「20世紀は精神分析とファシズムと映画の時代だった」とは誰の言葉であったか。ライヒが駆け抜けた生の軌跡を読むことにより、私たちは狂気の時代をたどり直すことができる。
フロイトの右腕として出発した若き精神分析医が、その性道徳の古さを嫌悪して決別し、独特のオルガズム理論を唱える。これは患者の性への罪悪感を開放し、健康的な性生活を取り戻すことで治療するというもので、人々の誤解を招いた。呼吸法やマッサージに目をつけたことから、60年代になりヒッピーたちに性解放の理論的指導者として再評価されることになるのだが。
マルクス主義に傾倒していたライヒは、精神分析と社会科学を統合した大衆療法を唱え「ファシズムの大衆心理」を著し、当時勃興していたナチズムを批判する。オーストリアに入れなくなりノルウェーに移住するが、性機能を交感神経の電気によって解明しようとし、生命科学へと大きく足を踏み外していく。
40年前後になりアメリカへ移住。有機物質の第一原理である通称オルゴンなる生命エネルギーを発見。田舎の農場を買い取り実験を続ける。その結果オルゴンボックスなる鉄の箱を作り、それで癌を治そうとしたり、クラウドバスター(雲退治機)を発明してオルゴンにより天候を操作しようとした。オルゴンによるUFO研究も進めていたという。50年代後半に精神鑑定を受け、獄中で没した。
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