叙情散文詩としてはまあまあだが、SFとしては問題外。後書きによると作者は「SFを勉強」したらしいが、基礎教養が欠如しているため、描写が滅茶苦茶で見るに耐えない。基礎的な軌道工学を理解せずギャグのような背景になっている表題作(肉視可能な距離の人工衛星がほぼ同一軌道のステーションを追い抜く事はあり得ない)から、偶然不時着した(!)星が呼吸可能な大気と摂食可能な生態系を有している作品、高加速度に耐えるための人体改造で何故か深海で生存可能な鰓を追加する最終作まで、科学描写は一貫して滅茶苦茶である。
また、より大きな問題として、文章のレベルが低く、ちょくちょく引っかかる。例えば、主人公が「姉」と呼びその「姉」が「母」と呼ぶ人物について、突然その直後に第三者として描写される(あとから「姉」は単なる幼なじみとわかる)と言うような意味不明の文章が頻出する。これは韓国語と日本語のニュアンスの違いをすっとばして訳したせいなのかもしれないが、どちらにせよひどい文章である。そもそも、韓国名をカタカナ表記されても、本来の読者なら読み取れる性別等の感覚がつかめないので、翻訳はド下手としか言いようがない(関係性を書かずにいきなり固有名詞だけ出す文が多く、そもそも原文も酷いのだと思うが)。
いずれにせよ、せっかく選んだSFという題材を扱うのに相応しい知識や描写力はなく、散文詩としてみると文章が所々ひどい。ハヤカワは最近この手の政治スタンス重視の駄作を娯楽に紛れ込ませて盛んに訳しているが、もう少し真面目に目利きをして欲しいと思う。評価軸を思想に寄せて面白さに欠ける作品ばかり前面に出るようになってしまった、アメリカの真似をすることはないだろう。
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