石黒さんの 繊細で 女性らしい音によって、 金子みすゞの 言の葉ひとつひとつが オペラによって歌われる。 石黒さんの作風にある(?)、女声合唱の軽く繊細な和音が際立っているようにも思えます。
みすゞ が女の人というのもあって、 女性がテーマとなった作品では合っている気がします。
(オペラはあまり詳しくありませんが、大昔西洋から演奏されるオペラはどぎつく、濃く、あまり好きになれないと個人的には感じていましたが、日本人という切り口で作られたこの作品は、自然で 聴きやすい印象です。)
かつて みすゞが人生のなかで綴ってきた 言葉 、「私は 雲に なりたいな 」 、その言葉自体は明るいイメージをもたれますが、 同時に 背理に死という闇を感じさせられました。
優しく柔らかい詩を書く みすゞさんですが、いつも背後に死を抱えていたのです。
背後にいつも 死があった、壮絶な人生を歩んだみすゞの様子がわかります。
その 死 がこの作品ではポイントになってきます。
死は 鎌を持った死神(男か女 という性別がないため カウンターテナー)によって 歌われます、
金子みすゞは 死(死神)と対峙することで 宇宙から 言の葉を紡ぎ出した ということができるでしょう。
芸術家は 古くから、宇宙に漂う音、言葉を受信しやすい人間である、 というぶっきらぼうな言葉もありますが、 個人的には合点がいきました。
オペラ全体として、
モーツァルト 魔笛の雰囲気に近い、ように思われます。 すべてのインスピレーションが有機的なものとなって音楽となってゆく 、それ自体が大きな宇宙として、生きている世界に存在している、といったテーマ。
この作品の泣き所、
第三幕 ラスト です。
死神が待ち受け、 みすゞが死を迎えてしまう時、
もう一度あのフレーズが繰り返されます。
「私は 雲に なりたいな」
背後にあった死を受け入れてしまう、明るく、切なくしかし崇高な響きです。
すべてを悟っていたかのような、 それでも空にある雲という遠い存在に憧れた 、 それによって死から解放されるかもしれない 、ある種 言の葉の呪縛から解かれるかもしれない、絶望したような期待がそこにはあったのでしょう。音は明るく、静かに響きます。
これが、 「私は 雲に なりたいな」の音だと。
みすゞが残した言葉は 現代の私たちに 明るく残っていきます。
言葉 とはどこからくるのか、
みすゞが言葉を紡ぐ背景にはなにがあったのか
そんなことをわからせてくれる作品でした。