① 新書版と言う紙幅のなかで、漏らさず語ろうとすると皮相な説明になりがちだが、本書は事実と背景に的確に踏み込むことにより、深い理解が可能になっている。英国現代史の初学者にとっても詳しい方にとっても有益な内容に富むと思う。
② 第二次大戦が英国にとって「良き戦争」であったと見方が存在すると言う指摘から本文は始まる。植民地や帝国主義的な野心ではなく、反ファシズム・民主主義の為の戦争として挙国体制の下に国民が団結し、上流階級にとっても庶民の愛国心を目の当たりにすることになる。このことが 戦後の福祉国家建設への機運につながったと説く。 また保守党のチャーチル首相の下で、戦時動員の実務を担ったのが労働党系閣僚(戦時連立内閣)で「平等な犠牲」と「平等な分け前」と言う理念が取られたことも背景にあると言う。 戦後初の総選挙で戦争に勝ったチャーチルが敗北し、労働党のアトリー政権が成立する。1960年代までは、労働党と保守党の何れが政権についても福祉国家のコンセンサスは程度の問題になる。日本にも大きな影響を与えた「揺りかごから墓場まで」と言う理想の登場である。著者のこの当たりの叙述には、共感がにじみ出ているように感じた。
③ 1970年代に入り、オイルショックや英国ポンドの弱体化などで、福祉国家が財政的に重荷になる一方、物価上昇に追いつかない賃金に対して労組がストライキを繰り返すようになる。ここでサッチャーの登場となるのであるが、この辺の説明は、中立的で事実を事実として述べているように思った。
④ 日本を含む世界の政治に影響を与えたサッチャリズムも1990年代に入ると失速し、労働党のブレア首相が唱える「第三の道」(伝統的な社会民主主義でもなく新自由主義でもない路線)の登場が、階級構成や産業構造の変化との関係で論じられる。興味深い分析が続くのだが、当否については判断が難しいと感じた。
⑤ 2010年にキャメロン首相の保守党政権となり、2016年のEU離脱国民投票、2017年の総選挙(保守党の過半数割れ、労働党の伸長)となるのだが、この当たりの著者の見方は、労働党のコービン党首と同氏を支持する若者達の運動「モーメンタム」に関心を寄せており、中道左派系の高級紙 『The Guardian』 に近いように感じた。
⑥ 本書は、政治の動きだけでなく、伝統的な階級社会の相対化、エスニックマイノリティーの発生と社会進出、ビートルズやミニスカートといった社会や文化の変遷にも目配りが及んでおり、広範な理解が可能である。
⑦ なお、著者は英国衰退論について、数字で見る限り当を得ていないとする。キャッチアップ型の成長国との比較で論じることの意味は無いと立場だ。また近年の民族主義の台頭といってもスッコトランド独立党は社会民主主義的で、イングランドのEU離脱派の排外主義とは異なるなど参考になる点は多かった。なおケン・ローチ監督の諸作品を始め、多くの映画が引用されているのは、一層の理解の助けになると思う。
この商品をお持ちですか?
マーケットプレイスに出品する
無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません 。詳細はこちら
Kindle Cloud Readerを使い、ブラウザですぐに読むことができます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
イギリス現代史 (岩波新書) 新書 – 2017/9/21
購入を強化する
第二次世界大戦を起点とする福祉国家体制の形成、「英国病」とサッチャリズム、そして現在へ、戦後イギリスのあゆみを描く通史。政治・経済のみならず、国際関係や、階級・文化をめぐる社会変容にも着目し、多角的な現代史像を提示する。EU離脱に揺れるイギリスの〈いま〉を考えるためにも求められる、歴史的な思考軸。
- 本の長さ224ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2017/9/21
- 寸法10.7 x 0.9 x 17.3 cm
- ISBN-104004316774
- ISBN-13978-4004316770
よく一緒に購入されている商品
この商品を見た後に買っているのは?
