ウェルス・マネジメントの中心団体であるソサイエティ・トラスト・アンド・エステイト・プラクティショナーズ(略称STEP)は、ロンドンを拠点に1991年に創立されました。超富裕層の財産を税、債権(例として医療倍賞金)、望まない相続人から守るためですが、最も大きな目的は国家権力の束縛から逃れることです。
信託の起源は、中世の十字軍に遡ります。中世の受託者の唯一の役目は、土地の所有権を保有し、委託者の指名した相続人にそれを譲渡することでした。英国の長子相続制についてはTVドラマ「ダウントン・アビー」を思い出します。
ウェルネス・マネジメントとプライベートバンクの違いは、プライベートバンカーは顧客との関係はフィデューシャリー(信認義務を負うこと)ではなく情報の非対称性により搾取的に振るまい、一方、ウェルネス・マネジャーはフィデューシャリーであるそうですが、・・
ウェルネス・マネジメントの重要なツールは信託、オフショア財団、オフショア法人の3つです。
ここで著者の述べる永久運動機関とも言える蓄財サイクルの例を紹介します。
①徴税、債務、罰金による富の消散を最小限に抑えて、さらなる成長のために使える剰余金を最大化する。
②低いリスクで相当な利益を得られる独占的な機会を顧客に与える。
③慎重に管理された継続プロセスにより富を少数に集中させて、邪魔をされずに財産を増やす。
これを私のレベルで改めて解釈するとすれば、
①収入 > 支出
②資産 × 運用利回り
③(収入 > 支出) + 資産 × 運用利回り
ウェルネス・マネジメントのテクニックとして、異なる国の法律の不一致やすき間を利用する【規制裁定】は基本のひとつです。
租税回避するために利益をオフショア法人に付け替えて、その後は「外国投資」に名を変えて本国に再投資する【ラウンド・トリッピング】
課税や規制をするオンショア国家の法務当局に打ち勝つために、異なるオフショア・センターの間で資産を【分割統治】する。より広範囲に複雑に分割することで、資産の評価が困難になります。
いくつかのオフショア・センターの特徴を紹介します。
スイスでは顧客情報の秘匿が困難になったために、欧州の超富裕層ビジネスをモーリシャスが獲得しています。モーリシャスはアフリカ、インドのニューリッチにも人気があるそうです。
英領バージン・アイランド諸島(BVI)はロシア企業、中国企業のお気に入りで、イギリス領であることからロンドンの不動産と金融市場に効率的にアクセスできる利点があります。ブレグジット後はどうなるのでしょうか。
パナマはメキシコや南米の国に人気だそうです。自国の銀行では個人情報が簡単に漏れて誘拐事件が多いことも理由だそうです。信託よりオフショア財団が多い理由は、パナマの法律はパナマの財団に保有される資産に対して、外国のいかなる相続法の適用を明確に禁じているそうです。愛人とその子供に遺産を残したい人はどうぞ。
人と資本の移動が自由になったグローバリゼーションの結果、国の束縛から逃れて、真の“自由”を獲得したいという気持ちは、超富裕層でないけれど、私も同じ気持ちです。
印象深い一文がありました。
>資金不足の国家が崩壊の一途をたどるにつれて、有能な市民が海外に流出することも多く、残された人々がナショナリスト的な解決策、民族分裂、憎悪政治に惹きつけられようとしている。
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ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番――世界トップ1%の資産防衛 単行本 – 2018/2/16
ブルック・ハリントン
(著),
庭田 よう子
(翻訳)
購入を強化する
世界の大富豪の資産管理を生業とするウェルス・マネジャー。
世界トップ1%を相手にするため、その実像はベールに包まれている。
社会学者である著者は、ウェルス・マネジャーになる訓練を2 年間受け、
8 年間で65 人に直接インタビューした。
そこから見えてきたのは、大富豪の懐に取り入り、
世界規模でマネーを操る、資産管理のプロたちの姿だった。
タックス・ヘイブンで最先端の金融技術を駆使し、
世界の格差に大きな影響を与える錬金術を、
赤裸々かつ冷静に分析した、初の試み。
世界トップ1%を相手にするため、その実像はベールに包まれている。
社会学者である著者は、ウェルス・マネジャーになる訓練を2 年間受け、
8 年間で65 人に直接インタビューした。
そこから見えてきたのは、大富豪の懐に取り入り、
