「怒りを歌え、女神よ」で始まる『イリアス』1万5千6百93行の一大叙事詩はホメロスによってまとめられる以前から既に伝承詩として語り継がれていたと言われる。その韻律を味わい、語り手の自由自在に変化する抑揚をイメージするには、日本語の散文訳ではどうしても限界がある。ちなみにYOUTUBEで古代ギリシャ語の朗読を部分的に聴くことができるが、自ずとその磨き抜かれた原文の美しさと語りとしての表現の可能性に驚かされる。こうした語り芸が祭日などの機会に盛んに行われていた時代を振り返ってみる必要があるだろう。松平氏の訳出では物語の筋と展開が分かり易く日本語としても自然だか、詩としての特性を犠牲にせざるを得なかったところが残念だ。それは西洋の文学作品を日本語という全く異なった言語に訳す際の宿命でもあり、逆に言えば俳句や和歌をその韻律を保持して外国語に訳すことが至難の技であることを考えれば自明の理だ。このために訳に若干くどさが露呈して、繰り返される戦闘場面も表現的に変化の乏しいものになっている嫌いがある。その意味では呉茂一氏の韻律を日本語的に整えた詩としての創作は存外成功している。いずれにしても現存する最古とも言われる文学作品を、身近に体験できるチャンスを与えてくれた松平氏の丁寧な訳業に感謝したい。
この『イリアス』は上下2巻に分かれているが、上巻ではアキレウスとアガメムノンの確執と、第二歌での「軍船の表」でアカイア側の総ての船団の軍勢と、それを率いる将軍が語りつくされるのが圧巻だ。尚本書の構成として、各歌の始めにそこで語られる場面があらかじめ簡易に紹介されているのは親切な配慮だ。また訳注もかなり充実していて、専門的な予備知識の無い人が理解に苦しまないように工夫されている。ただし初めてこうしたギリシャの古典に触れる方は、呉茂一訳『ギリシャ神話』から「叙事詩の世界」の章でトロイア戦役の前夜及び本章とその後日談のあらすじを予習しておくと、一層理解を深めることができるだろう。
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