ページ: 1 / 1 最初に戻るページ: 1 / 1
商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
第二次世界大戦を起点とする福祉国家体制の形成、「英国病」とサッチャリズム、そして現在へ、戦後イギリスのあゆみを描く通史。政治経済のみならず、国際関係、また階級や文化をめぐる社会変容にも着目し、多角的で論争的な現代史像を提示する。EU離脱に揺れるイギリスの“いま”を考えるために求められる、歴史的思考軸。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
長谷川/貴彦
1963年生まれ。現在、北海道大学大学院文学研究科教授。専攻は近現代イギリス史、歴史理論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
1963年生まれ。現在、北海道大学大学院文学研究科教授。専攻は近現代イギリス史、歴史理論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2017/9/21)
- 発売日 : 2017/9/21
- 言語 : 日本語
- 新書 : 224ページ
- ISBN-10 : 4004316774
- ISBN-13 : 978-4004316770
- 寸法 : 10.7 x 0.9 x 17.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 113,458位本 (の売れ筋ランキングを見る本)
- - 33位イギリス・アイルランド史
- - 406位ヨーロッパ史一般の本
- - 531位岩波新書
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
カスタマーレビュー
5つ星のうち3.9
星5つ中の3.9
15 件のグローバル評価
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
ベスト1000レビュアー
Amazonで購入
16人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2018年4月20日に日本でレビュー済み
戦後イギリス政治・社会・経済の流れをまとめた本です。上手にまとめてくれているので非常に読みやすく勉強になりました。
イギリスの政治というと小選挙区制をもとにした二大政党制であり、反対な考えを持つ二大政党が意見を戦わせ、選挙で勝った方が政権を担うという単純なイメージを持っていました。この本を読むと、勿論そういう側面はあるものの、もう一つの側面として二大政党の間に時代ごとのコンセンサスがあり、そのコンセンサスが変遷してきた、という面もあるようです。見かけの対立よりも背景にあるコンセンサスに着目するといろいろなことが見えてくるように思えました。
具体的には、サッチャリズム以前の社会では、労働党のみならず保守党も福祉国家の建設に積極的であり、サッチャリズム以降は保守党も労働党も国家の福祉への介入を減らしていくというコンセンサスがあったようです(戦時中のチャーチル政権の中に総力戦体制の実務担当者として労働党の閣僚が入っていたり、文化的テイストの異なるサッチャー政権とブレア政権が、国家の福祉への介入を減らすという点で一致していた、などはその例)。本書は単純に政権担当党の変遷を追うのではなく、このようなコンセンサスの変遷を重視しています。「戦中の総力戦体制の残滓」→「福祉国家の建設」→「サッチャリズム、第三の道による小さな政府」→「?」という流れでとても分かりやすかったです。
現状はEUの離脱やコービン労働党の躍進などこれまでとは違う動きもあり、これからどういうコンセンサスに向かっていくのか注目です(コンセンサスが得られない可能性もありますが)。
