虫は卵から幼虫、幼虫から蛹、成虫へと姿を変えていく。蟲ふるうよるにの『わたしが愛すべきわたしへ』は、彼らがまさしく変化というレベルではなく変態した結果、生まれた作品だと思う。それにはフロントマンである蟻の心の変化、感情の変化、或いは考え方の変化が大きく影響しているのだと思う。
作品ごとに、進化や変化をすることはあるが、ここまで変化は『変態』と呼んだ方がしっくりくるだろう。しかし、これは大きなメンバーチェンジをするのでもなければなかなか為し得ることではない。
それにはサウンドプロデューサに松隈ケンタ氏を迎えたことが大きな要素だろう。地をもぐり岩の下で生活をしていた蟲が空を飛び、森の中で生活をするのであれば、当然それまでの『やり方』を変えなければならない。
アルバムリリースに先立てて発表された1曲目『ホウセキミライ』、そして2曲目、タイトル曲『あたしが愛すべきわたしへ』はPVが公開されているのでぜひこちらを見てほしい。これまでの彼らにはない突き抜けた感じが前面にでいていまさに、このアルバムを象徴する曲だ。
しかし、3曲目『フリーダム!』は今後彼らのライブでは欠かせない曲になるのではないだろうか。さらに5曲目『オトナのうた』は、『フリーダム!』と合わせて、独特のフレーズや耳に残る『言葉』があるユニークな曲だ。
歌詞で言えば4曲目『金盞花』が印象的だ。恋愛について振られる側ではなく、振った側の気持ちを歌った曲になっていて新鮮である。
古くから彼らを知るファンにとってはやや面喰う部分もあるだろうが、蟲ふるう夜にの根底に流れている『暗』や『陰』はどれだけ強い光を放っても消えるモノではない。むしろ、これから先、さらにパワーアップする予感がある。いまどきのアニメやゲームのボスキャラは第3形態くらいまでは平気で変態する。蟲ふるう夜にはどこまでいくのか注目である。
ただ一つ残縁だったのは、個々の楽曲のアレンジはCD音源としてベストだと思うのだが、彼らの演奏を生音でもっと聞きたかったというのは欲求としてある。
それでもライブのパフォーマンスが健在であることを、リリース前の2回ほどライブを見に行った感想として付け加えておく。