世界規模でマネーを操る、資産管理のプロたちの姿だった。
タックス・ヘイブンで最先端の金融技術を駆使し、
世界の格差に大きな影響を与える錬金術を、
赤裸々かつ冷静に分析した、初の試み。
- 本の長さ336ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2018/2/16
- 寸法13.4 x 2.8 x 19.5 cm
- ISBN-104622086808
- ISBN-13978-4622086802
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商品の説明
出版社からのコメント
内容(「BOOK」データベースより)
2年をかけてウェルス・マネジャー世界標準資格を取得した社会学者が、8年間で世界18か国の当事者65人を詳細に取材。知られざる実態を初分析。
著者について
ブルック・ハリントン Brooke Harrington
コペンハーゲン・ビジネス・スクール社会学准教授。ハーヴァード大学で
社会学の博士号を取得後、プリンストン大学の客員研究員、マックス・プ
ランク研究所研究員などをへて現職。
著書 Pop Finance: Investment Clubs and the New Investor Populism (Princeton, 2008);
Deception: From Ancient Empires to Internet Dating (Stanford, 2009)。
庭田陽子(にわた・ようこ)
翻訳家
コペンハーゲン・ビジネス・スクール社会学准教授。ハーヴァード大学で
社会学の博士号を取得後、プリンストン大学の客員研究員、マックス・プ
ランク研究所研究員などをへて現職。
著書 Pop Finance: Investment Clubs and the New Investor Populism (Princeton, 2008);
Deception: From Ancient Empires to Internet Dating (Stanford, 2009)。
庭田陽子(にわた・ようこ)
翻訳家
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ハリントン,ブルック
コペンハーゲン・ビジネス・スクール社会学准教授。ハーヴァード大学で社会学の博士号を取得後、プリンストン大学の客員研究員、マックス・プランク研究所研究員などをへて現職
庭田/よう子
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
コペンハーゲン・ビジネス・スクール社会学准教授。ハーヴァード大学で社会学の博士号を取得後、プリンストン大学の客員研究員、マックス・プランク研究所研究員などをへて現職
庭田/よう子
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2018/2/16)
- 発売日 : 2018/2/16
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 336ページ
- ISBN-10 : 4622086808
- ISBN-13 : 978-4622086802
- 寸法 : 13.4 x 2.8 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 258,203位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 690位金融・ファイナンス (本)
- - 1,702位社会一般関連書籍
- - 9,028位社会学概論
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2008年の金融危機によって、ウォール街やシティに拠点を置く巨大な金融業者が自分たちでも理解できないほど複雑な商品を売り、客を食い物にすることで暴利を得ていたことを誰もが知ることとなった。一方で、危機の元凶をつくったインベストメントバンカーたちのはしたないほどの報酬も霞むほどの資産をもっている人たちのために存在する特別な金融業についてはほとんど語られることがない。それがウェルス・マネジメントという世界だ。本書に引用されている連邦準備制度理事会のデータによると、2008年~09年にアメリカでもっとも裕福な上位10%層の平均損失はたった6.4%で、中間層が受けた影響の6分の1だったという。そして損失を最小限にとどめた富裕層は、暴落した株や不動産その他の資産を買い占め、景気回復後にはさらに金持ちになった。
