盲ろう(全盲かつ全聾)の東大教授・福島智をインタビューした体験について「この日ほど、新聞記者である幸せを感じたことはない(p.171)」という著者が、渾身の力を込めて描く福島の半生と、彼を取り巻く世界。
それだけ入れ込んだ対象にも関わらず、著者は感傷に流されない。
ひとつには、福島自身が「成功物語はうそっぽい(p.275)」「美談にしないように(p.291)」と釘をさしているせいだろう。
また、もうひとつ、「伝えたかったことはただひとつ。この世にいま、『福島智』という人が生きていること(p.291)」と記しながらも、本書の内容が、福島個人のことに留まらず、盲ろうの人、障害を持った人、そして普遍的な人間についての語りになっているからかもしれない。本書で語られる内容はユニバーサルなものだ。
「偉人扱い」は福島の忌避するところだろうが、彼の言葉のいくつかはやはり引用したくなる。
「差別で特に深刻なのは三つ。部屋を借りること、就職や仕事、そして結婚です。(p.141)」
「(能力主義について)能力の差があることを否定するのでもなく、能力の差によって一定の処遇の差があることを否定するのでもありません。否定するのは、能力の差とその人の存在の価値を連動させることです。(pp.204-205)」
「(障害者福祉と応益負担について)障害をもって生きる人の最低限のニーズを満たすための援助が『益』と呼べるでしょうか。(p.231)」
「(自立とは)自分の財布と相談して、今日の晩飯を何にするか自分で決め、デートの誘いができること(p.234)」等々。
ゆびさきの宇宙――福島智・盲ろうを生きて (岩波現代文庫) (日本語) 文庫 – 2015/2/18
生井 久美子
(著)
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本の長さ350ページ
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言語日本語
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出版社岩波書店
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発売日2015/2/18
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ISBN-104006032811
-
ISBN-13978-4006032814
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
目が見えず、耳も聞こえない。ヘレン・ケラーと同じような障害をもつ東大教授・福島智。三歳で目に異常がみつかり、四歳で右眼を摘出。九歳で左の視力も失う。一四歳で右耳、そして一八歳ですべての音も奪われる。無音漆黒の世界にただ一人。果てしない宇宙に放り出されたような孤独と不安。それを救ったのが母の考案した「指点字」とその「通訳」の実践だった。これまでいくつものバリアを突破してきた。生きること自体が戦いだ―。彼に引き込まれ、追いかけながら、考えた。生きるって何だろう。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
生井/久美子
朝日新聞記者。京都市生まれ。上智大学文学部心理学科卒。1981年朝日新聞入社。仙台支局、政治部をへて、医療や介護、福祉の現場取材を続ける。近年は「プロメテウスの罠」取材班で「残ったホーム」を連載。ファイザー医学記事大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
朝日新聞記者。京都市生まれ。上智大学文学部心理学科卒。1981年朝日新聞入社。仙台支局、政治部をへて、医療や介護、福祉の現場取材を続ける。近年は「プロメテウスの罠」取材班で「残ったホーム」を連載。ファイザー医学記事大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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ベスト500レビュアー
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2人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2017年7月23日に日本でレビュー済み
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朝日新聞の記者である生井久美子氏が盲ろう者の福島智氏に取材し、氏の生い立ち、近年の活動やその思想、日本の盲ろう者の社会環境について綴ったノンフィクションである。「ゆびさきの宇宙」というタイトルは魅力的だが、本書はこのタイトル自体の持つ深みには届いていないように感じられた。福島氏は本書の中で通訳者を介したコミュニケーションのとれない、見えず聞こえない場所を宇宙と形容している。つまり福島氏の言う宇宙は絶対の虚無といったニュアンスであり、本書のタイトルから想起されるのは豊かな広がりのある内部空間といったニュアンスだろう。このような齟齬があることが、読者の視線を定めにくくしてしまっている。あとがきに、
「伝えたかったことはただひとつ。この世にいま、「福島智」という人が生きていることです。」とあるが、正直、著者のこの姿勢はもの足りない。本人の持つ魅力をいかに伝えるか、ということは肝要であるとしても、本書では主に福島氏自身の言葉によってそれを伝えようとしており、著者は一歩引いたところにいるようである。著者自身がその魅力がどこから来るのか、ということを深く突き詰めて欲しかった。その問いかけは、同時に福島氏自身の思想にもつながるであろうし、社会に対して開かれた問いになったことだろうと思う。