イギリスの政治というと小選挙区制をもとにした二大政党制であり、反対な考えを持つ二大政党が意見を戦わせ、選挙で勝った方が政権を担うという単純なイメージを持っていました。この本を読むと、勿論そういう側面はあるものの、もう一つの側面として二大政党の間に時代ごとのコンセンサスがあり、そのコンセンサスが変遷してきた、という面もあるようです。見かけの対立よりも背景にあるコンセンサスに着目するといろいろなことが見えてくるように思えました。
具体的には、サッチャリズム以前の社会では、労働党のみならず保守党も福祉国家の建設に積極的であり、サッチャリズム以降は保守党も労働党も国家の福祉への介入を減らしていくというコンセンサスがあったようです(戦時中のチャーチル政権の中に総力戦体制の実務担当者として労働党の閣僚が入っていたり、文化的テイストの異なるサッチャー政権とブレア政権が、国家の福祉への介入を減らすという点で一致していた、などはその例)。本書は単純に政権担当党の変遷を追うのではなく、このようなコンセンサスの変遷を重視しています。「戦中の総力戦体制の残滓」→「福祉国家の建設」→「サッチャリズム、第三の道による小さな政府」→「?」という流れでとても分かりやすかったです。
現状はEUの離脱やコービン労働党の躍進などこれまでとは違う動きもあり、これからどういうコンセンサスに向かっていくのか注目です(コンセンサスが得られない可能性もありますが)。
2017年10月26日に日本でレビュー済み
トランプ現象やEU離脱で揺れる英米の新自由主義。本書は、その限界を見極めつつ、新たな時代の到来を予感させる物語の構成を取っている。政治学者のアンドルー・ギャンブルは、リーマンショック後の現在の経済不況は、1930年代の大恐慌、1970年代の石油危機に続く「第三の危機」であると述べたが、それぞれの危機に対応して福祉国家やサッチャリズムが登場したのならば、現在もまた新たなシステムを登場させることになる。それが新自由主義の再編強化=「サッチャリズム2.0」なのか、コービン現象にみる福祉国家の再建=「社会主義2.0」なのかは定かでないが、本書はそうした転換期における歴史像の変革を意図する野心的な書といえる。たとえば、1970年代は「英国病」と呼ばれる危機と混乱の時代で、それを克服し繁栄をもたらしたのがサッチャーだという通俗的な新自由主義の「成功物語」に代えて、「自己実現と自己決定権を高める可能性の時代」でもあったことを強調している。「英国病」の実態を統計資料と比較から明らかにし、1970年代に失われた選択肢を掘り起こす点には刮目すべきものがある。政治・経済・社会・文化のあいだの関係性に着目しながら、著者なりのバランスのとれた全体史を追求した点でも好感が持てる。文字通りの労作である。
2017年12月10日に日本でレビュー済み
戦中戦後イギリスの歴史は、興味深い。ぜひ知りたい対象である。
だから本書の登場はありがたい。
以前は黒岩徹の「イギリス現代政治の軌跡」を頼りにしていたが、
絶版となって久しい。
本書にはいろいろな話が載っているのはありがたいが、ややこなれていない感じがする。
第二次大戦が良い戦争か否かは、まあどうでも良い。
ヒトラーに強いられ、やむなく武器をとったのだから、良し悪しを論ずる意味がない。
むしろ結果としてアメリカに物資を頼らざるを得ず、物資は自分の船と海軍で運ぶしかなく、
つぎつぎにUボートや戦艦や航空機に沈められた。
英国にとってやむをえない戦争の結果、疲弊し、アメリカにやられ放題のところが
英国の出発点であった。
そういう強烈な前提が、本書には欠けている。
前提がないから、帝国が失われていくプロセスもはっきりしない。
だから本書の登場はありがたい。
以前は黒岩徹の「イギリス現代政治の軌跡」を頼りにしていたが、
絶版となって久しい。
本書にはいろいろな話が載っているのはありがたいが、ややこなれていない感じがする。
第二次大戦が良い戦争か否かは、まあどうでも良い。
ヒトラーに強いられ、やむなく武器をとったのだから、良し悪しを論ずる意味がない。
むしろ結果としてアメリカに物資を頼らざるを得ず、物資は自分の船と海軍で運ぶしかなく、
つぎつぎにUボートや戦艦や航空機に沈められた。
