もはや説明不要なまでに有名な和月伸宏先生の作品『るろうに剣心』の小説版です。
作者は黒碕薫先生(黒『崎』薫でしたが、今作で改名されたとの事)。
黒碕先生はるろうに剣心のジャンプ本誌連載前から和月先生のアドバイザーとして陰ながら支えてきた内縁の妻であり、現在は和月伸宏先生の奥さんでもあります。
小説家としてのお仕事もしており、武装錬金小説版を二冊出しており、ゲーム版武装錬金とWILD ARMS5のシナリオ原案も書いています。
ジャンプSQ本誌で連載中のエンバーミング(るろうに剣心キネマ版を執筆する為に2012年9月現在は休載中)でも、現地の歴史・文化を調べてサポートしていたり、SQ本誌にも情報をまとめたページが掲載される事もあります。
今作『るろうに剣心 銀幕草紙変』は、その黒碕先生が映画用に用意した脚本を元に描かれたるろうに剣心です。
理由は分かりませんが実際に劇場版には採用されなかったみたいなので、武田観柳や鵜堂刃衛が出ることからある程度は被る部分もあるかもしれませんが、一応別物に当たると思います。
劇場版は見てないので断言は出来ませんが、劇場版を見た方はこのレビューの情報から判断して下さい。
内容は、剣心が神谷薫と出会い、武田一味との決着が付くところまでを改変しつつまとめられています。
残念ながら蒼紫は登場しませんが、代わりに鵜堂刃衛、武田観柳一味などの適役は良い味を出しています。
登場人物は、剣心、薫、弥彦、恵、お妙、燕、左之助、斎藤一、浦村署長、山縣有朋、鵜堂刃衛、戌亥番神、武田観柳、外印(るろうに剣心完全盤に掲載された美形リファイン版)が作中から登場しています。
本書を読んだ感想ですが、上記の大人数の登場人物にそれぞれそれなりに見せ場(やネタ)もあり、原作既読でも楽しめる改変が自然な流れで話が紡がれていき、非常に構成が上手いと思いました。
ただ、幕末時代の情勢に対する説明が少ない事、戦闘描写が面白くないなど残念な点もありました。
生憎と学生時代のうろ覚え歴史力しかありませんので、西南戦争や幕末の維新志士などの話は作中でももう少し詳しく説明して欲しかったと思います。
戦闘描写についてはラノベ作家でも上手い人下手な人もいらっしゃいますので、こちらはあまり贅沢は言えませんが。
元々武装錬金二冊についても、『内容はともかく』文章はあまり上手い方だとは思いませんでした。
本書を読んでも武装錬金の頃からの成長の跡は伺えますが、残念ながら途中途中で色々と引っかかる文章だと思います。
よって、一個の読み物としての感想は、前半4、中盤5、終盤4、平均で☆4です。
ただし、るろうに剣心のノベライズとしてなら十分以上に個性的で、総合☆5つを付けても良いと思います。
序盤終盤などで再現されている少年漫画らしさは元々文章に表すのは難しいもので、原作通りといえば原作通りです。
特徴的なのが中盤から始まる民権家などの当時の政治要素で、エンバーミングで歴史・文化を調べた経験のある黒碕らしい濃い話になっており、明治時代のるろうに剣心という作品を深く掘り下げる内容になっています。
特に夜道を歩きながら剣心と薫が電灯を眺めて、灯りのなかった幕末時代と維新により生まれた新しい時代の変化を実感するシーンは、女性作家らしい柔らかさのある描写だと思います。
緋村抜刀斎の好敵手、斉藤一についても、本編やキネマ版では剣心に人斬りの闇を忘れさせない為に登場したキャラでした。
本書では藤田五郎(斉藤)が西南戦争で神谷越路郎(薫の父)と肩を並べて戦い、越路郎の最期を看取っていて心境の変化もあり、今も昔も相反するライバルというよりはかつて同じ時代を経験した同胞としての側面が強調されています。
対比する役としては刃衛が居ることも変化の理由の一つにもなっているのかもしれません。
本編では悪評高い弥彦も、行動自体が非常に子供らしく素直で(子供の域を超えてでしゃばる事もなく)、登場人物に関しては本編よりも深みを感じる部分も多いと感じました。
敵キャラも黒碕先生らしさに満ちあふれて魅力的です。
両手の筋を絶たれた為に両手に開けられた穴に刀を差し込んで戦う『偽』人斬り抜刀斎『鵜堂刃衛』、
『お金は神様、小銭は天使様』を信条とする巨大市場構築を目論む青年実業家『武田観柳』、
元御庭番衆であり武田観柳の裏側となり民権家たちを操る信念なき美青年『村上外印』。
無敵鉄甲の人には期待しない方良いと思われます。左之助用人数合わせです。
刃衛は冒頭で狂う前の新選組時代の姿も描かれ(既に半分狂っていますが)、武田観柳も本編の麻薬商人などという小悪党から一転、実業家らしく利益を求める悪党として描かれています。
神谷道場の買収についても、最初は相場以上の金額を出して誠実に交渉したり、それでも道場を手放さない薫の事を士農工商の格差がなくなった自由な明治時代で『未だに武家にしがみつこうとしている武家の象徴』と見るなど、原作からは考えられない真っ当なキャラになっています。
新時代になり、お金こそ全てだと思っている悪人ですが、裏は外印に任せて自分は表側に徹するなどの意外に身綺麗な(?)悪役で感心しました。
中盤は武田観柳含めて武田一味の手際の良さ、工作活動の流れが明治時代の文化と絡み純粋に面白い。
本書の魅力は武田観柳一味にあると言っても過言ではありません。
本書は次々と話が進み、本当に劇場版用と言っても差し支えない内容です。
それだけに原作再現の終盤が残念でなりません。
はっきり言えば、原作再現の部分が足を引っ張っていると思います(原作に向かって言うのはお門違いだと言うのも承知の上で。
原作通りというのも良し悪しで、中盤オリジナルで盛り上げて終盤で原作をなぞられるのは肩透かしを食らった感じで少々残念な気持ちになります。
逆に言えば終盤まではまるで別物のように楽しんでいたという事であり、次回作は結末含めて完全な別物としてもっと黒碕流で描いても良いのではないでしょうか?
最後の最後にシシオマコトの名前が出てきましたが、次回作の京都編を描かれるのでしたら黒碕先生のさらなる成長を期待しています。
反政府思想の月丘津南の浮世絵が出てきた時は彼も登場するのかと思いましたが、打倒政府の志々雄一派や煉獄破壊の件もあり京都編に混ぜてくるのが自然な流れですよね?
期待しています。
最後に、後書きで仲良く談話している原作者の和月先生と小説家の黒崎先生ですが、知らない人が見たらきっと原作者と小説家の方は仲が良いんだなぁと勘違いしますよ。
ちゃんと夫婦のイチャイチャアピールって書かないと。
Kindle 端末は必要ありません。無料 Kindle アプリのいずれかをダウンロードすると、スマートフォン、タブレットPCで Kindle 本をお読みいただけます。
無料アプリを入手するには、Eメールアドレスを入力してください。
