ナイス・ボディ!
暖かくなるとヤツらがやってくる。ゴキブリだ。すばしっこくてタフなヤツ。雑誌でひっぱたいたぐらいでは死なない。人類よりはるか前から地球にいて、人類滅亡後もヤツらは栄えているだろう。
本川達雄の『ウニはすごいバッタもすごい』は、昆虫や貝類、ナマコやホヤたちの体がいかにすぐれているかを教えてくれる。「すごい」にいささかの誇張もなく、「びっくり! 」の連続である。
本書は無脊椎動物(背骨をもたない動物)のうち、棘皮動物門や節足動物門など五つの門の動物を取り上げる。棘皮動物門というのはヒトデやナマコなど。節足動物門は昆虫のほかエビ・カニなど甲殻類も含まれる。
昆虫の体表を覆う外骨格は、クチクラというものでできている。これがすごい。体をすっぽり包んで、内部を乾燥から守る。これによって陸を制覇。クチクラは軽くて丈夫なので、細くて強い脚や、薄くて広い羽にもなる。速く走り、高くジャンプし、空も飛び回る。陸に続いて空も制覇。
脚や羽を動かすメカニズムも秀逸だ。たんに筋肉で動かすのではなく、硬い体表をいかして梃子の原理を使うのである。少ないエネルギーで大きな力を発揮する。ぼくらがゴキブリにかなわないのも納得できる。
副題は「デザインの生物学」。動物たちの体が進化の過程でどうデザインされたかを解き明かす。置かれた環境のなかで、いかに効率よく食べ物を摂取し、いかにうまく身を守るかを優先した結果、あの素晴らしいボディを獲得したのだ。こんどゴキブリを見つけたら、「ナイス・ボディ! 」と声をかけてやろう。
評者:永江朗
(週刊朝日 掲載)
ハチは、硬軟自在の「クチクラ」という素材をバネにして、一秒間に数百回も羽ばたくことができる。アサリは天敵から攻撃を受けると、通常の筋肉より25倍も強い力を何時間でも出し続けられる「キャッチ筋」を使って殻を閉ざす―。いきものの体のつくりは、かたちも大きさも千差万別。バッタの跳躍、クラゲの毒針、ウシの反芻など、進化の過程で姿を変え、武器を身につけたいきものたちの、巧みな生存戦略に迫る。
著者について
1948年宮城県生まれ.東京大学理学部卒業.同大学助手,琉球大学助教授,デューク大学客員助教授を経て,1991年より東京工業大学理学部教授.2013年,退官.現在,東京工業大学名誉教授.専門は動物生理学.著書『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書,1992年),『サンゴとサンゴ礁のはなし』(同,2008年),『生物学的文明論』(新潮新書,2011年)ほか多数.
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
本川/達雄
1948年(昭和23年)、仙台に生まれる。1971年、東京大学理学部生物学科(動物学)卒業。東京大学助手、琉球大学助教授(86年から88年までデューク大学客員助教授)、東京工業大学大学院生命理工学研究科教授を歴任、東京工業大学名誉教授。理学博士。専攻は動物生理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)