日本のビジネスパーソンに「ビジネスにおけるアートの必要性」を説いた新書「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか」(山口周)がベストセラーになって以来、様々な本が出版されてきた。画廊オーナーや大学教授は「教養」という側面でアートの有用性を説き、尖った個性的なオーナー社長などは自社の取り組みや成功事例を通して、アートを積極的に取り入れた経営の素晴らしさを喧伝してきた。
しかしアートをビジネスに応用し、実践するための統合的な理論書は現れなかった。どの本も個人的な体験談に基づいた成功譚レベルに留まっていたり、日本美術史や西洋美術史をビジネスパーソン向けの「自己啓発書」へ模様替えしたような教養書レベルに過ぎなかった。
もちろんそれはそれで部分的には役に立ったのだが、本当の意味でアートをビジネスに融合させるための深い洞察を得るまでに至った書籍はなかったと思う。
そんな中、2019年12月に満を持して発売されたのが本書である。本書は、ビジネスパーソンの個人的なアート経験が仕事へどのように好影響を及ぼし、アートの持つ力を自らの内側へ内在化させたビジネスパーソンがどのように事業を伸ばし、会社組織を活性化しうるのかを、わかりやすく解説。豊富な先駆者達の事例や大規模なサーベイ結果の分析とともに、分かりやすく「アート・イン・ビジネスのしくみ」として筋道立ててまとめてくれている。
読んでいて特に素晴らしいと感じたのが、優れた取り組みを残してきた国内外20社以上の先行事例やこれらの企業がコラボレーションしてきた50組以上の現代アーティストが紹介されていたこと。
そしてこれら企業内でのアート・イン・ビジネスの実践例を、タイプ別に分類整理してまとめてくれているので、自分の会社ならどういった実践へのアプローチが適しているのか一目瞭然なのも嬉しい。
また、本書は骨太な理論書であるにもかかわらず、非常に読みやすいのも特徴である。アート初心者でも理解できるよう、できるだけ専門用語、業界用語を廃した上で、いくつかのページを割いて初心者が現代アートに触れていくための最初の一歩まできちんとまとめてくれている親切設計である。
山口周のベストセラーによって、ビジネスにおけるアートの重要性への理解は日本のビジネスパーソンの間で徐々に進みつつある。2020年以降は、いよいよアートをどうビジネスの中で実践していくかがカギになってくるはずである。そんな時、ぜひまず手にとってしっかり読み込みたいのが本書である。
本書の目次冒頭で、「アートは教養から、実践の時代へ!」と誇らしげに書かれていたが、まさに本書が提案する「アート・イン・ビジネス」のフレームワークは、今後読者がアートとビジネスを融合させるためのビジネス戦略を立てる際に非常に有効になってくるのではないだろうか。
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