表題の通り、あくまで30年来のキングファンとしての評価になってしまいますので悪しからず。
惜しい、というのは、ピエロの怖さで前作を超えたいという部分と、原作の持つ要素を伝えたいという両方にチャレンジして、両方が半端になっているという印象です。
世間にはTV放映版のイメージがあるのもわかりますし、今回演じられた役者さんの工夫や熱演も伝わります。
しかし、ペニーワイズの恐怖や、この物語の本当に大事な部分はそこではないはず。
吃音症を持つ、からかいの対象であるビル(あえて原作中の表現で言えば「どもりのビル」)が、はみだしクラブの仲間という限られた環境において、「最高にクールな奴」と評されるように、彼らは不完全な互いの中に特別なものを見出し合っています。
これこそがただの仲良しグループとは違って、彼らをITと対峙するに足る存在にする「魔法」のひとつであり、この部分の描写が足りない為どうしても無理矢理感が残ってしまいます。
限られた時間で描くのは難しいとは言え、ビルが彼らの「絶対的なリーダー」になるエピソードを、ピエロシーン削ってでも何かしら入れられなかったかな。
新参のマイクにリッチィが「あいつがリーダーなんだ。何でかわからないけどわかるだろ?」とか言うだけでも。
また、ペニーワイズとしてのITの怖さは「本当に子供に好かれそう」な所にあるはずです。
物欲しそうに涎を垂らして「ハッ!いかんいかん!」みたいな表情があったり、途中からはもうただ怖い顔だけになっちゃったのは残念でした。
これはキングの他作品で登場する「きかんしゃチャーリー」にも共通する、子供にしかわからない怖さとして描かれる部分ですが、親しげに笑っているが故に恐ろしいという、「無邪気な狂気」、「人間の感情など持ち合わせていない」みたいなペニーワイズが見たかったなぁ…と。
それがあれば、ラストでITが残すセリフにも、続編でのITの行動原理にも、もっとしっかり意味を持たせられるのに。
後はこれも続編があるという前提での話ですが、エディの喘息(偽薬)、ビルのシルヴァー(自転車)、リッチィのジョークと「ビービー」(これはそもそも描写がなかったですが、仲間がリッチィのジョークや物真似に対して言う愛あるブーイングです)はもう少し丁寧に描いて欲しかった。
大人になった彼らが、子供の時に確かにあった魔法を取り戻すのに、非常に大きな意味を持つ=続編でもキーポイントになる伏線となったはずです。
長くなってしまいましたが、総じて言えば「IT=ピエロが怖い映画」というイメージに引っ張られ過ぎたのかなぁというところです。
未読の方は是非、原作をご覧になって下さい。
厚めの文庫4冊分と、かなりのボリュームではありますが、読み進むうちに「ああ、もう最後の1冊か…ずっと読んでいたい…」となるはずです。
近年の熟成された作風のキング作品とはまた違った「瑞々しさ」や、それこそ「かがやき(シャイニング)」のような雰囲気に溢れた傑作ですよ。