ウェルス・マネジャーとは、こうしたごく少数の超富裕層の財産を政情不安、租税、離婚といったリスクや不利益から財産を守り、ローリスク(ローコスト)・ハイリターンの運用によって増やし、次世代に継承していくために雇われるプロフェッショナルである。租税回避など、合法的に国家を欺くことも仕事のうちであり(本書の表現を借りれば「倫理的にグレーの領域」)、顧客のプライバシー保護は絶対である。ゆえにウェルス・マネジャー自身の活動もベールに包まれている。世界人口の0.7%が世界の資産の41%を所有するという異常な不平等をもたらした富の流動性の低下と、それによる階層の固定化をもたらす一翼を担った知られざるプロフェッショナル集団に光を当てることで、「誰が、どのようにして、事態を維持させているのか突き止める」が研究の主課題である。
ウェルス・マネジャーのルーツは中世イングランドの封建制度の慣行にあるという。かつては友人か親戚が名誉職として無償で財産の受託者を引き受けていたが、扱う財産が土地から金融資産に変わっていくにつれて、受託者も武力を背景とした不動産の守護者から法的な操作を駆使する金融資産のポートフォリオの管理人へと役割そのが変わり、専門職化していった。
社会学者である著者は、STEP(Society of Trust and Estate Practitioners)という、ウェルス・マネジャーの業界団体の資格認定プログラムに「没入」し、エスノグラフィー(行動観察)の手法を用いてこの特殊な業界の役割や仕組みを調べた。ウェルス・マネジャーのその仕事の内容を一言でいえば「法的手段と金融技術を用いて、一世代の剰余金を代々受け継ぐ財産に変える」ことである。その舞台となるのがオフショア金融センター(OFC)だ。ニコラス・シャクソンの「社会に金を払うことなく社会から恩恵を得ることを目的とした、裕福で力のあるエリートの構想」という言葉で的確に説明されているOFCは、法的にはつぎはぎ状態の国民国家体制の脆弱性を突いた「規制と説明責任から自由な地域」である。異なるOFC同士が富裕層の財産を誘致するために競合し、オンショア国家の法務当局はは富裕層の国内からOFCへの財産の流出を追及する。ウェルス・マネジャーの仕事は、顧客がオンショア国家の課税を逃れるため、異なるOFCに富を分割し、信託・法人・財団をツールに使って“イノベーティブ”に管理することだ。中国の富裕層は香港とケイマン、裕福なインド人はモーリシャス、南米の金持ちはパナマ、ロシア企業はBVI(イギリス領バージン諸島)と、オンショア国家の地理的、政治的、法的な条件によってそれぞれ使い勝手のよいOFCが存在する。パナマ市を拠点とする置く一軒のウェルス・マネジメントから流出した「パナマ文書」には、世界のVIPたちが名をつらねていたが、これはパナマが近年、ニッチな競争力でOFCとして人気を高めていたからだという。
このオフショア金融の利用が「貧しい者から止める者へと富と権力を移動させた史上最大の力」(ニコラス・シャクソン)といもいわれている。オフショア金融のプロがウェルス・マネジャーだ。本書の第5章「ウェルス・マネジメントと不平等」では、所得(フロー)の不平等よりも富(ストック)の不平等をほうがはるかに大きな問題であるという重要な指摘をしている。政府は徴税のために所得は追跡しているが、私有財産はウェルス・マネジャーたちによって巧妙に世界中のOFCに分散管理されているため、ほとんど把握できていない。ということは、われわれは経済的不平等の本当の規模と、その原因を知りえないなかでその問題について議論したり、解決策を探ったりしているわけだ。
村上世彰の『生涯投資家』を読むと、お金を動かす人たちは、舞台裏ではグローバルにつながっていて、その輪の内側にいる人と外側にいる人、輪の存在さえ知らない人と、世界はいくつかに完全に分かれていることがよくわかる。輪の中心にいる超富裕層がブラックホールのように世界の富を飲み込んでいく。そのすぐ外側にいるのがウェルス・マネジャーだろう。世界で富裕層に分類される1460万人の人々はアメリカのGDPの3倍に近い富を有し、経済規模で世界上位15か国の総額を上回っているという。格差の頂点にいる彼らは下から富を吸い上げているが、下からその姿は見えない。その間をウェルス・マネジャーたちが遮っているからだ。そして彼らは最上階が富を相続し続けることに奉仕する。富裕層は最高のウェルス・マネジメントチーム(投資顧問、会計士、弁護士)を雇い、彼らの助けによって、リスクを最大限に排除し、最大のリターンを得るような投資機会を確保し、増やした資産に税金がかからぬようOFCに分散し、次世代に継承する。