英国にとってやむをえない戦争の結果、疲弊し、アメリカにやられ放題のところが
英国の出発点であった。
そういう強烈な前提が、本書には欠けている。
前提がないから、帝国が失われていくプロセスもはっきりしない。
ベスト500レビュアー
読もうかな、やめようかなと立ち読みしていた時に、ゲイツケルの名前が出ていたのに目が止まったので読むことにした次第。
ゲイツケルは労働党右派の政治家。日本では、時事新書から『「共存」を挑まれて―イギリスの立場』 (1958年)が訳出されている。 この訳出された名著は、長谷川氏の本の参考文献にはあがっていないようだが。
彼と共に労働党右派の論客・クロスランドも登場し、彼の著作『社会主義の未来』に言及もしている。クロスランドといえば、関嘉彦氏の監訳で『福祉国家の将来1 2』 (論争社)が訳出されているが、参考文献に邦訳のものは見当たらない。英国労働党論といえば、関嘉彦氏の『イギリス労働党史』 (社会思想社)がすぐ浮かぶが、これまた「黙殺」されているようだ? 著者(長谷川氏)は1963年生まれ。僕よりちょっと若いぐらいだから、こういう本は決して「古典」ではないと思うのだが…。
1956年イギリス生まれで、オックスフォード大学大学院博士課程修了。ロンドン大学経済政治学部リーダー哲学博士の肩書を持つポール・ジョンソンの『節約と浪費 イギリスにおける自助と互助の生活史』 (慶應義塾大学出版会)は紹介されているが、同姓同名の、日本でもよく知られている『チャーチル 不屈のリーダーシップ』 (日経BP社)や『インテレクチュアルズ』『現代史』 (共同通信社)や『ユダヤ人の歴史 上下』 (徳間書店)の著者であるポール・ジョンソンは、これまた「黙殺」されているようだ?
長谷川氏の本の参考文献に、慶應義塾大学出版会の本以外に、 Paul Johnson 20th Century Britain…というのがあるけど、これはいわゆるポール・ジョンソンではなく、ロンドン大学の先生のポール・ジョンソンのほうだろう(と思う)。
まだ、この二人以外にも「ポール・ジョンソン」はいる。 『危ないNYをひとり歩きできる本』 (勁文社)という新書サイズの本(だったか)を見つけて買ったこともある。いま手元にその本が見当たらないので、詳しい履歴は分からないが…。ポール・ジョンソンって、よくある名前なのだろう?
英国病が喧伝され、サッチャー台頭のきっかけとなった1970年代の英国に関して、「危機や混乱の時代」として捉えるのではなく、それへの反証が近年英国の学界では出てきているとの紹介がなされている。それは、いわゆる「歴史修正主義」にはならない? なにしろ、1976年は「1950年以降で最良の経済的・社会的指標を示していた。完全雇用と平等化に基づく豊かな民衆の文化が開花し、民衆が自己決定権と自己実現を追求していった時代であった」と報告するシンクタンクもあるそうな? 丸い卵を切りようで「四角」ですよと言っているようなもの?
本書の行間になんとなく、そういった解釈に好意的なものを感じないでもないが、以前、読んだ、またこの本の参考文献にもあがっている森嶋通夫氏の『サッチャー時代のイギリス』のような酷さはない。あの本は、英国のストライキなど、統計上、そんなに酷くはなかったのに酷いというバカがいる…といった趣旨のことを書いていた(と記憶している)。山猫ストのように「統計」に現れないものの、実感としてストだらけの庶民感覚を無視した暴論を展開し、サッチャーに対する個人的悪感情を剥き出しにした内容だったかと。それに比べると、本書は客観的である。
その森嶋氏と「文藝春秋」で防衛論争をしたのが、先の関嘉彦氏だった。ゲイツケルのことも、彼の論文の中に出てきたのではなかったか。もう40年弱昔のこと。森嶋氏も関氏も死去しているが…。
ともあれ、『イギリス現代史』、ちょっと物足りなさを感じつつも、知識の整理整頓の上では参考になる本だったといえようか。英国労働党の問題点に関しては、ブライアン・マギーの 『哲学人 上下』 (NHK出版) が参考になる。ただ、この本の著者は反ソではあるものの、ゲイツケルには批判的だったかと?(記憶が薄れているが)。「現代史」に関しては、さまざまな立場の人の本を読み比べていくことが肝要。長谷川氏の本は、その中の一冊として読んで損はない本だと思う。
