「確実性の問題」というこの本は、ウィトゲンシュタインの最高傑作であり、最も感動的な著作であると自分は思う。例えば、こういう記述がある。
「われわれがドアを開けようと欲する以上、蝶番は固定されていなければならないのだ」
こういう言葉でウィトゲンシュタインが何を言おうとしているのか。説明するのは困難だが、彼は「疑い」というものが終息するポイントを探っている。「疑い」というものが止んだ時、人は信じる事を始める。信じるとは神を信じるとか人を信じるとかいうより、むしろ、当たり前に生きている事をそのまま受け入れるというような状態だと思う。
普通の人間は大地の存在とか、明日がやってくるという事柄を疑ったりしない。しかし、人の思念は疑おうと思えば疑う事はできる。この疑いはあらゆる懐疑、不信、憎悪にまで繋がるが、それがその機能故に、自己破壊する瞬間というものがある。そして、それが自己破壊する事を理解すると、疑う事自体が無意味になる。そういう地点まで行くと、ありきたりの世界が元に戻ってくる。つまり、人は例え、疑う事ができるとしても、「この世界」をこんな風に生きざるを得ないのだ、と。
自分は「確実性の問題」をそういう著書と読むが、ここにはウィトゲンシュタインの倫理の問題が刻印されている。ウィトゲンシュタインのヴィジョンの豊かさは死の前において最も輝かしかったと思っている。しかし、この見解もその内変わるかもしれない。それぐらいにウィトゲンシュタイン哲学は謎に満ちていて、同時に豊かさにも満ちている。
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