第1巻下では本書の中心テーマである「自由」と「平等」のパラドクスが本格的に論じられる。トクヴィルは民主主義の基本的な価値観を「平等」とみる。これはフランス革命が掲げた三大理念の一つだが、「平等」の進展が社会における「自由」の基盤を侵食することへの危機感がトクヴィルに本書を書かせたと言ってよい。革命は「平等」を希求して王権を打倒したが、実は王権こそが「平等」の推進者であった。王権は中央集権化をはかる過程で、大方の貴族階級と彼らが構成する中間団体の特権を剥奪し、王権という頂点を除いて、かなり「平等」な社会を革命以前に既に実現していた。このことを看破したのがトクヴィルの今一つの名著『旧体制と大革命』である。王権に寄生しながらも王権を牽制し得る貴族階級は、「専制」に対して「自由」を守る防壁であったが、「平等」を至上価値とする民主主義は「専制」と親和性が高い。したがって、より一層の「平等」を求めて容易に「多数者の専制」に転化し得る。
多数者が優位を占める社会では個人の卓越性は顧みられず凡庸が支配的となる。誰もが他人のことを気にかけて、他人に似ることで安心を得る。知らず知らずに 「自由」は蝕まれていく。さりとてトクヴィルは「自由」を擁護するために貴族階級を復活せよと主張するのではもちろんない。彼が「自由」を守る工夫としてアメリカ社会に見たものは、行政における地方分権、既成事実や慣習を判例として重んじる法律家精神、市民に政治意識と社会に対する義務感を植え付ける陪審制などである。かつての貴族階級に代わり、こうした諸々の制度や風習が、中央集権的国家から「自由」を守る防波堤となり得ると考えたのである。
後半ではアメリカ社会におけるインディアンと黒人の地位が論じられるが、ここでも「平等」意識についての凍りつくようなリアルな観察眼に瞠目させられる。奴隷制が存続していた南部諸州のほうが白人は黒人に愛着を持ち、黒人は白人の支配を当然のこととして受け入れる。奴隷制を廃止した北部では黒人ははるかに非人間的な扱いを受け、白人を羨望の眼差しで見つめる。マイノリティーが社会の中で権利を認められるようになればなるほど、彼らへの差別は激しくなるという逆説だ。絶対的な「不平等」より中途半端な「平等」のほうが社会に深い亀裂を生むというのは、綺麗ごとでは済まない人間の悲しい性なのかも知れない。ちなみに評者が参照した英訳版(抄訳)ではこの部分はカットされている。この一事をもって断定できることでは勿論ないが、アメリカにおけるトクヴィル受容の一面性を象徴しいているようにも思われる。
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アメリカのデモクラシー 1 下 (岩波文庫) 文庫 – 2005/12/16
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- ISBN-104003400933
- ISBN-13978-4003400937
- 出版社岩波書店
- 発売日2005/12/16
- 言語日本語
- 本の長さ480ページ
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
本巻に収めた第二部では、大国となりつつある米国で、デモクラシーが前例のない大規模に機能するには何が問題となるかを検証、後世の米ソ対立を予言する文章で締めくくる。「いつの日か世界の半分の運命を手中に収めることになるように思われる」。
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VINEメンバー
市民革命を達成したフランスの政治学者である筆者が、アメリカ民主政治の形成過程と統治機構の分析を通じて民主主義の本質について考察していました。
道徳を社会に具現化する法を定める権限が人民にあり、全員ではなくとも最大多数の利益のために政治が運営されることで、誤謬性を有しながらも地域社会を出発点として社会全体を巻き込み政治的活力を生み出す仕組みである、と民主主義の本質がとらえられています。
「民主制」政治機構の理念をイギリス人ピューリタンに負うところが大きいにもかかわらず「貴族制」の影が見え隠れする点、産業主義・保護貿易志向・中産階級中心の北部と農業主義・自由貿易志向・投機家中心の南部の差違、先住民や奴隷を除いた自由や財産所有権の保証、など現代にも重要な影響を及ぼしているような二重性が浮き彫りにされており、古典としてだけではなく今日的にも示唆に富む内容ではないでしょうか。
道徳を社会に具現化する法を定める権限が人民にあり、全員ではなくとも最大多数の利益のために政治が運営されることで、誤謬性を有しながらも地域社会を出発点として社会全体を巻き込み政治的活力を生み出す仕組みである、と民主主義の本質がとらえられています。
「民主制」政治機構の理念をイギリス人ピューリタンに負うところが大きいにもかかわらず「貴族制」の影が見え隠れする点、産業主義・保護貿易志向・中産階級中心の北部と農業主義・自由貿易志向・投機家中心の南部の差違、先住民や奴隷を除いた自由や財産所有権の保証、など現代にも重要な影響を及ぼしているような二重性が浮き彫りにされており、古典としてだけではなく今日的にも示唆に富む内容ではないでしょうか。





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