ゲイツケルは労働党右派の政治家。日本では、時事新書から『「共存」を挑まれて―イギリスの立場』 (1958年)が訳出されている。 この訳出された名著は、長谷川氏の本の参考文献にはあがっていないようだが。
彼と共に労働党右派の論客・クロスランドも登場し、彼の著作『社会主義の未来』に言及もしている。クロスランドといえば、関嘉彦氏の監訳で『福祉国家の将来1 2』 (論争社)が訳出されているが、参考文献に邦訳のものは見当たらない。英国労働党論といえば、関嘉彦氏の『イギリス労働党史』 (社会思想社)がすぐ浮かぶが、これまた「黙殺」されているようだ? 著者(長谷川氏)は1963年生まれ。僕よりちょっと若いぐらいだから、こういう本は決して「古典」ではないと思うのだが…。
1956年イギリス生まれで、オックスフォード大学大学院博士課程修了。ロンドン大学経済政治学部リーダー哲学博士の肩書を持つポール・ジョンソンの『節約と浪費 イギリスにおける自助と互助の生活史』 (慶應義塾大学出版会)は紹介されているが、同姓同名の、日本でもよく知られている『チャーチル 不屈のリーダーシップ』 (日経BP社)や『インテレクチュアルズ』『現代史』 (共同通信社)や『ユダヤ人の歴史 上下』 (徳間書店)の著者であるポール・ジョンソンは、これまた「黙殺」されているようだ?
長谷川氏の本の参考文献に、慶應義塾大学出版会の本以外に、 Paul Johnson 20th Century Britain…というのがあるけど、これはいわゆるポール・ジョンソンではなく、ロンドン大学の先生のポール・ジョンソンのほうだろう(と思う)。
まだ、この二人以外にも「ポール・ジョンソン」はいる。 『危ないNYをひとり歩きできる本』 (勁文社)という新書サイズの本(だったか)を見つけて買ったこともある。いま手元にその本が見当たらないので、詳しい履歴は分からないが…。ポール・ジョンソンって、よくある名前なのだろう?
英国病が喧伝され、サッチャー台頭のきっかけとなった1970年代の英国に関して、「危機や混乱の時代」として捉えるのではなく、それへの反証が近年英国の学界では出てきているとの紹介がなされている。それは、いわゆる「歴史修正主義」にはならない? なにしろ、1976年は「1950年以降で最良の経済的・社会的指標を示していた。完全雇用と平等化に基づく豊かな民衆の文化が開花し、民衆が自己決定権と自己実現を追求していった時代であった」と報告するシンクタンクもあるそうな? 丸い卵を切りようで「四角」ですよと言っているようなもの?
本書の行間になんとなく、そういった解釈に好意的なものを感じないでもないが、以前、読んだ、またこの本の参考文献にもあがっている森嶋通夫氏の『サッチャー時代のイギリス』のような酷さはない。あの本は、英国のストライキなど、統計上、そんなに酷くはなかったのに酷いというバカがいる…といった趣旨のことを書いていた(と記憶している)。山猫ストのように「統計」に現れないものの、実感としてストだらけの庶民感覚を無視した暴論を展開し、サッチャーに対する個人的悪感情を剥き出しにした内容だったかと。それに比べると、本書は客観的である。
その森嶋氏と「文藝春秋」で防衛論争をしたのが、先の関嘉彦氏だった。ゲイツケルのことも、彼の論文の中に出てきたのではなかったか。もう40年弱昔のこと。森嶋氏も関氏も死去しているが…。
ともあれ、『イギリス現代史』、ちょっと物足りなさを感じつつも、知識の整理整頓の上では参考になる本だったといえようか。英国労働党の問題点に関しては、ブライアン・マギーの 『哲学人 上下』 (NHK出版) が参考になる。ただ、この本の著者は反ソではあるものの、ゲイツケルには批判的だったかと?(記憶が薄れているが)。「現代史」に関しては、さまざまな立場の人の本を読み比べていくことが肝要。長谷川氏の本は、その中の一冊として読んで損はない本だと思う。