富を蓄積した富裕層階級が手にしているのは経済力だけではない、彼らは自分たちの利益に資するよう匿名のまま政治を動かし、法を破ることなく法の精神を無効化する特権的な立場を行使する。実際に税制度や国境検問は、超富裕層にとってはあってなきものなのだ。この現象を著者は「富裕層のためのパラレルな国家システムが生まれつつあり、このシステムはそれ以外の者が住まう世界を大混乱に陥れないかぎり、ほとんど気づかれないまま運営されている」と表現している。富裕層がその特殊な経済力や政治力を慈善目的で行使することについても「公に対する説明責任なしに教育や貧困などの社会問題に取り組み、功罪半ばする結果を生み出す」不安定要因と位置付け、たとえばビル&メリンダ・ゲイツ財団によるマラリア研究への支援は「発展途上国の国家制度を弱体化するカルテル」という見方をしている。しかるべき手順を経ない公的領域への介入は民主主義・法による統治の軽視であり、否定であるという点では多額の寄付も多額の税逃れも同列というわけだ。このスーパーリッチたちを国境を越えて取り締まることは限りなく不可能に近い。ならば、彼らの生命線ともいえるウェルス・マネジャーたちを取り込んで、彼らのリソースを活用していくしかないのではないか。それが本書の最終的な提案だ。国家の中枢にハッキングをしかけてくるハッカーたちを逆に味方につけてサイバーセキュリティを強化している例もあるが、ウェルス・マネジャーたちを味方につけるといってもそのためのインセンティブを用意できるだろうか。そもそも、ウェルス・マネジャー報酬は投資銀行のバンカーやトレーダーたちと比べると低い。彼らは知的好奇心を満たす仕事の内容や、普通なら近づけないような上流階級との接触などの金銭以外の報酬にひかれてその仕事についている。そう考えると、上流階級を「取り締まる」仕事にウェルス・マネジャーを引き込むのはそう簡単ではないだろう。格差の最大の原因は富の世襲であり、それを食い止めるには相続税の引き上げしかおそらく方法はない。誰もがわかっているが、それを可能にする見がかりはどこにも見当たらない。
ウェルス・マネジャーとは、こうしたごく少数の超富裕層の財産を政情不安、租税、離婚といったリスクや不利益から財産を守り、ローリスク(ローコスト)・ハイリターンの運用によって増やし、次世代に継承していくために雇われるプロフェッショナルである。租税回避など、合法的に国家を欺くことも仕事のうちであり(本書の表現を借りれば「倫理的にグレーの領域」)、顧客のプライバシー保護は絶対である。ゆえにウェルス・マネジャー自身の活動もベールに包まれている。世界人口の0.7%が世界の資産の41%を所有するという異常な不平等をもたらした富の流動性の低下と、それによる階層の固定化をもたらす一翼を担った知られざるプロフェッショナル集団に光を当てることで、「誰が、どのようにして、事態を維持させているのか突き止める」が研究の主課題である。
ウェルス・マネジャーのルーツは中世イングランドの封建制度の慣行にあるという。かつては友人か親戚が名誉職として無償で財産の受託者を引き受けていたが、扱う財産が土地から金融資産に変わっていくにつれて、受託者も武力を背景とした不動産の守護者から法的な操作を駆使する金融資産のポートフォリオの管理人へと役割そのが変わり、専門職化していった。
社会学者である著者は、STEP(Society of Trust and Estate Practitioners)という、ウェルス・マネジャーの業界団体の資格認定プログラムに「没入」し、エスノグラフィー(行動観察)の手法を用いてこの特殊な業界の役割や仕組みを調べた。ウェルス・マネジャーのその仕事の内容を一言でいえば「法的手段と金融技術を用いて、一世代の剰余金を代々受け継ぐ財産に変える」ことである。その舞台となるのがオフショア金融センター(OFC)だ。ニコラス・シャクソンの「社会に金を払うことなく社会から恩恵を得ることを目的とした、裕福で力のあるエリートの構想」という言葉で的確に説明されているOFCは、法的にはつぎはぎ状態の国民国家体制の脆弱性を突いた「規制と説明責任から自由な地域」である。異なるOFC同士が富裕層の財産を誘致するために競合し、オンショア国家の法務当局はは富裕層の国内からOFCへの財産の流出を追及する。ウェルス・マネジャーの仕事は、顧客がオンショア国家の課税を逃れるため、異なるOFCに富を分割し、信託・法人・財団をツールに使って“イノベーティブ”に管理することだ。中国の富裕層は香港とケイマン、裕福なインド人はモーリシャス、南米の金持ちはパナマ、ロシア企業はBVI(イギリス領バージン諸島)と、オンショア国家の地理的、政治的、法的な条件によってそれぞれ使い勝手のよいOFCが存在する。パナマ市を拠点とする置く一軒のウェルス・マネジメントから流出した「パナマ文書」には、世界のVIPたちが名をつらねていたが、これはパナマが近年、ニッチな競争力でOFCとして人気を高めていたからだという。
