話を,地味にまた簡潔に再構成してみた」とあるとおり,
「手彫りの柩」以外の作品においても,カポーティーがおもてに出る私小説風作品集とも言えそうです。
「手彫りの柩」においては,その技法によって,自らに及ぶ危険や恐怖が増幅されているように思われます。
こんな事件が本当にあったということ自体驚きですが,それを見事に再構成させたカポーティーの文体はさすがです。
2010年3月4日に日本でレビュー済み
翻訳者に魅かれて、若い頃に読んだのだが、やはり印象に残っているのは「美しい子供」。
マリリン・モンローには何故か惹き付けられるものがあって、様々な写真や本を集めたが、
私の印象は最初から変わらず「迷子になった子供のような」人だった。
彼女の僅か36年の人生を考えても、ずっと自分を保護してくれる父親を求めていたような気がする。
イノセントで傷付きやすく、しかしその魂を包む肉体への偏見から逃れられなかった人。
誰もが羨む外見を持つ美形というものは、内面を評価してくれる伴侶という存在を得難い気がする。
カポーティの筆から浮かび上がるのは、見たままのマリリンの姿。途方に暮れたような、美しい子供。
カポーティだから見られたのかも知れないし、カポーティにしか見えない姿だったかも知れない。
いずれにせよ、孤独な大女優の素顔の一部を知る、貴重なスケッチだと思う。
マリリン・モンローには何故か惹き付けられるものがあって、様々な写真や本を集めたが、
私の印象は最初から変わらず「迷子になった子供のような」人だった。
彼女の僅か36年の人生を考えても、ずっと自分を保護してくれる父親を求めていたような気がする。
イノセントで傷付きやすく、しかしその魂を包む肉体への偏見から逃れられなかった人。
誰もが羨む外見を持つ美形というものは、内面を評価してくれる伴侶という存在を得難い気がする。
カポーティの筆から浮かび上がるのは、見たままのマリリンの姿。途方に暮れたような、美しい子供。
カポーティだから見られたのかも知れないし、カポーティにしか見えない姿だったかも知れない。
いずれにせよ、孤独な大女優の素顔の一部を知る、貴重なスケッチだと思う。
2006年5月8日に日本でレビュー済み
最初に買ったのはもう20年以上前(18歳の頃)の単行本でした。野坂昭如が翻訳しているのを見て、「きっとへんてこりんな小説なんだろう」と期待しました。読んでみるともちろんへんてこりんだったのですが、洒脱な言葉遣いとむき出しの感受性に満ちていて、素敵な小説だなぁと思いました。特に、マリリン・モンローを描いた「美しい子供」は秀逸で、今思えばカポーティだからこそ、肉感から切り離されたマリリンを(つまり男でも女でもない視線で)あんなにも可愛らしく書けたのだろうと感じます。
2008年9月7日に日本でレビュー済み
初めてカポーティを読んだのは、生意気盛りのローティーンのとき。
『遠い声 遠い部屋』。本棚を見たら、黄ばんだ文庫本がありました。
『カメレオンのための音楽』は、本読みの大先輩が「再読したらやはりよかった」というのと、『冷血』の映画は観たけど、本は途中読みだったので、再トライの意味で買ってみました。
「初めて読んですごくよかった」です。
やはり秀逸なのは、マリリン・モンローとのスケッチ。
これを読むためだけにでも、買う価値はあるのではないでしょうか。(文庫だし)
いろんなTC(トルーマン・カポーティ)がいて、どれもTC。
何かのあとがき(?)に、「彼にとっては生きることすべてが病因だった」(というようなこと)が書いてありましたが、さもありなん。
でも、好きにならずにいられない人です。(隣にいたら、また、別かもしれませんが)
野坂さんの訳も素敵でした。
『遠い声 遠い部屋』。本棚を見たら、黄ばんだ文庫本がありました。
『カメレオンのための音楽』は、本読みの大先輩が「再読したらやはりよかった」というのと、『冷血』の映画は観たけど、本は途中読みだったので、再トライの意味で買ってみました。
「初めて読んですごくよかった」です。
やはり秀逸なのは、マリリン・モンローとのスケッチ。
これを読むためだけにでも、買う価値はあるのではないでしょうか。(文庫だし)
いろんなTC(トルーマン・カポーティ)がいて、どれもTC。
何かのあとがき(?)に、「彼にとっては生きることすべてが病因だった」(というようなこと)が書いてありましたが、さもありなん。
でも、好きにならずにいられない人です。(隣にいたら、また、別かもしれませんが)
野坂さんの訳も素敵でした。