「伝えたかったことはただひとつ。この世にいま、「福島智」という人が生きていることです。」とあるが、正直、著者のこの姿勢はもの足りない。本人の持つ魅力をいかに伝えるか、ということは肝要であるとしても、本書では主に福島氏自身の言葉によってそれを伝えようとしており、著者は一歩引いたところにいるようである。著者自身がその魅力がどこから来るのか、ということを深く突き詰めて欲しかった。その問いかけは、同時に福島氏自身の思想にもつながるであろうし、社会に対して開かれた問いになったことだろうと思う。
2011年6月2日に日本でレビュー済み
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この本の素晴らしさは他の方々が述べられているとおり。著者の生井さんの素直なお人柄と話の引出し方で、福島さんの像がくっきりと結ばれてゆく。
むしろ読み手がどこまで想像力をもって読み込むかで、得られる深さはいかようにも違ってくるという気がする。福島さんの言葉の意味をどこまで理解できただろうかと自問している。
レビューのタイトルは、本書の最後に出てくる、福島さんへの少女の質問だ。こどもというのはおそろしい。福島智にこんなことを聞くのである。
それに対する福島の答えには、まいった。多くの方に、ぜひ本書を最後まで読んでその答に出会っていただきたいと思う。ぼくらは、この福島のことばを味わうためにも生きていかなければならない。
いま、この時も、福島智は生きている。完全な暗黒と無音の世界のなかで。「宇宙空間に浮かんでるような感じ」で。
毎日、なにかの折りにそれを思う。そして彼が生きていることは、ぼくにとってすごく大きい。
むしろ読み手がどこまで想像力をもって読み込むかで、得られる深さはいかようにも違ってくるという気がする。福島さんの言葉の意味をどこまで理解できただろうかと自問している。
レビューのタイトルは、本書の最後に出てくる、福島さんへの少女の質問だ。こどもというのはおそろしい。福島智にこんなことを聞くのである。
それに対する福島の答えには、まいった。多くの方に、ぜひ本書を最後まで読んでその答に出会っていただきたいと思う。ぼくらは、この福島のことばを味わうためにも生きていかなければならない。
いま、この時も、福島智は生きている。完全な暗黒と無音の世界のなかで。「宇宙空間に浮かんでるような感じ」で。
毎日、なにかの折りにそれを思う。そして彼が生きていることは、ぼくにとってすごく大きい。
2017年5月24日に日本でレビュー済み
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ご本人が書かれているシーンを、生井さんが書くとこうなるのかぁ! という4D的な鑑賞ができました。恋愛のことや共依存、常に接触している状態が日常であること、障害者の家族の気持ち、「福島さんの妻」の立場、医者の見解…など、ご本人では書けない部分まで、多くの方に丁寧に取材して書いてくださっていました。きれいごとでは済まされない、当事者の気持ちや、様々な立場のもやもやした感情についても、細かに記述されてありました。おもしろかったです。
2009年8月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
数ヶ月前に見たNHKの爆笑問題の番組で、福島智さんを知りました。
全盲ろうという極限の状態にありながら東大の教授という地位にあり、それより何より人柄の明るさ、機転が利いたユーモアに惹かれ、心に残っていました。
新聞の書評でこの本を知り、すぐ購入しました。
福島さんは幼い頃から、片目づつ見えなくなり、更に片耳づつ聞こえなくなります。
その過程の本人や親の苦しみが胸に迫ります。
しかし、彼は言います。「目が見えないことも耳が聞こえないことも辛い。しかし1番辛いのは他者とコミュニケーションがとれないことだ。地球から引き剥がされて真っ暗な宇宙空間に一人だけ放り込まれた様な感じがする。」と。
人間にとって、他者とのコミュニケーションは魂の命綱なのだという主張に共感します。
そして、人間にとって1番重要なことは生きていること、それだけでもう人生という試験の95点位は取れているという言葉に励まされます。
福島さんの世界をもっと知りたくて、お母様の書いた本、奥様の書いた本も立て続けに読みました。
一人でも多くの人に福島さんを知ってほしい。
人生に疲れている人に生きる勇気を与えてくれる本だと思います!
全盲ろうという極限の状態にありながら東大の教授という地位にあり、それより何より人柄の明るさ、機転が利いたユーモアに惹かれ、心に残っていました。
新聞の書評でこの本を知り、すぐ購入しました。
福島さんは幼い頃から、片目づつ見えなくなり、更に片耳づつ聞こえなくなります。
その過程の本人や親の苦しみが胸に迫ります。
しかし、彼は言います。「目が見えないことも耳が聞こえないことも辛い。しかし1番辛いのは他者とコミュニケーションがとれないことだ。地球から引き剥がされて真っ暗な宇宙空間に一人だけ放り込まれた様な感じがする。」と。
人間にとって、他者とのコミュニケーションは魂の命綱なのだという主張に共感します。
そして、人間にとって1番重要なことは生きていること、それだけでもう人生という試験の95点位は取れているという言葉に励まされます。
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一人でも多くの人に福島さんを知ってほしい。
人生に疲れている人に生きる勇気を与えてくれる本だと思います!