このオフショア金融の利用が「貧しい者から止める者へと富と権力を移動させた史上最大の力」(ニコラス・シャクソン)といもいわれている。オフショア金融のプロがウェルス・マネジャーだ。本書の第5章「ウェルス・マネジメントと不平等」では、所得(フロー)の不平等よりも富(ストック)の不平等をほうがはるかに大きな問題であるという重要な指摘をしている。政府は徴税のために所得は追跡しているが、私有財産はウェルス・マネジャーたちによって巧妙に世界中のOFCに分散管理されているため、ほとんど把握できていない。ということは、われわれは経済的不平等の本当の規模と、その原因を知りえないなかでその問題について議論したり、解決策を探ったりしているわけだ。
村上世彰の『生涯投資家』を読むと、お金を動かす人たちは、舞台裏ではグローバルにつながっていて、その輪の内側にいる人と外側にいる人、輪の存在さえ知らない人と、世界はいくつかに完全に分かれていることがよくわかる。輪の中心にいる超富裕層がブラックホールのように世界の富を飲み込んでいく。そのすぐ外側にいるのがウェルス・マネジャーだろう。世界で富裕層に分類される1460万人の人々はアメリカのGDPの3倍に近い富を有し、経済規模で世界上位15か国の総額を上回っているという。格差の頂点にいる彼らは下から富を吸い上げているが、下からその姿は見えない。その間をウェルス・マネジャーたちが遮っているからだ。そして彼らは最上階が富を相続し続けることに奉仕する。富裕層は最高のウェルス・マネジメントチーム(投資顧問、会計士、弁護士)を雇い、彼らの助けによって、リスクを最大限に排除し、最大のリターンを得るような投資機会を確保し、増やした資産に税金がかからぬようOFCに分散し、次世代に継承する。
富を蓄積した富裕層階級が手にしているのは経済力だけではない、彼らは自分たちの利益に資するよう匿名のまま政治を動かし、法を破ることなく法の精神を無効化する特権的な立場を行使する。実際に税制度や国境検問は、超富裕層にとってはあってなきものなのだ。この現象を著者は「富裕層のためのパラレルな国家システムが生まれつつあり、このシステムはそれ以外の者が住まう世界を大混乱に陥れないかぎり、ほとんど気づかれないまま運営されている」と表現している。富裕層がその特殊な経済力や政治力を慈善目的で行使することについても「公に対する説明責任なしに教育や貧困などの社会問題に取り組み、功罪半ばする結果を生み出す」不安定要因と位置付け、たとえばビル&メリンダ・ゲイツ財団によるマラリア研究への支援は「発展途上国の国家制度を弱体化するカルテル」という見方をしている。しかるべき手順を経ない公的領域への介入は民主主義・法による統治の軽視であり、否定であるという点では多額の寄付も多額の税逃れも同列というわけだ。このスーパーリッチたちを国境を越えて取り締まることは限りなく不可能に近い。ならば、彼らの生命線ともいえるウェルス・マネジャーたちを取り込んで、彼らのリソースを活用していくしかないのではないか。それが本書の最終的な提案だ。国家の中枢にハッキングをしかけてくるハッカーたちを逆に味方につけてサイバーセキュリティを強化している例もあるが、ウェルス・マネジャーたちを味方につけるといってもそのためのインセンティブを用意できるだろうか。そもそも、ウェルス・マネジャー報酬は投資銀行のバンカーやトレーダーたちと比べると低い。彼らは知的好奇心を満たす仕事の内容や、普通なら近づけないような上流階級との接触などの金銭以外の報酬にひかれてその仕事についている。そう考えると、上流階級を「取り締まる」仕事にウェルス・マネジャーを引き込むのはそう簡単ではないだろう。格差の最大の原因は富の世襲であり、それを食い止めるには相続税の引き上げしかおそらく方法はない。誰もがわかっているが、それを可能にする見がかりはどこにも見当たらない。









